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第11話 部活動

### 部活動


 入学式の帰り、校舎外では部活動の勧誘が始まっていた。


「ハヤトは何部に入るんだろ?」


 ボソッと呟いたカズのもとに、ジャージ姿の先輩が話しかけて来た。


「君、脚速そうだね? 何部に入る予定?」


「えっと⋯」


 ドギマギしながらモゴモゴしていると、先輩はカズの手を取り、


「陸上部なんだけど、良かったら案内するよ」


 そう言って、カズを引っ張る。


 カズは戸惑いながらも、先輩に手を引かれて歩き出す。

 校舎の外には、色とりどりののぼりや看板が立ち並び、さまざまな部活動が新入生を勧誘していた。

 吹奏楽部の音楽が遠くから聞こえ、野球部の先輩たちはキャッチボールをしながら声をかけている。

 カズは、どこに行けばいいのか、何をすればいいのか、まったくわからず、ただ先輩の後ろについていくしかなかった。


「ここが陸上部の部室だよ」


 先輩は、グラウンドの隅にある小さな倉庫の前で立ち止まった。

 そこには、古びたトレーニング器具や、使い古されたスパイクが並べられていた。

 カズは思わず目を細めた。

 陸上部という響きは、なんとなく「走るのが好き」な人が集まる場所だと思っていたが、実際に目の前にすると、なんだか緊張してしまう。


「俺は佐藤って言うんだけど、三年生だよ。この部活、去年と一昨年は県大会にも出場したんだ。君、走るの早いって噂だったけど、本当?」


 カズは少し恥ずかしそうにうつむいた。


「そんなこと、ないです⋯⋯ただ、運動会の徒競走でちょっと⋯⋯」


「へえ、それだけでも十分だよ。俺たち、今ちょうど新入生を募集してる最中なんだ。よかったら、一度体験してみない?」


 カズは迷った。

 正直、部活動なんてまだ何にも決めていなかったし、陸上部に入るつもりもなかった。

 でも、佐藤先輩の熱心な目つきに、断りづらい雰囲気を感じていた。


「じゃあ、ちょっとだけ⋯⋯」


 そう言うと、佐藤先輩はニッコリと笑った。


「いいね! それじゃ、まず軽く走ってみようか」


 カズは、グラウンドの端まで連れて行かれ、軽くストレッチをさせられた。

 他の部員たちも、興味深そうにカズを見ていた。

 カズは、自分の足が本当に速いのか、少し不安になってきた。

 確かに小学生までは負けた事が無かったのだが。


「じゃあ、スタート合図で走ってみて。距離は50メートルね」


 カズは深呼吸し、足を構える。


「よーい、ドン!」


 走り出すと、風が頬を撫でた。

 自分の足音が、グラウンドに響く。

 走ること自体は、特に意識せずとも自然にできていた。

 そして、ゴールに到達したとき、佐藤先輩が驚いた顔をしていた。


「すごいじゃん! タイムもすごく速いし、フォームもいい。君、絶対にやれるよ!」


 カズは照れくさそうに笑った。


「そんなことないです⋯⋯でも、走るのは好きかもしれないです」


 その日を境に、カズは陸上部の練習に顔を出すようになった。

 最初はただの好奇心だったけれど、走るたびに、自分の体が軽くなっていく感覚や、仲間と一緒に汗を流す楽しさに気づいていった。


 そしてある日、佐藤先輩がこう言った。


「カズ、本格的に入部しない? 君なら、きっと全国に行ける。俺たちと一緒に頑張ってみないか?」


 カズは、少し考えてから、静かにうなずいた。


「うん、入部する」


 それから数か月後、カズは見事に新人戦で優勝し、学校中にその名を知られることになる。 

 彼の走る姿は、まるで風のように軽く、そして速かった。


 そして彼の物語は、まだ始まったばかりだった。




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