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大神の迷宮

 そこは、入口からしてまさに迷宮だった。


 他の六人と行動を共にすることはないと聞いてはいたが、入口でも他人の気配を感じない。本当に七人いるのだろうか?


「まあ、いいか」


 そんなことより、合法的にここを探索出来るという事実が何よりも俺を興奮させていた。


 大神の迷宮。


 墓ではあるが大規模な迷路になっており、安置所にたどり着くのは至難と言われる。


 何より皇帝陛下直々にここの管理をし、侵入者を排除しているのだ。余程の事がなければここに葬られた伝説の獣人の下へ到達出来る者はいないだろう。


 その余程の事が、今起こっていると言うわけだ。しかも俺がその当事者という奇跡的な事態。興奮しないわけがない。


「入ってすぐに十字路か。……うーん、まっすぐ!」


 あれこれ悩むのも馬鹿らしい。どんどん進んでマッピングしていけばいいさ。罠があったらその時はその時だ。


 しばらく進むと、突然床が無くなった。落とし穴というやつだ。


「うおお!?」


 とっさにレイキを鉤状にして壁につかまり、穴の底をうかがう。


 下の階……等というものは無く、円錐形の鉄が上方に向かって伸びている。針山だな。


「あのジジイ、殺意満点じゃねーか!」


 侵入を許可されたのだから多少は優しく迎えてくれるかと思っていたが、甘かった。


 まあ、俺の身体ならそのまま落ちても大したダメージは受けないがな。しかし、他の六人は大丈夫なのか?


 気にしてもしょうがないので、そのまま先へ進む。今度は扉と、これ見よがしな騎士像が二体。


「どうせ動き出すんだろ? さっさとかかってこいよ」


 挑発したが、微動だにしない。やれやれ、無粋な罠だ。スタスタと歩いて扉に手を掛け……


 ガシャン!


 両脇から剣が振り下ろされた。もちろん予測していたので危なげなくかわす。そして動き出した像に向かって、攻撃を加えた。


「はっ!!」


 武器を使わず、レイキを込めたパンチを喰らわす。しかし、壁に叩きつけられた像は何事もなかったかのように起き上がり、剣を構えた。


「へえ、頑丈じゃねーか」


 結構本気で殴ったんだけどな。本気で妨害してくるつもりだな?


 なら……


「貫け!」


 レイキを槍状に変化させ、像の胴体を力任せに突き通した。胴に大穴を開けられ、崩れ落ちる像。


「へっ、俺を舐めんじゃねえ!」


 もう一体も破壊して、扉を開けた。


 扉の向こうには、下り階段。どうやらやっと一層目を抜けたらしい。


「地下何階まであるか知らんが、これは骨だな」


 さすがにこんなにすぐ目的地に到達するとは思ってなかったが、先が見えないというのはやはりきつい。気合いを入れ直して下へ進んだ。



 地下は、想像していたのとは大分違っていた。なんだかよくわからない機械、機械、機械……


 墓というより研究所といった風情。何か情報が得られるかと調べて見る。


「普通に電気がついているが、電源はどうなってるんだ?」


 モニターには、意味のわからない文字列が表示されていた。


――Phul-Monato

――Ἄρτεμις


「フル、モナトー? ……わからん」


 何かの名前らしい。その後に続く長文は説明のようだが、わかりそうでわからない、不思議な言葉の羅列だった。


「とりあえず、英語ではなさそうだ」


――誰?


 急に、何者かが話しかけてきた。声の主を探して周囲を探るが、生き物の気配はしない。


「俺は竪牙。獅子丸元帥に頼まれて武器を取りに来た。オリンピアの七天使とかいうそうだが」


 変に駆け引きをするつもりはない。そもそも元帥閣下の命でここに来ているんだ。


――獅子丸……そう。


 声と共に、浮遊感に包まれる。これは、転送か?


 瞬時に視界がブラックアウトした。




 気がつくと、俺は宇宙空間にいた。いや、そう感じるだけで実際に宇宙にいるわけではないだろう。


 ただ、目の前には月があった。


 視界を埋め尽くす岩肌は、通常であれば何かは分からないはずだった。だが俺には『それ』が月だと、確信をもって言えた。


――あなたに、フルの力を授けましょう。


 どくん、と身体が拍動した。どこからとは言えないが、何かが入ってくる感覚。そして、身体の内からわき上がる凄まじいレイキ……


 俺には解る。


 フルと呼ばれる、月の力が自分の身体に宿ったのだ。


「これが、オリンピアの七天使か」


 フルって七天使の中でどの位置だ?


 最初の十字路でまっすぐ進んだのが唯一の分岐点だった。これで一番弱かったらお笑い種だな。


 何はともあれ、思っていたよりは短い迷宮探索が終了したのだった。

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