神無隊長は、時折フラッとどこかに出掛ける事がある。
「隊長は?」
「外出だってさ。書類の決済を貰わないといけないのに」
そういう不審な行動は探らずにいられないのが俺だ。彼女の匂いを辿って後を追う。彼女は簡単に見つかったのだが……
彼女は、街を見ていた。
今にも泣き出しそうな表情で、ただ街を眺める神無隊長の姿は、何者をも寄せ付けない、ただならぬ気配を発していた。
おそらく、何人もの兵士がこの姿を見つけ、怯み、黙って帰ったのだろう。
俺はと言うと、見入っていた。綺麗だった。はっきり言って惚れた。ただ黙って見つめていると、
「貴方は、帰らないのね」
突然、彼女は口を開いた。
動揺した俺は、
「はい」
とだけ答えた。
何か、気の利いた言葉でもかけるべきだったなぁ。今更後悔しても後の祭りだが。
「生き別れのね、妹がいるの」
神無隊長は、ゆっくりと身の上話を始めた。俺はその場に立ったまま、黙って話を聞いていた。
とある名門の家に生まれた事。稀有な才能を持つが故に、軍人になる事が幼い頃から決まっていた事。
何をやってもそつなくこなせるので、世の中のどんな事にも真剣になれなかったが、妹が存在すると知ってから居場所を探すのに夢中になっている事。
そして、何故か妹の行方が、最高機密扱いである事。
「偉くなって突き止めてやろうと思ったけど、少佐ぐらいじゃまだ全然足りないみたい」
そう言って肩をすくめる彼女は、なんだか酷く疲れているようだった。
「見つかりますよ、絶対!」
俺は単純な男だ。彼女の話を聞いているうちに、この国の色々な闇の部分をぶち壊してやりたいと本気で考え始めていた。
「……ありがとう」
そう言って微笑んだ彼女は、実に可愛らしかった。
いつしか俺は、神無隊長に惚れ込んでいた。もちろん女性としても魅力的だが、どちらかというと軍の上司としてだ。
だから、彼女が軍を去ると聞いて酷く動揺したんだ。
「隊長!」
中庭でぼんやりしていた彼女に詰め寄った。
「竪牙軍曹、ちょうど良かった」
いつもと変わらぬ様子で、彼女は微笑んだ。
「退役するんですか?」
単刀直入に聞くと、彼女は意外そうな顔をする。
「あれ? 知らなかったの? 元老議員になるのよ、私」
え?
何故急にそんなことに。
「選挙に出馬するんですか?」
「選挙なんて、ただのパフォーマンスよ。誰が議員になるかは初めから決まっているの」
「だが、何故隊長なんです?」
「親の意向と、元老院の要求よ」
なんだそれは。人気のある神無隊長を議員にして、発言力を強めようというのか。
「……ねえ、ちょっと相手してくれない?」
今まで淡々と話していた彼女の口調に、力が入った。
「はい?」
相手?
いぶかしむ俺に、言葉を続ける彼女。
「暴れたい気分なの」