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ー鼓動ー54

 俺は未だに思い出せないでいる雄介にクスクスとしていた。


「本当なんだって。ま、今になって考えてみると、ホントそういう事も懐かしく感じるよな」


 と俺は最後の方は独り言のように呟くのだ。


 それでも雄介は未だに不思議そうな表情で見ている。


「ま、いんじゃねぇのか? 俺だけが覚えてたって」

「え? あ、まぁ、うん、そうやんな……」


 まだ何か考えているような雄介なのだが、


「とりあえず、俺に何か作ってくれるんだろ? 昔はこうハッキリと言えなかったんだけどさ、今なら、そうやって聞いてきてくれたらこう答えるかな? 雄介が作ってくれるんだったら、何でもいいんだよ……ってな」


 そう俺が言うと、その言葉に顔を真っ赤にさせたのは雄介の方だ。


「お、お前が顔を真っ赤にさせたら、それを言った俺の方が恥ずかしくなってくるだろうがっ!」

「あ、いや、望にそないな事を言ってもらえるとは思うてなかったから、なんや、俺って幸せもんなんやなぁーって思ってな」

「それで、顔を赤くさせてたのか!?」

「あ、違っ……たまたまそこは夕日がな、きっとそれが俺の顔にたまたま当たっておって、真っ赤に見えてたんと違うか?」

「……へ?」


 雄介の言葉に俺の方はもう一度、雄介の顔を見上げる。


 確かに夕日が雄介に当たっていて顔が真っ赤に見えていたのかもしれない。


 今だって雄介の顔は真っ赤に見えているのだから。


「……って事は、今の言葉で雄介は顔を赤くしてた訳じゃないのか?」

「今の望の言葉を聞いて幸せやなぁーと思っておったのは事実なんやけど、顔を真っ赤にさせておったのは分からへんな。もう、望がそういう言葉を言う事に俺の方はもう慣れて来たんと違うのかな?」

「だけど、さっき、俺がそういう事言った時には、言葉失ってたんじゃねぇのか?」

「ん? でも、平気な時は平気なんやって」


 これ以上言い合ってても仕方がないと思った俺は、


「ま、いっか、とりあえず、家に着いたしな」


 そう俺は独り言のように呟いて家の中へと入って行くのだ。


「それで、今日は何を作ってくれるんだ?」

「んー、今日は自分で買い出しに行けたからな、ハンバーグにしようかと思ってな」


 雄介は買って来た物を冷蔵庫にしまいながらそう言っていた。


 俺はキッチンの近くにあるダイニングテーブルへと腰を下ろす。


「そっか……ハンバーグな。何か手伝う事はあるのか?」

「ほな、野菜切ってくれるか?」


 ……それ位なら俺にも出来そうかな?


 そう思うと俺はダイニングテーブルから立ち上がり雄介に言われた通りに野菜を切りにキッチンへと立つ。

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