七神将は、明日から本格的な作戦行動に入る。
フェンリルは刀の手入れをしながら時代劇を見ていた。
「フンフーン♪」
大きな戦いを前にしても、余裕の態度である。彼にとって、戦は自分の力を誇示する舞台でしかなかった。
フェンリルの敵は人間ではない。他の神将に仕留めた敵兵の数で勝つ事しか考えていないのだ。
◇◆◇
「父上、どうかこのガネーシャの戦いを見ていて下さい。完全なる勝利を皇帝陛下に捧げます!」
象人の神将、ガネーシャが『父』に決意の表明をしていた。
「ああ、しっかりとお前の活躍を見せて貰うぞ、息子よ」
穏やかな笑顔で彼を激励するのは、元老議員・
親子の種族が違う事はまれにある。
だがガネーシャは叢の実子ではなく、養子であった。とはいえ、血が繋がっていなくとも彼は父を尊敬していた。
◇◆◇
「明日は美味いもんにありつけるかねぇ?」
大きな鎌を肩にかけ、愛用のショットガンを手入れしながら煙草をふかすのは、鰐人の神将セベク。彼はただただ、目前に迫る殺戮の時を心待ちにしていた。
「楽しみだにゃー」
そんなセベクに話し掛けるのは、猫人の神将バステトである。
「お前、なに勝手に人の部屋に入って来てんだよ」
咎めるような言葉だが、彼の口調は決して責めるようなものではなかった。
「えへへ、やっと堂々と一緒にいられるんだもん♪」
恋人のような言葉だが、彼女の態度は兄にじゃれつく幼い妹といった様子である。
◇◆◇
「準備は出来た?」
弾むような口調で尋ねるのは、元老議員の
「ええ、心配はいりません」
答えるのは、兎人の神将ツクヨミ。
「やっとあず……ツクヨミちゃんの出番だもんね! 頑張って活躍してきてね!」
前の名前を言いかけ、あわてて訂正する熊人。
「……あの怪物達に混じってそんなに活躍出来るとも思えませんけどねー」
ツクヨミは不安だった。
神将にはとてつもない怪物達が潜んでいる。自分があいつらと渡り合えるのか?
――だけど、やっと念願だった『あの子』の側に行ける。
そう思うと待ち遠しさも込み上げて来た。
「藤乃枝様、きっと任務を達成してみせます」
◇◆◇
「渚ちゃんは来てくれるかな?」
魚人の神将、ポセイドンは昼に町で声をかけた女の子の事を考えていた。
彼は七人の中でも、特別な使命を帯びていた。その為、他の六人とは違い部下を集めて戦に臨むのだ。決してナンパ目的で魚人の女の子に声を掛けたわけではないのである。決して!
◇◆◇
「ちょっと良いかな?」
マステマの部屋に、獅子丸が入って来た。
「どうしたの?」
気安い態度で迎え入れるマステマ。すぐに、彼が手に大きな砲を持っている事を気にする。
「なにその……大砲?」
「ふむ、これは無反動砲といって、前から弾を発射すると同時に、後ろから爆風を噴射して反動を軽減する武器じゃ」
武器の説明をしながら、マステマに差し出す。
「これ……芳紀様の匂いがする」
懐かしい匂いを感じ、複雑な表情をするマステマ。
「ああ、あやつが愛用していた物じゃよ。発射するのはレイキの塊でな、人間の戦車も簡単に吹き飛ばしていた」
「貰っていいの?」
「もちろん、そのつもりで持って来たのじゃ」
マステマは砲を受け取り、愛おしげに撫でた。
「通称、テンペストと呼ばれておる」
説明を聞きながら、武器を構えてみる。
「これで……誰を撃てば良いのかしらね?」
彼女は、何を憎めば良いのか分からなくなっていた。おそらく、憎むべき敵は人間ではない。だが、真犯人が誰なのかは未だ突き止められずにいた。
「……」
獅子丸は黙して語らない。
「まずは、戦果をあげて国民に犬人の将軍を認めさせなきゃいけない」
人間に恨みはないが、自分の目的のために犠牲になって貰わねばならない。彼女の目には、その覚悟が宿っていた。