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第12話 合宿

### 合宿


 入学式から数ヶ月後に、陸上部の合宿があった。

 行こうかどうか迷っていたカズは、取りあえず参加してみる事にした。


「よろしくっす」


 そう言うカズに、佐藤先輩は優しく「よろしくな!」と言った。


 そして、合宿当日。

 早朝から貸し切りバスに乗り、合宿所へと向かう。

 バスの中では50人近くの陸上部員たちが、各々好きな席に座り、たわいない話をしていた。

 後部座席に座ったカズのもとに、二年生の先輩が来て、


「隣、いいか?」


と訊いてきた。


「どうぞ」


 カズがそう言うと、先輩は隣に腰を下ろす。


「俺、小崎。よろしくな」


 そう言って、握手を求めてくる。


 恐る恐るカズが手を出すと、小崎先輩はカズの手をギュッと握り、ブンブンと上下に振り回す。


「君、脚速いよね?」


「そうでもないっす」


 遠慮がちに言ったカズに、小崎先輩は、


「謙遜する事なんて無いよ。確かに君の脚は速いんだから」


「ありがとうっす」


 素直に褒められたカズは、嬉しくて少し赤くなっていた。


「ちょっといいかな?」


 小崎先輩は、そう言うと、ムギュっとカズの股間のモノを掴んだ。


「あっ⋯!」


 思わず声が漏れるカズ。


「やっぱ、君、1年の割には大きいよね?」


 手を振り解こうにも、気持ちが良くてそれが出来ずにいるカズのモノを、小崎先輩は優しく揉みまくる。

 気持ちが良くて、次第に勃起してしまうカズ。


「ほら、やっぱデカイ」


 恥ずかしくて赤くなるカズに、小崎先輩はカズの手を取り、自分のモノへと誘導する。


「俺のもデカイでしょう?」


 触れた小崎先輩の感触は、確かにデカかった。

 ハヤトといい勝負かも知れない。

 ついつい小学生の時のクセで弄り回すカズに、小崎先輩は降参とばかりに声を出した。


「君、あまり刺激されると出てしまうよ(笑)」


 いつの間にか勃起していた小崎先輩のソレから手を離すと、小崎先輩もカズのモノから手を離した。


 カズはまだ鼓動が速く、胸がドキドキしていた。

 小崎先輩はニヤニヤしながら、


「君、いい奴だな」


 と呟くと、カズの膝に手を置いた。

 その手はもうどこにも行かなかったが、カズの心臓はまだ落ち着かないままだった。


「俺、君の事、気に入ったよ。また遊ぼうな」


 そう言って小崎先輩はカズの頬を軽く叩くと、目を細めて笑った。

 カズは恥ずかしさのあまり、思わず目をそらす。


「は、はい⋯⋯よろしくお願いっす」


 声を震わせながらそう言うと、小崎先輩は「よしよし」と頭を撫でてくれた。


 バスは山道を進み、窓の外にはまだ薄暗い空と、朝露に濡れた木々が揺れている。

 他の部員たちはそれぞれ眠そうにしていたり、音楽を聴いたり、寝たりしている。

 カズはまだ心臓が落ち着かず、小崎先輩の隣にいるのが不思議なほどだった。


「君、朝早いの苦手?」


 小崎先輩が静かに尋ねる。


「いや、まあ⋯⋯普段よりは早起きですけど、大丈夫っす」


「そうか。俺は朝が好きなんだよ。特にこうして誰かと過ごす朝は、なんか特別な感じがするからな」


 カズは小崎先輩の言葉に、なぜか胸がキュンと鳴った。

 先輩の雰囲気は、どこか優しくて、でもどこか危うくて、カズはその両方に惹かれている自分に気づいていた。


 やがてバスは合宿所に到着し、みんながそれぞれの荷物を下ろし始める。

 カズも慌ててリュックを背負うと、小崎先輩が「一緒に行こうか」と手を差し伸べた。


 合宿所は山の奥にある古びた木造の建物だった。

 広い庭には松の木が立ち並び、朝の光を浴びながら静かに揺れている。

 カズはその景色に少し心を癒された。


 部屋は相部屋で、小崎先輩とカズの二人だけだった。

 他の先輩たちも同じような部屋に分かれていて、廊下には笑い声や怒鳴り声が響いていた。


「いい部屋だな。静かで」


 小崎先輩は窓辺に立って外を見ている。

 カズは少し緊張しながらも、リュックを下ろした。


「あの⋯⋯さっきのは⋯⋯」


カズが言いかけたのを、小崎先輩は手で制した。


「気にするなよ。俺、君のことが好きだから、つい手が出ちゃったんだ。悪いことしたとは思ってないけど、もし君が嫌だったなら謝るよ」


 カズは首を横に振った。


「別に、嫌じゃなかったっす。ただ⋯⋯ビックリして」


 小崎先輩は少し嬉しそうに笑った。


「よかった。君も俺の事、嫌いじゃないんだな?」


 カズは頷くしかなかった。小崎先輩の雰囲気に、完全に飲み込まれていた。


「じゃあ、これからも仲良くしてくれよな」


 そう言って、小崎先輩はカズの肩を軽く叩いた。


 夕方になると、全員で山道を走るトレーニングが始まった。

 カズは小崎先輩と並んで走り、少し遅れ気味の後輩たちを励ましていた。


「カズ、お前、声がよく出てるな。ああいうの、チームには必要だ」


 小崎先輩がそう言うと、カズは少し照れくさそうに笑った。


「ありがとうっす。でも、ただ声が出ただけですけど」


「いや、それだけでも違うんだよ。俺たちが走るってことは、ただの運動じゃない。仲間と一緒に、目標に向かって走るってことだ。その気持ちを共有できる奴がいるってのは、本当にありがたい」


 カズはその言葉に、なぜか胸が熱くなった。


 夜になると、みんなで風呂に入り、その後は宴会が始まった。

 カズはまだ未成年だからとジュースを飲んでいたが、小崎先輩が「俺がついてるから大丈夫だ」と言って、少しのビールを注いでくれた。


「初めて?」


「はい」


「じゃあ、一口だけな。酔っぱらっても困るから」


 カズはコップを手に取り、一口飲むと、苦みに顔をしかめたが、不思議と気分が高揚していた。


「どう?」


「⋯⋯変な味ですけど、なんか、楽しいっす」


 小崎先輩は笑った。


「それがビールの魔力だよ」


 夜が更けるにつれ、カズは小崎先輩と過ごす時間が何よりも心地よく思えた。

 合宿はまだ始まったばかりだったが、カズの心には何か新しいものが芽生え始めていた。




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