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ー鼓動ー85

 どうやら雄介はこの運転手に対して珍しく怒っていた様子だったのだけど、俺が宥めるような事を言うと言うのを諦めたようだった。


「ま、いいじゃん、こうやって、雄介が俺の体に自然と触れる事が出来たんだからさ」

「え? あ、そやな」


 こうも言っておけば雄介の機嫌だって治るだろ? ほら少し怒っていたような表情をしていた雄介だったけど笑顔になったしな。 そういう所って雄介っていう人間は分かりやすいっていうのかな?


 それを考えて俺の方はクスクスとしてしまっていた。


 そしてバスは目的地である春坂駅へと到着したようだ。


 俺の方は運賃箱にお金を払うのだが、雄介の方はさっき言っていたようにカードで運賃を支払う。


「ホント、そのカードって便利なんだな」

「あ、え? まぁ、確かにピッってするだけやしな。これやったら、今は駅の券売機で簡単に買えるで。確かに今後いらんのかもしれへんけど、この一週間は使うし買っておいた方がええんと違う?」

「あ、それもそうだな」


 と俺達はもう改札に向かいながら会話をしていた。


 そして俺は雄介の提案によって、その雄介が言っていたカードを買う事にする。


 券売機の前に立って、ただただ券売機を見つめてしまっている俺。


 そうだ。昔は切符しか販売してなかった筈なのに、今の券売機というのは今は色々と買えてしまうようだ。


 だから、どう使っていいのか? っていうのが分からなかった。


「えーと……雄介、これはどうしたらいいんだ?」

「え? あ、これな」


 雄介に分からない事を聞くと、雄介っていうのは文句言わずに優しく教えてくれる。そういう所は本当に好きな所だ。


 たまに馬鹿にしたかのように言う奴もいるけど、雄介は違う。


「ここのボタンを押して、後は機械に従ったらええねんで」

「あ、そっか。ほら、昔はさ、切符しか売ってなかったけど、今は色んな切符とかって売ってるんだろ?」


 その俺の言葉に雄介は何故か吹き出してしまっていた。


「……って、ホンマ、どんだけ電車に乗ってないねん! まさか、自動改札は知らんって訳はないやろ?」

「あー、それは流石に知ってるかな?」


 その俺の言葉に更に雄介は転けそうになっていた。


「ま、少なくとも車に乗るようになってからは、電車に乗る機会が無くなってたからな」

「ある意味、望はそこの所は浦島太郎状態なんやなぁ」

「え? あ、そうなのかもしれねぇな」


 そうそう雄介が言う浦島太郎状態っていうのは、気付いた時には時代は変わっていたという意味だ。

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