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フェンリルの章

将軍と議員

 二人の子供がいた。


 二人はとても仲が良く、いつも一緒に遊んでいた。


 おままごとのように将来を誓いあった二人は、大人の都合で引き離されてしまう。


 男の子が、親の仕事で遠い異国の地に引っ越したのだ。


 どこにでもある、極々ありふれた別れ。




 だが、この出来事が人類の未来を大きく変える事となる。


◇◆◇


「あ~っ、クソ!」


 仰向けになったまま悪態をついた。我ながら物凄くみっともない。


「リ・フリジィ!」


 回復の魔法。


……最悪だ。


「どう? まだ痛いところはある?」


「ええ、心が」


「ぷっ、何それ?」


 笑いながら、さっきまで犬人の娘が座っていたベンチに腰かける彼女。


「たいちょ……神無殿」


 そんな若い女性の姿に、つい見とれてしまう俺は更にどうしようもなくみっともなかった。


「今、隊長って言いかけたでしょ。もう一年も元老議員やってるのにな~」


 おどけた様子で俺を咎める彼女は獣型の狼人。体毛は完全な白。完全に全てが白の狼人は珍しい。華奢な身体をしているが、見た目に騙されてはいけない事をたっぷりと思い知らされた。


……たった今も別の女に思い知らされたわけだが。


 女って怖い。


「何か失礼なこと考えてない?」


「イエ、ソンナコトナイデスヨ?」


「なんで片言なの」


 薄目で突っ込みを入れ、更に言葉を続ける。


「それと、『様』はやめて。貴方はもう、将軍なのだから」


 俺は神無議員の笑顔に見とれながら、情けない姿を見られた事をひたすら悔やんでいた。


 あ~! 畜生!

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