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ー鼓動ー84

 バスに乗ると、これまた快適な温度で保たれている。今まで掻いて来た汗がじんわりと蒸発していっているような気もして来るのだ。


 俺はハンカチで汗を拭っていたのだけど雄介はどうやらそのままでいるようだ。


「お前って汗拭かねぇの?」

「あ、そこはもう癖付いてないしな、消防士時代なんか消防服でおったし現場に出て拭ってる暇もなかったからそこは気にしないっていうんかな?」

「え? あ、そういうもんなんだな。でも、気持ち悪くねぇの?」

「あ、あー、そこは流石に慣れなんと違う? 別に気にならんしな」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんやと思うねんけど」


 俺は気にする事なく自分の汗を拭うとハンカチをしまうのだ。


 バスは確かに春坂駅に向かって走っているのだけど俺はバスには慣れていない。しかも今のこのお客さんの状況からして立っていた。


 バスという乗り物はバランスが問われる乗り物でもある。


 バスに慣れてない俺に加えて運動も苦手なのだから、そのバスの揺れに時折バランスを崩しそうになっていた。勿論、吊革に掴まっているのだけどバスの運転手が下手なのか、かなり揺らされてしまっている。


 特にバス停や信号で止まる際には気持ち的に急ブレーキを掛けているんじゃないかと思う位体が前へと持ってかれていた。


 きっとこれが上手い運転手だったらバスを止める時にスーという感じに止めてくれるんだろうが……今日はもしかしたら新人さんかな? って思う位だ。


 そしてまた……信号で少し前のめりになりそうな位にブレーキを踏む運転手さん。


 そのブレーキで完全に俺は体を前へと持ってかれそうになったというのか、持ってかれていた。幸いにも吊革を掴んでいたから完全に体が倒れる事はなかったものの、かなり倒れてしまっていたのか気付いた時には雄介の腕で俺の体は支えられていたようだ。


「え? あ……雄介?」

「あ、いや、スマンな……咄嗟に」

「あ、いや、それは、いいんだけどさ」


 雄介は俺から完全に視線を外してしまっている所から、もう外では俺に触れないようにしていたからなのか雄介は本当に申し訳無さそうに言っていた。


 だけど今のは流石に雄介に支えてもらってなかったら、もしかしたら完全には倒れるって事は吊革のおかげでなかったのかもしれないのだが、それでも若干倒れてしまった体を立て直すには時間が掛かってしまっていた所だろう。


 雄介は俺の体を起き上がらせると直ぐに手を離して行ってしまう。


「しかし……この運転手下手やなぁ」


 そう小さな声で言う雄介。


「え? あ、まぁな……」

「ブレーキの時にもう少し優しくしてくれたらええのに」

「ま、確かにそうだよな」

「人が倒れそうなブレーキの仕方しよって」

「え? あ、ま、いいじゃねぇか」

「良くないっ! けど、望がそう言うんやったらええか……」

「え? あ、うん……」

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