国会では、たびたび父と対立する者がいた。父の主張はこうだ。
「我々国民は全て皇帝陛下の兵であり、その職務を全うする必要がある。職務とは、旧人類を打ち倒しこの地球にかつての青さを取り戻す事に他ならない。
であればその職務の遂行に必要な能力、すなわち戦闘能力の高い者ほど、国家への貢献度が高くなるという事ではないか。より国に貢献する者がより良い待遇を得られるのは当然というものである。
確かに、中には行きすぎた差別意識を振りかざす者もいる。だからといって能力差のある種族を平等に扱えば、今度は能力が高く国家に貢献する者達が不当に粗末な扱いを受けている事と同じではないか。
これは狼人等強い種族への逆差別である。
弱い種族の中でも例外的に強い者を能力に見あった特別待遇で迎えれば良いのだ」
まったくその通りではないか。我々は存亡をかけた戦争中なのだ。足手まといを優遇する必要などない。
それに対し異を唱える者、西方司令官芳紀中将の主張はこうだ。
「確かに我々は旧人類と戦争をしています。より強い者が求められる事は重々承知の上で意見させて頂けば、国家の運営に必要なのは兵士のみにあらず。
食料を生産する者、物資を流通する者、教育を行う者に娯楽を提供する者等々、非戦闘員も絶対に無くてはなりません。
そんな戦闘と関わりのない者達が、戦闘能力の高さで地位を決められるというのはあまりにも非効率的です。階級社会は軍の中だけで十分ではないですか!」
一見もっともな意見だが、それで全ての者を平等に扱えと言うのはあまりにも大雑把過ぎる。
戦わずとも貢献は出来るが、貢献しなくとも安楽に過ごせる立場の者はその権利に溺れ努力を忘れる。
そのような者は努力する者達の負担にしかならないのだ。
皇帝陛下は、芳紀の意見を聞く度に顔を曇らせている。陛下を悲しませるとは、言語道断!
私はどうすれば芳紀中将を大人しくさせることが出来るか考えたが、残念ながら頭が良いとは言えない私には良い解決策が思い付かなかった。
そこで、思いきって父に直接相談することにした。
「父上、私は芳紀中将の考え方が許せません。どうにか出来ないでしょうか?」
「芳紀殿か……彼は非常に優秀な軍人で陛下への忠誠心も
確かに国政の、とりわけ人種の取り扱いに関する部分では意見が合わないが、それだけだ。彼を憎んではいけないよ」
父は穏やかな口調で私をたしなめた。
「ですが、奴が発言すると決まって陛下は悲しい顔をなされます」
なおも食い下がると、
「陛下もお優しい方だからな。今はこの地球を汚染した人間達を倒し、奴等の手から世界を取り戻さなくてはならない為、非情にならざるを得ないのだ。
戦争さえ終わればという思いが、陛下のお顔を曇らせているのだ。本当は人種差別など陛下も私も望んではいない。お前もそれを肝に命じておきなさい」
そう言って、旧人類の犯した罪を教えてくれた。
汚染された土と空気、滅んで行った数多くの生物達……それは、学校で習った知識とは比べ物にならないほど詳細で、それまで漠然と『悪者だ』と思うだけだった旧人類に対する認識が、『滅ぶべき存亡』へと変わって行った。
芳紀中将への敵意は変わらなかったが、それよりも大事な事を知ったのだった。
それから、今度は武術の鍛練に明け暮れるようになった。
私は頭は良くないが、この大きな身体を活かして誰よりも多くの敵を倒すことが出来る。武技を磨く事が、あのお優しい陛下に私が貢献出来る唯一の道だと考えたのだ。
そんな私に、父は特別な武器をプレゼントしてくれた。巨大なハンマーのような武器で、アンクシャという名前だそうだ。
この武器は、新技術によりレイキを増幅させる力を持つらしい。試しにアンクシャで字面を打ち付けると地面が激しく振動した。
父に連れられて謝罪回りをするはめになったが、素晴らしい威力だとこっそり褒めて貰えた。