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第2話 真の勇者は

 フリードが魔物を倒す際に放った技は、ファイエンのものと似ている。

 【二百年後の勇者】では魔王を封印した英雄の子孫が四人いる。

 その内の一人の子孫がファイエンで、彼は火の勇者である。

 勇者の技は一子相伝。

 フリードが扱える技ではないはず。


「分かんねえ」


 少年が言葉を発すると、フリードの口調に変換された。


「……そう」


 フリードの答えにファイエンの表情が曇る。



 魔物を討伐した二人は、火の国ヴォルガンの王と謁見する。


「火の勇者ファイエンよ。報告せよ」

「はっ」


 ファイエンは王に魔物の討伐を報告し、経緯を語る。

 フリードが討伐した魔物は『魔王の配下』だと名乗っており、国内の魔物を活性化させ、町や村にかなりの被害が出た。

 この世界の魔王は四人の英雄によって封印されており、二百年後に復活する存在。

 現在、封印から一九八年が経過しており、あと二年で魔王が復活する。

 今後も強力な魔物が現れてもおかしくない状況だ。


「――うむ」


 ファイエンの報告を聞いた王は内容を咀嚼する。


「フリードに火の勇者の力が現れたと」

「はい」


 王はファイエンの報告で気になった部分を呟く。

 ファイエンの返事に、周りにいた臣下たちがざわめく。

 王も困惑した表情を浮かべている。


「ファイエン、余はお主の言葉を信じられん」


 ファイエンの言葉が事実であれば、火の勇者が二人存在することになる。


「そなたの言葉が事実であれば、フリードはお主を越える力を持っていることになる」

「そう、なります」

「火の勇者を名乗れるのは一人のみ。しかも、当代の勇者は魔王討伐という重大な役目がある」


 勇者は国に一人だけ。

 根幹が揺らぐ事態に、王や前代の火の勇者であるファイエンの父親が困惑している。


「この件ははっきりさせておこう」


 王はファイエンに命じる。


「ファイエン、フリードと戦え。勝者を当代の火の勇者とする」



(大変なことになっちゃった)


 ファイエンと戦うため、謁見の間を出たフリードたちは城を出たところにある、騎士や兵士たちの訓練場に来た。

 訓練場にはフリードとファイエンの他、王と謁見の間にいた臣下たち、そして先代であるファイエンの父親がいた。

 皆がこの場にいるのは、どちらが当代の火の勇者となるか行く末を見守るためだ。


「両者、前へ」


 フリードとファイエンは模擬戦をする広間の中央に向かい合って立つ。

 審判の声と共に、フリードは支給された剣を構える。

 この間、フリードは大事おおごとになってしまったと思っていた。


(あの力、もう一度出せるかな……)


 魔物を倒した技は、”生き残りたい”という強い気持ちが具現化したもので再現性はあるのだろうか。


「はじめ!」


 審判が開始の合図をする。

 フリードはファイエンを見た。

 ファイエンは不安そうな表情を浮かべつつ、剣を振るっていた。


(普通の攻撃は対応できてる)


 体の記憶なのだろうか、ファイエンの攻撃に対応できている。

 きっとフリードは若いながらも実力者だったのだろう。


「フリード」


 戦闘中、ファイエンが話しかけてくる。


「あの力をどうして使わないんだ」


 話しかけたのは、フリードが一向に火の力を使わないから。

 ファイエンはそれを待って、普通の攻撃をしてくれていたのだ。


「どうやって出したのか、分らねえんだ」


 フリードが理由を告げると、ファイエンが離れ、ため息をつく。

「もう、時間は稼げない」

 ファイエンはそう呟くと、剣に火の力が宿る。


「本気で挑まないと……、死ぬよ」


 剣に火の力を宿す。

 それだけなら魔法剣として、魔法の才能がある剣士でもできる。

 だが、ファイエンが宿す火は刃の強度を上げるほか、刀身を伸ばしたり、火の粉を生き物のように飛ばしたりと生き物のように動き、多様な攻撃のバリュエーションがある。

 普通に戦えば、フリードの剣は溶け、大火傷を負うだろう。

 ファイエンの言う通り、半端な気持ちで挑めば命を落としかねない。


(考えてる時間はない)


 命の危機を感じたフリードは剣に強く念じる。


(僕にファイエンと戦う力を下さい!)


 フリードの剣に火の力が宿る。


「ファイエンの話は本当じゃった」


 フリードの力が発現し、周囲がざわつく。

 王は身を乗り出して、フリードを見ている。


「すっげぇ」


 フリードは自身の刀身を見る。

 火はファイエンのものよりも勢いがあり、熱気を感じる。

 力は再現できたものの、剣が熱で溶け始めていた。


「そう……、君も本気なんだ」


 ファイエンの剣も威力が増す。


「いくよ」


 ファイエンがフリードに斬りかかる。

 二人の刃か交わった瞬間――。


「勝負あり! 勝者――」


 勝負が決まる。


「勝者、フリード!」

「……勝った?」


 フリードは己の力でドロドロに溶けた剣を握りながら、唖然としていた。


「やっぱり、負けるのは僕だった」


 ファイエンは刃が欠けた剣を持っていた。

 勝負に負けたファイエンは、悔しがることなく力なく笑っていた。

 勝敗を決めたのは、火力。

 二人の力がぶつかり、フリードがファイエンを上回り、ファイエンの剣を溶かしたのだ。


「ファイエン……」

「大丈夫。初めて君の力を見たときから、こうなるだろうなって思ってたから」


 握手を交わしたとき、ファイエンがそう言った。

 勝敗が決まり、場がざわつく。


「ファイエンが負けたぞ」

「フリードってやつ、火の勇者の力を使ってた」

「"落ちこぼれ"の勇者じゃなくて、"偽物"の勇者ってことか?」

「皆のもの、静まれ」


 その場の騒ぎを王が鎮める。

 王は椅子から立ち、フリードたちの前で立ち止まる。

 フリードとファイエンはその場に跪く。


「勝負の結果……、今代の火の勇者はフリードとする!」


 この日から、フリードが火の勇者として魔王を倒す役目を背負うこととなる。

 またフリードはゲームのストーリーを大きく変えてしまったのだ。   

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