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ー鼓動ー10

 今さっきの俺の言葉にみんなの注目が集まったのだが、俺からしてみたら何が起こったのかさえ分からなかった。俺的には本当に普通の事を言ったまでだ。って思っていたのだけど……


「やっぱ、兄さんって、雄兄さんもお陰で変われた!?」

「そうなのかもしれねぇなぁ。前まではこんなに素直じゃなかったしな」

「本当だよ」


 その二人の会話に俺の方がパニック状態だ。


「へ? え? ぇえ?! ちょ、今の俺っていうのは普通に答えただけだろー!」

「ふーん、普通にねぇ。それが、昔から望に付き合って来てた俺からしてみたら変なの!」

「はぁいい!? 変なの? っておかしくねぇ? 俺は普通の事を言ったまでだしさぁ」

「ま、いいや、とりあえず、明日からは雄介達は東京に行くんだろ? それで、今日は朔望達が診療所の方を手伝ってくれるんだろ? とりあえず、早くご飯食べないと時間に間に合わなくなっちまうぞ!」

「あ……!」


 和也のその一言で全員が壁にある時計を見上げる。


「ぁあ! もう、八時ちょっと前やんか、飯は出来ておるんか?」

「ああ、おう! そこは出来てるから、早く食べて行かないと!」

「おう! そうやんなぁ」

「……で、朔望はどうするんだ?」

「食べさせてくれるんだったら、食べるけど」

「あのなぁ、だったら、旅館の方で食べてくれば良かっただろうが。言っとくが、ここは四人分ギリギリの食事しかねぇんだからな」

「……って、診療所手伝って上げるって言ってるのに!?」

「はぁあああ!?」


 本当に朔望っていう奴は前からそうだったけど、言ったら直ぐに言葉が返って来る。 そこは昔から変わってない所なのかもしれない。


「それに、旅館での食事時間も終わっちゃってるでしょ。それなら、もう、僕はここでしか食べないといけないんじゃない?」

「じゃあ、朝からここに来る必要性も無かっただろ?」

「手伝いたいっていう意欲を和也は消しちゃう訳!?」

「ああ! もう! 分かったって! ご飯食べてけって言うの!」


 結局、和也は朔望には口で勝てそうもなかったようだ。


 俺はその二人の会話にクスクスとしていた。だって言葉が達者だと思われていた和也が完全に朔望には押されまくっていたからだ。


「その代わり、朔望はソファで食べろよなぁ。ダイニングテーブルの方は俺達の席なんだからよ」

「ま、そこは、仕方ないから折れて上げるよ」

「因みに朝の時間っていうのは会議する場でもあるからな」

「だったら、僕もそこに入った方がいいんじゃないのかな? だってさ、明日からは僕達がこの診療所にいる訳だしさ」


 その朔望の言葉に和也は大きなため息を吐いてしまう。


「ああ、まぁ、確かに、そうなんだけどよ」


 もう和也は完全に朔望には負けたという感じなんだろう。


「でも、席なんかねぇぞ。ココに誰かが来るっていう話は聞いた事がないからな」

「……ってか、普通、こういう事もあるかもしれない。って思って用意しておくもんなんじゃないのかな?」

「ない! それは絶対に無い話だな! ホント、そこは全くもって考えた事もないからな!」

「あ、そう、ま、そこはいいんだけど」


 その朔望の言葉に和也はもう一度ため息を漏らす。


 きっと今の和也からのため息っていうのは、勝ったという吐き方だったのかもしれない。

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