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第3話 王命と二人のお供

 ファイエンとの戦いに勝利した翌朝。

 フリードは再びヴォルガンの王と謁見していた。

「火の勇者フリードよ」

 王は新たな火の勇者であるフリードに命じる。

「現在、水の国エリオス、土の国アリダーン、風の国セフィーストとの定期連絡が途絶えておる。途絶えた理由として我は”魔王の配下”たちの仕業に違いない。そなたには、各国の魔王の配下の討伐を命じる」

「その命、フリードが承りました」

 フリードはその王命を受け入れる。

(本当はファイエンが受けるはずだったのに……、僕が旅に出ちゃっていいのかな)

 だが、フリードは内心、複雑な心境を抱いていた。

 フリードの役目は元々、ゲームの主人公であるファイエンがやるはずだったから。

 その点を除いては、話はゲーム通りに進んでいる。

「魔王の配下討伐は困難を極める。そのため、そなたの旅に二人、同行者をつける」

 王が「入れ」という言葉と共に、謁見の間の扉が開かれ、女性二人がフリードの前に現れる。

 黒いローブ姿の黒髪ロングな小柄な子と、白いローブ姿のプラチナブロンドの長身な子。

「一人は大魔導士の娘、シャーリィ。もう一人はティニアと申す」

 黒髪の子がシャーリィ、プラチナブロンドの子がティニアだ。

 シャーリィは大魔導士の娘で広範囲の攻撃魔法を得意とし、大魔導士の養女として育てられたティニアは回復魔法を得意とする。

「よろしくね、フリード」

「よろしくおねがいします、フリードさん」

 二人はそれぞれフリードに声をかける。

「シャーリィ、ティニア、よろしくな」

 こうして、フリードはシャーリィとティニアを仲間に加え、各国の旅に出ることになった。



 旅の支度が済むまでの間、フリードは王城の客間で日々を過ごしていた。

(ゲームではすぐに第一章が始まっていたけど、ファイエンもこうやって待機していたんだろうなあ)

 ベッドに横になり、天井を見上げながらフリードはぼんやりとしていた。

 ゲームでは切り取られていたが、ファイエンもこうして待機していたのだろう。

(ファイエン、どうしてるのかな)

 ふと、ファイエンはどうしているのだろうと思った。

 待機中、フリードは訓練場で身体を動かしているが、そこにファイエンはいない。

 仲良くなった騎士に訊いてみるも、ファイエンの話になると言葉を濁す。

 皆、火の勇者ではなくなったファイエンをどう扱おうか迷っている。

 中にはファイエンという名を出すだけで、気分が悪くなる人がいるため、話しづらいようだ。

(よしっ、直接会いに行こう)

 そう思い立ったフリードは部屋から出るため、ベッドから飛び上がる。

 部屋のドアを開けるとーー。

「よっ」

 フリル沢山な黒のワンピース姿のシャーリィがいた。

「……よう」

 突然の来訪者に挨拶が遅れるフリード。

「待ってるの暇だったから、会いに来た」

「そう」

「あんた、予定ある?」

 シャーリィに予定を聞かれ、フリードは正直に答えるべきか悩む。

「なーに? 目が泳いじゃって」

「いや……、その」

「あたしみたいな美少女に誘われてドキドキしちゃった?」

「……」

 誤魔化せそうだと、フリードはシャーリィの言葉に頷く。

 フリードの反応にシャーリィは頬を赤らめ、まんざらな表情を浮かべる。

「ま、まあ……、あたしは可愛いしあんたがその気になって突然だし」

 シャーリィはフリードから視線を逸らし、サラサラな黒髪を一房つまみ、指をくるくると絡める。

「そんで、俺に何の用だよ」

「交流がてらお茶しようと思って誘ったの」

「お茶……」

「だって、あたしたち初対面だし……」

 フリードはゲームでシャーリィとティニアについて知っているが、シャーリィにとっては初対面である。

 フリードがどんな人物か探りにきてもおかしくない。

「わりい。俺、ファイエンに会おうと思ってたんだ」

 フリードはシャーリィの誘いを断る。

 もじもじしていたシャーリィが一転、あり得ないといった不機嫌な表情をみせる。

「このあたしの誘いよりもファイエンのほうが大事なわけ!?」

「気になるだろ。ファイエンにとって火の勇者は人生そのものだったんだから。それを――」

 文句をいうシャーリィに、フリードはファイエンに会いたい理由を告げる。

 その途中で、シャーリィはフリードを指し、いつもより低い声で伝える。

「なら、ファイエンに会わないで」

 態度の変わりように、フリードは黙った。

「ファイエンが一番会いたくないのは、フリード、あんたよ」

「……シャーリィはファイエンに会ったのか?」

「まあ、幼馴染だし。様子は見にいったわ」

「その……、あいつは――」

「人生をあんたに奪われたのよ。もう、絶望のどん底よ」

 ファイエンは火の勇者という役目を奪われ、相当落ち込んでいるらしい。『人生のどん底』がどんなものなのか、シャーリィの暗い表情から察する。

「旅の同行者にも選ばれなかった。あの戦いで王様は失望したのかもしれない」

「……」

「あたしはあの戦いで納得したけど、ティニアは腑に落ちてないみたいで」 

「だから俺をお茶に誘ったのか」

「そうよ」

 フリードをお茶会に誘ったのには、ティニアの不満を解消させる目的があったようだ。

「なおさらファイエンと話さねえと」 

「あたしの話、聞いてた!?」

 フリードの発言にシャーリィは信じられないといった顔をし、ため息をついた。

「俺は――」

 シャーリィに会いにゆく目的を告げると、道を開けてくれた。

「ファイエンはこの城にいるわ。王様に謁見してるかも」

「じゃあ行ってくるわ」

「ええ」

「“四人分のお茶“用意して待っててくれ」

 フリードはそう告げると、シャーリィと別れファイエンを探しに部屋を出た。





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