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ー鼓動ー9

 これで俺と雄介が東京に行く事が決まった。


「あ! そうだ!」


 そう朔望が急に何かを思い出したようで、大きな声で言って手を叩き出す。


 その朔望の言葉にみんなが注目していると、朔望は自分のポケットを漁り始め、それを手にすると、


「はい! 僕達の家の鍵!」


 そう言って俺にその鍵を渡して来る。


「……?」


 俺からしてみたら急に朔望の家の鍵を渡されても頭の中はハテナマークだった。寧ろ何も言わずに渡されると意味だって分からない状態でもある。


 暫く言葉を発せてない俺を見て朔望は気付いたのか、


「兄さん、そんなに不思議そうな顔してるけど、これ、僕達の家の鍵だからね。そうそう! あの昔、兄さん達が使っていた家っていうのは今、僕達が使ってるからさぁ」

「……ぅん、あ、ああ、それで?」

「って、まだ、分からない訳? ま、いいけどさ。今回、兄さん達は東京に行く事にしたんでしょう? だから、宿とかって予約してないじゃない? だからさ。確かに東京だったら、いきなりホテルとかに行っても泊まれるかもしれないのだけど、だけどさ、ほら、慣れてる家の方がいいと思ってね」

「あ、そっか! そういう事な。そっか! あの家って今は朔望達が使っておったって訳なんか!」


 そう雄介も今の朔望の言葉で俺に家の鍵を渡したっていう理由が分かった。そして前に俺達が使っていた家の鍵となれば懐かしくて興奮気味に言っていたのかもしれない。


「そうそう! 兄さん達が島に行っちゃったから、空いちゃった訳だし、譲るのも勿体ないだろうし、それにあの家っていうのは特別仕様になってるから、地下室にあんな部屋もある訳だしさぁ。 だから、僕達が使うって事になったんだよね」

「って、親達は朔望達が恋人同士なん知っておるんか?」

「違う! 違う! 多分、全くもってそういう意味で僕達に渡してくれたんじゃないと思うよ。 ってか、流石にそんな事、親に言える訳ないじゃん」

「ほな、二人でって?」

「ちょ、雄兄さん? それって、マジでボケてんの!? だから、そういう訳じゃないって言ってんでしょー。僕と歩夢は兄弟なだけなんだしさ」

「あ、そうやったなぁ」


 そう頭を掻いてる雄介。 


 ……ってなぁ、お前の場合には今のは本気でボケてたろ。


 って突っ込みたかった。


「だからさ、この鍵渡しておくよ。まだまだ、例の地下室っていうのは使ってるし、今回はそこで寝たら?」

「……って、それ、普通に言っておるんか? それとも、わざと言っておるんか? っていうのが分からんのやけどなぁ」

「ま、どっちの意味もかな? だって、二階の部屋っていうのはどっちも使ってるし、客間みたいなのは無いし、僕達の部屋はベッドメーキングみたいなのもしてないし、まぁ、いつもの状態で出て来ているから要は汚いって訳だ」

「へ? 掃除とかっていうのはせぇへんの?」

「流石に掃除とかっていうのは自分でやってるけどっ! 僕達がやってる仕事っていうのは忙しいのっ! だから、たまにしかやってないっていうのかな?」

「あ、ええか、そういう事なんやろうしな。 ほな、朔望のお言葉に甘えて、その家に泊まらせてもらうか」

「ああ、そうするか」

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