フリードが魔物を倒す際に放った技は、ファイエンのものと似ている。
【二百年後の勇者】では魔王を封印した英雄の子孫が四人いる。
その内の一人の子孫がファイエンで、彼は火の勇者である。
勇者の技は一子相伝。
フリードが扱える技ではないはず。
「分かんねえ」
少年が言葉を発すると、フリードの口調に変換された。
「……そう」
フリードの答えにファイエンの表情が曇る。
☆
魔物を討伐した二人は、火の国ヴォルガンの王と謁見する。
「火の勇者ファイエンよ。報告せよ」
「はっ」
ファイエンは王に魔物の討伐を報告し、経緯を語る。
フリードが討伐した魔物は『魔王の配下』だと名乗っており、国内の魔物を活性化させ、町や村にかなりの被害が出た。
この世界の魔王は四人の英雄によって封印されており、二百年後に復活する存在。
現在、封印から一九八年が経過しており、あと二年で魔王が復活する。
今後も強力な魔物が現れてもおかしくない状況だ。
「――うむ」
ファイエンの報告を聞いた王は内容を咀嚼する。
「フリードに火の勇者の力が現れたと」
「はい」
王はファイエンの報告で気になった部分を呟く。
ファイエンの返事に、周りにいた臣下たちがざわめく。
王も困惑した表情を浮かべている。
「ファイエン、余はお主の言葉を信じられん」
ファイエンの言葉が事実であれば、火の勇者が二人存在することになる。
「そなたの言葉が事実であれば、フリードはお主を越える力を持っていることになる」
「そう、なります」
「火の勇者を名乗れるのは一人のみ。しかも、当代の勇者は魔王討伐という重大な役目がある」
勇者は国に一人だけ。
根幹が揺らぐ事態に、王や前代の火の勇者であるファイエンの父親が困惑している。
「この件ははっきりさせておこう」
王はファイエンに命じる。
「ファイエン、フリードと戦え。勝者を当代の火の勇者とする」
☆
(大変なことになっちゃった)
ファイエンと戦うため、謁見の間を出たフリードたちは城を出たところにある、騎士や兵士たちの訓練場に来た。
訓練場にはフリードとファイエンの他、王と謁見の間にいた臣下たち、そして先代であるファイエンの父親がいた。
皆がこの場にいるのは、どちらが当代の火の勇者となるか行く末を見守るためだ。
「両者、前へ」
フリードとファイエンは模擬戦をする広間の中央に向かい合って立つ。
審判の声と共に、フリードは支給された剣を構える。
この間、フリードは
(あの力、もう一度出せるかな……)
魔物を倒した技は、”生き残りたい”という強い気持ちが具現化したもので再現性はあるのだろうか。
「はじめ!」
審判が開始の合図をする。
フリードはファイエンを見た。
ファイエンは不安そうな表情を浮かべつつ、剣を振るっていた。
(普通の攻撃は対応できてる)
体の記憶なのだろうか、ファイエンの攻撃に対応できている。
きっとフリードは若いながらも実力者だったのだろう。
「フリード」
戦闘中、ファイエンが話しかけてくる。
「あの力をどうして使わないんだ」
話しかけたのは、フリードが一向に火の力を使わないから。
ファイエンはそれを待って、普通の攻撃をしてくれていたのだ。
「どうやって出したのか、分らねえんだ」
フリードが理由を告げると、ファイエンが離れ、ため息をつく。
「もう、時間は稼げない」
ファイエンはそう呟くと、剣に火の力が宿る。
「本気で挑まないと……、死ぬよ」
剣に火の力を宿す。
それだけなら魔法剣として、魔法の才能がある剣士でもできる。
だが、ファイエンが宿す火は刃の強度を上げるほか、刀身を伸ばしたり、火の粉を生き物のように飛ばしたりと生き物のように動き、多様な攻撃のバリュエーションがある。
普通に戦えば、フリードの剣は溶け、大火傷を負うだろう。
ファイエンの言う通り、半端な気持ちで挑めば命を落としかねない。
(考えてる時間はない)
命の危機を感じたフリードは剣に強く念じる。
(僕にファイエンと戦う力を下さい!)
フリードの剣に火の力が宿る。
「ファイエンの話は本当じゃった」
フリードの力が発現し、周囲がざわつく。
王は身を乗り出して、フリードを見ている。
「すっげぇ」
フリードは自身の刀身を見る。
火はファイエンのものよりも勢いがあり、熱気を感じる。
力は再現できたものの、剣が熱で溶け始めていた。
「そう……、君も本気なんだ」
ファイエンの剣も威力が増す。
「いくよ」
ファイエンがフリードに斬りかかる。
二人の刃か交わった瞬間――。
「勝負あり! 勝者――」
勝負が決まる。
「勝者、フリード!」
「……勝った?」
フリードは己の力でドロドロに溶けた剣を握りながら、唖然としていた。
「やっぱり、負けるのは僕だった」
ファイエンは刃が欠けた剣を持っていた。
勝負に負けたファイエンは、悔しがることなく力なく笑っていた。
勝敗を決めたのは、火力。
二人の力がぶつかり、フリードがファイエンを上回り、ファイエンの剣を溶かしたのだ。
「ファイエン……」
「大丈夫。初めて君の力を見たときから、こうなるだろうなって思ってたから」
握手を交わしたとき、ファイエンがそう言った。
勝敗が決まり、場がざわつく。
「ファイエンが負けたぞ」
「フリードってやつ、火の勇者の力を使ってた」
「"落ちこぼれ"の勇者じゃなくて、"偽物"の勇者ってことか?」
「皆のもの、静まれ」
その場の騒ぎを王が鎮める。
王は椅子から立ち、フリードたちの前で立ち止まる。
フリードとファイエンはその場に跪く。
「勝負の結果……、今代の火の勇者はフリードとする!」
この日から、フリードが火の勇者として魔王を倒す役目を背負うこととなる。
またフリードはゲームのストーリーを大きく変えてしまったのだ。