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第2話 悪質プレイヤー永久追放

「何しやがるてめえ~!クルクル道化師様に貰った大切なルナフェイクだぞ!」


誰だよ。

知らねえし…。

そのクルクル道化師様ってなんだよ!


怒りに満ちた剣士は突っ立ったままのアオシンに大剣を突き刺そうとした。


その瞬間、俺の体は再び、ふわりと宙を舞う。

攻撃を予期していたかのように軽やかな物だ。


なんだ?

さっきまでの感覚と何かが違う。

そして、目の前には半透明な小さなモニターが浮かんでいた。

そこに記されるのはおそらく、ステータスだ。


――ネーム:アオシン

――種族名:???

――ジョブ:均衡者パランサー

――Lv:5

――理星術リゼル:5

――耐久力:5

――腕力:5

――技術力:5

――知力:5

――魅力:5

――均衡力:5

――スキル:追放技:R5

      再生技:R5

――ゴールド:0ノクス 


全部、5かよ。まあ、それはいい。

なぜ、種族名が???なんだ!!

通常は何かしらの種族が設定されるはずだろうが…!!


そして、問題はもう一つ、均衡者なんてジョブを聞いた事がない点だ。

TEO内では初ログイン時においては剣士や魔法師マギスタ神官サクラメイト採取師フォリサーなどの基本ジョブからの選択が可能であるが、その派生ジョブはかなり自由度が高い。例えば、魔法師と弓使いを掛け合わせた魔弓師マギアーチャーとか、龍を操る剣士である龍骨師ドラグボーンと言った具合である。だが、それでも基本ジョブとの関連性は切り離せないものだ。しかし、このステータスに記されている均衡者というジョブはその設定に属していない。

少なくとも俺は初耳だ。


――“スキル”を発動しますか?”


疑問が湧き上がる中、再び、頭の中に声が流れてくる。

俺はまるで無意識のごとく頷いた。

すると、モニターはゆっくりと消え……。


――“初期スキル”を発動します。


頭の中の声はさらに言葉を続けるだけなのであった。


――”タイミングを見計らってください”


「タイミング?」


未だ状況がつかめない事を諦めて、足元のかすかな熱に視線は下へと向いていく。

すると、自分が履いているありふれたブーツが薄っすらと白く発光していた。


もしかして、蹴り技系に関連したスキルとかなのか?


「くそっ!ちょこまかと動き回りやがって…。まあ、ちょうどいい。新しい理星術リゼルのお目見えにちょうどいいかもな」


RPGにおける魔法的な力。

その名はTEOでは理星術と呼ばれている。


Lightning Oversoulライトニングオーバーソール!!」


高らかな宣言と同時に剣士が掲げる大剣から雷の渦が出現する。それらは周りの建物を壊し、隠れていた人々の体を貫いていく。

本来、攻撃系の理星術はルナーヴへの攻撃やバトルフィールドのみ効果が出るように設計されている。それがこんな街中で、しかもプレイヤー、NPC問わずダメージを与えているなどありえない。


「それは違法理星術イリーガルリゼルだな」

「ああん?なんか言ったか?」


剣士はアオシンの怒りに気づく事なく、振り上げた剣を叩き落とした。

その雷の渦の脅威はすぐそこまで来ていた。


「あぶない!」


叫ぶモブキャラの青年の声は弾ける雷の音のかき消される。


タイミングか。


アオシンは程よく筋肉のついた足に力を込め、蹴り上げる。


“スキル――“神裁刃ルーディングエッジ”発動。


頭の中で鳴り響いた電子音と同時に間近まで迫ってきていた雷を粉砕。

そして、放たれる淡い白色の光線が剣士を地面に叩き落とした。

それと同時に剣士の背中にも小さなモニターが出現した。


――のほほん栗鼠

――剣士

――罪状:拠点混乱扇動、異形改変…

     PK狩りおよびNPC狩り

     複数の虐待行為、データ改ざん。

     その他もろもろ…。


記されるのは無数の悪質行為の一覧。    


 「可愛い名前にしては悪質だな」


モニターにはその罪に相応しい奴の愚行の映像も次々と流れていく。

見るに堪えない。


「くっ!なんだよ。みんなやってることだろ!」

「みんなだと?ここは自分を表現するもう一つの世界だ。なりたい者、歩みたい日々。どんな夢も叶えるオープン型VRMMOとして作ったんだ。そこには社会があり、人生がある。けして、犯罪を推奨する無法地帯じゃねえんだよ」


――“このプレイヤーを永久追放しますか”


永久追放…。

だが、そんな事をしたってアカウントを変えて、またログインするんじゃないのか?


――“ご心配には及びません”

――“永久追放されたユーザーは名前を変えようがアカウントを変えようがTEOに足 

  を踏み入れる事はけしてできない”


アオシンの疑問に答えるように頭の中の誰かは説明する。


「何正義感ぶってんだよ。現実に出来ねえ事をやれるからゲームなんだろうが!」


そうだ。こんな事をするプレイヤーなら現実世界でだってろくな奴じゃないはず。

現実あっちで似たような事件を起こすぐらいなら、仮想であるこの世界で好き勝手させた方が…。


「おっ?ぐうの音も出ねえか?中途半端な奴はこのゲームにはいらねえんだよ。さっさと消えろよ」


悔しい。こんな奴のせいでゲームは穢されたのに、そんな奴らの受け皿になっているとは…。


――“強制生体リンク解除も行いますか?”


なんだそれ?


――“TEOにおける感情リンクシステムは記憶と願望と直結しています”

――“それを解除しますと、TEO内で起きた感情、行動はすべてデータとして抜き取   

  られ現実の人間には移行されません”


小難しい説明だが、要するに狂暴性や妙な癖類はプレイヤーから切り離されるって事か?


――“その認識で問題ありません”


そりゃあ、良い事聞いた。

この世界を追放されたからって、別の所で同じ事をされちゃあ、胸糞が悪いからな。

剣士は首を鳴らし、アオシンに冷たい視線を向ける。


「俺に恥をかかせた報いだ。ちょっくら、痛めつけてやるよ!」


アオシンに向かって、大剣を突き立て、猛スピードで走り出た。


だが、それよりも素早い動きで、大剣を奪い取るアオシン。


「なっ!」


――“永久追放しますか?”


「ああ、する」


――スキル”裁終絶命”ファイナルヴァクト…発動!!


真っ赤な炎に燃え上がる短剣を剣士に向かって投げる。

その剣先は剣士の胸元に突き当たり、その体は無機質なデータに変わっていく。


「悪いが、お前のような無礼者はTEOにはいらない。そう言ったプレイがお望みなら、成人向けVRMMOで楽しんでくれ」

「ぐっ!うわあああっ!」


激しい爆発音と共に剣士の体は消失していく。


――“追放完了”

――“ご苦労様でした”


だが、これで本当によかったのか?

自分自身が決めた事だっていうのに、ネガティブモードになるのは俺の性質だろうな。


「うっううう…」


自分に起こったすべても理解できぬまま、聞こえてきたのは悪質プレイヤーの奴隷のようにされ、傷ついたNPC達の声だ。

その表情は生身の人間そのもの。


「お前達は自由だ!」


その宣言と同時に至る所から歓声が上がる。


それでも痛々しいのは変わらない。

可哀そうに…。


――“再編制式リライトコード”を発動しますか?


リライトコード?


――改変されたデータの復元を試みます。


治癒的な事か。

本当に俺の手に委ねられていた時とは何もかも違うんだな。

何一つスキル名がしっくりこない。


「再編制式…発動」


アオシンの言葉と同時にNPC達の体の周りに光の文字が出現し、その傷を癒していく。


――”均衡力が7にアップしました”


均衡力…。

なるほど。均衡師とは悪質プレイヤーを追い出したり、データの修復が可能なジョブなのか。


「ありがとうございます。心優しき方」

「いや、大した事はない」

「とんでもありません。この御恩は…」


握り返されたNPCの少女の手はとても暖かい。

まるで生きているような感触だ。

俺が製作し、遊んでいた頃よりもやはりリアル度は上がっているという事か?


とにかくこれなら、壊れた建物も治せるかも…。


「再編制式…」


対象を壊れた建物へと移そうとするが、なんの変化もない。


――“アクティブ力が足りません“


断罪スキルはアクティブスキルなのか?


だが、特にコマンド表示は見当たらない。

どうすりゃ、発動できるんだ?


「凄いです!!」


未だ、すべての状況が掴めぬ中、物凄い勢いで詰め寄ってきたのは初期アバター、もといモブキャラの青年だ。なぜか、はだけていた布地は元に戻っている。

とりあえず、その事に関してはホッとした。


「感動しちゃいました。さっきの理星術どうなってるんです?プレイヤーを強制ログインさせるなんて聞いた事ないですよ!あっ!お名前は?私はレイカと言います」


この人、男性アバターだけど、もしかして中身女性か?

プレイヤー名も女性っぽいし…。

いやいや、それは決めつけが過ぎるしどんな名をつけるかは個人の自由だ。

別に女性が男性アバターを使うのもよくある事である。

だから、こうして、気になるのがそもそもおかしい。


「名乗るような者じゃねえ~」


だが、こういうグイグイ来るタイプは苦手なんだよな。

アイツを連想しちまう。


「私、嬉しいんですよ。まだ、このゲームをまともにプレイしてくれてる人がいるって分かって。あの、さっきの動きからして古参のプレイヤーの方ですよね。もしかして、知ってたりしませんか?TEOの製作者の事とか…」

「はあ?」

「ずっと行方不明なんです」


行方不明?

それって俺じゃん。


そう思った瞬間、眉間に鈍い痛みが走り、思わず表情を歪ませる。

それでも、レイカと名乗った青年の黒髪がゆらゆらと動き、その瞳はアオシンをまっすぐと見つめていた。俺が作ったかつてのモブキャラを操るコイツは何者だ?

そして、どうして、俺を探している?


何かなら何までおかしなことばかりだ。

当初は転生かと思ったが、外からログインしているプレイヤーがいるなら、間違いなくここはTEOの世界だ。だが、転生の可能性もまだ残っている。


諦めたくはないぞぉ!!


アオシンの疑問に鳴り響いていた電子音は何も返答してはくれないのであった。

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