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ー鼓動ー88

 しかしここは春坂駅とは違って、この駅にはその他にも沢山の路線が混在している駅だ。こうやって人と人の肩がぶつかりそうな距離の中、ここから気持ち的に遠くに見える駅に向かわなければならない。


 久々の人の多さに俺は酔ってしまいそうだった。


 まだまだ、さっき見えていたホームまでの距離はある。


 俺は雄介の後に付いて行こうとするのだが、やはりこの人の多さでは雄介の事を見失いそうになっていた。


 だけど雄介っていうのは日本男性の平均身長より高いおかげで見失わないで済みそうだ。


 これが小さな子供を連れた親子や恋人達だったら手を繋いで離れないようにしてくれそうなのだけど男性同士ではそうはいかない。だから俺は必死になって雄介の後を追う。


 どうにか人混みの中を雄介の事を見失わないように追い掛ける。


 やっとさっき見えていたホームの改札に来たようだ。


 ホッとするのも束の間。まだまだ人が途切れた訳ではない。


 何百人、何千人と絶え間なく人々は改札の中へと吸い込まれて行く。


 しかも改札というのは今や交通マネーを利用する時代になったのだから瞬間的に改札を通れるようになったものの、それでも少しだけ間がある。


 そして俺の前にどんどんと人々が改札を抜けて行ってしまい、やっとの事で俺が改札を抜ける事が出来た頃には雄介の姿は何処にもなかった。


「はぁー、マジか……」


 俺はそこでため息を一つ吐く。


 雄介は何処に行ってしまったのであろうか? 行き先は? そうだ。行き先なんか俺に伝えてくれないまま行ってしまったようにも思える。


 俺は周りを見渡してみたのだけど、電車に乗り慣れてない俺はどのホームに行ったらいいのか? っていうのが分からない。そもそも、そこも問題だったのかもしれない。


 そうだ。俺的には雄介に付いて行けばいい。と思っていた事がそもそもの間違いだったという事だ。目的地を聞く事も忘れていたのだから。


「そういや、目的地聞くの忘れてたなぁ」


 そう呟いても後の祭りとはこういう事を言うのであろう。要は目的地の最寄駅を聞いてなかったのだ。


 人々が行き交う中、俺はその場でボーっと立ち尽くしていると、胸のポケットに入れておいたスマホがバイブレーションを鳴らし着信を知らせて来る。


「あ!」


 今までパニックになり過ぎて忘れていた事なのだが、今の時代というのはスマホがある。そうだ! 今まで島で暮らしていたから最近は滅多な事では使っていなかったものの雄介はスマホの存在を忘れてなかったという事だろう。そして俺はその電話へと出るのだ。


「あ、もしもし?」


 って、着信相手は見なくても、きっと雄介だろうと思ってた俺は画面を見ずにそのまま出てしまっていた。


『今、何処に居るん?』


 その声にホッとする俺。


 やっぱり画面見なくても良かった。その相手っていうのは雄介だったからだ。


「あ、まだ、ここは下にいるのかな?」

『下って?」

「ホームに登る階段があるから下なのかな? って思ったんだけど」

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