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第六神将ガネーシャ

「大樹、素晴らしい話がある」


 ある時、父がそう切り出した。


 軍に、新しい部隊を作るという。その一員として私が参加するという話だ。確かに、耳を疑う程の素晴らしい話だった。


「その前に獅子丸元帥から試練を与えられるそうだが、お前なら問題ない」


 元帥閣下からの試練とは、一体どのような試練を与えられるのだろうかと少し不安になりつつも、それを上回る喜びを感じていた。




「武器をな、取ってきて貰いたい」


 元帥閣下は、簡潔に試練の内容を語った。


 大神の迷宮と呼ばれる、伝説の獣人を葬った巨大な墳墓。そこに入ってオリンピアの七天使なる武器を手に入れる事が試練だという。


 墓を荒らす事に抵抗はあったが、その墓を作った本人である元帥閣下の指示なので仕方ない。


 迷宮に入ると、すぐに十字路があった。変に勘ぐって曲がるよりは、まっすぐ進んで違っていたら引き返せばいい。私はまっすぐ・・・・進むことにした。


 進んで行くと、突然壁から槍がつき出してきた。体の大きい私は素早く避けるようなスマートな対応は出来ないが、身体を覆うレイキが槍を受け止めた。


「この程度の罠で私を傷つけられると思ったら大間違いだ」


 次々と罠が襲ってくる。毒の仕込まれた矢が飛んできたかと思えば、床から針山が飛び出してきた。


 何処からともなく巨大な刃がぶつかって来たりもした。そして、それらのことごとくを私のレイキが弾き返していた。


「大した数の罠だ。並大抵の盗掘者なら既に命は無いだろう」


 だが、私には通じない。その事実に気を良くしながら、更に進む。


 また十字路があった。もちろんまっすぐ進む。しばらく罠は無く、ただひたすらに歩かされた。


「もう三十分はまっすぐに歩いているが、一体どれだけの広さがあるのだ?」


 長く歩いていることより、墳墓の広さに疑問が湧いてくる。噂では地下も深いと聞く。


 何故英雄とはいえたった一人の狼人のためにこのような大規模な迷宮を作ったのか?


 そんな疑問を考えていると、前方に扉が見えた。その脇には鎧の騎士……の石像が立っている。


「石で鎧や剣を再現する必要があるのか?」


 鎧なら、本物の金属鎧を置けばいい。石像なら、精巧な鎧を作る必要性を感じない。


 つまるところ、異常な存在なのである。


 私はアンクシャを構えた。


 案の定、動き出す石像。見た目からは思いもよらない程のスピードで駆け寄ってくる騎士像に、容赦なく武器を振り下ろした。


 一撃で粉々に粉砕される像。


 一目でわかる妨害者に手加減など、するつもりもなかった。扉を開けると、下り階段がある。迷わず下の階へと進んだ。


 そこは、不思議な機械が並ぶ研究室のような場所。モニターに映し出される文字は、アルファベットのようだが見慣れない単語ばかりだ。


――Aratoron-Saturno

――Δημήτηρ


「見出しに一単語だけある異質な文字はどこの言語だ? 見たことがあるが、思い出せない」


 アラトロンはわかるが、他の文章は読めそうで読めない。もっと勉強をするべきだった。


――誰?


 聞き覚えのない女性の声が私に話しかけてきた。


「私は大樹という。獅子丸元帥の命により、オリンピアの七天使をもらい受けに来た」


 何故だか、信用出来るような気がした。包み隠さず目的を話すと、更に声がした。


――獅子丸の使いね。


 途端に視界がブラックアウトした。身体を包み込む浮遊感に、転移させられたのだと理解する。


 視界に光が戻ると、目の前に謎の壁があった。完全に視界が壁に埋め尽くされているにも関わらず、『それ』が土星だと何故かわかる。


――貴方にアラトロンの力を授けましょう。


 アラトロンとは土星であり、天使である。そしてその力が私の中に流れ込んでくる。そんな、不思議な知識が脳内に浮かんだ。これも流れ込んできたのだろう。


 私は土星の力を手に入れたのだ。




「貴方の名前はガネーシャです。これまでの名は捨て、神将として戦に臨むのです」


 かつて山で見た時と変わらぬ姿で皇帝陛下が私に新たな名と地位を授けて下さった。


 驚いた事に、七神将の長は犬人で、副長は猫人だという。獅子丸元帥によると実力順だそうだ。


 例外はあると父も言っていたが、大したものだ。素直に、感心する。是非とも肩を並べて人間と戦いたい。




 私は、ガネーシャ。この地球に害をもたらす者達を、除去して見せよう!

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