### 合宿
入学式から数ヶ月後に、陸上部の合宿があった。
行こうかどうか迷っていたカズは、取りあえず参加してみる事にした。
「よろしくっす」
そう言うカズに、佐藤先輩は優しく「よろしくな!」と言った。
そして、合宿当日。
早朝から貸し切りバスに乗り、合宿所へと向かう。
バスの中では50人近くの陸上部員たちが、各々好きな席に座り、たわいない話をしていた。
後部座席に座ったカズのもとに、二年生の先輩が来て、
「隣、いいか?」
と訊いてきた。
「どうぞ」
カズがそう言うと、先輩は隣に腰を下ろす。
「俺、小崎。よろしくな」
そう言って、握手を求めてくる。
恐る恐るカズが手を出すと、小崎先輩はカズの手をギュッと握り、ブンブンと上下に振り回す。
「君、脚速いよね?」
「そうでもないっす」
遠慮がちに言ったカズに、小崎先輩は、
「謙遜する事なんて無いよ。確かに君の脚は速いんだから」
「ありがとうっす」
素直に褒められたカズは、嬉しくて少し赤くなっていた。
「ちょっといいかな?」
小崎先輩は、そう言うと、ムギュっとカズの股間のモノを掴んだ。
「あっ⋯!」
思わず声が漏れるカズ。
「やっぱ、君、1年の割には大きいよね?」
手を振り解こうにも、気持ちが良くてそれが出来ずにいるカズのモノを、小崎先輩は優しく揉みまくる。
気持ちが良くて、次第に勃起してしまうカズ。
「ほら、やっぱデカイ」
恥ずかしくて赤くなるカズに、小崎先輩はカズの手を取り、自分のモノへと誘導する。
「俺のもデカイでしょう?」
触れた小崎先輩の感触は、確かにデカかった。
ハヤトといい勝負かも知れない。
ついつい小学生の時のクセで弄り回すカズに、小崎先輩は降参とばかりに声を出した。
「君、あまり刺激されると出てしまうよ(笑)」
いつの間にか勃起していた小崎先輩のソレから手を離すと、小崎先輩もカズのモノから手を離した。
カズはまだ鼓動が速く、胸がドキドキしていた。
小崎先輩はニヤニヤしながら、
「君、いい奴だな」
と呟くと、カズの膝に手を置いた。
その手はもうどこにも行かなかったが、カズの心臓はまだ落ち着かないままだった。
「俺、君の事、気に入ったよ。また遊ぼうな」
そう言って小崎先輩はカズの頬を軽く叩くと、目を細めて笑った。
カズは恥ずかしさのあまり、思わず目をそらす。
「は、はい⋯⋯よろしくお願いっす」
声を震わせながらそう言うと、小崎先輩は「よしよし」と頭を撫でてくれた。
バスは山道を進み、窓の外にはまだ薄暗い空と、朝露に濡れた木々が揺れている。
他の部員たちはそれぞれ眠そうにしていたり、音楽を聴いたり、寝たりしている。
カズはまだ心臓が落ち着かず、小崎先輩の隣にいるのが不思議なほどだった。
「君、朝早いの苦手?」
小崎先輩が静かに尋ねる。
「いや、まあ⋯⋯普段よりは早起きですけど、大丈夫っす」
「そうか。俺は朝が好きなんだよ。特にこうして誰かと過ごす朝は、なんか特別な感じがするからな」
カズは小崎先輩の言葉に、なぜか胸がキュンと鳴った。
先輩の雰囲気は、どこか優しくて、でもどこか危うくて、カズはその両方に惹かれている自分に気づいていた。
やがてバスは合宿所に到着し、みんながそれぞれの荷物を下ろし始める。
カズも慌ててリュックを背負うと、小崎先輩が「一緒に行こうか」と手を差し伸べた。
合宿所は山の奥にある古びた木造の建物だった。
広い庭には松の木が立ち並び、朝の光を浴びながら静かに揺れている。
カズはその景色に少し心を癒された。
部屋は相部屋で、小崎先輩とカズの二人だけだった。
他の先輩たちも同じような部屋に分かれていて、廊下には笑い声や怒鳴り声が響いていた。
「いい部屋だな。静かで」
小崎先輩は窓辺に立って外を見ている。
カズは少し緊張しながらも、リュックを下ろした。
「あの⋯⋯さっきのは⋯⋯」
カズが言いかけたのを、小崎先輩は手で制した。
「気にするなよ。俺、君のことが好きだから、つい手が出ちゃったんだ。悪いことしたとは思ってないけど、もし君が嫌だったなら謝るよ」
カズは首を横に振った。
「別に、嫌じゃなかったっす。ただ⋯⋯ビックリして」
小崎先輩は少し嬉しそうに笑った。
「よかった。君も俺の事、嫌いじゃないんだな?」
カズは頷くしかなかった。小崎先輩の雰囲気に、完全に飲み込まれていた。
「じゃあ、これからも仲良くしてくれよな」
そう言って、小崎先輩はカズの肩を軽く叩いた。
夕方になると、全員で山道を走るトレーニングが始まった。
カズは小崎先輩と並んで走り、少し遅れ気味の後輩たちを励ましていた。
「カズ、お前、声がよく出てるな。ああいうの、チームには必要だ」
小崎先輩がそう言うと、カズは少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうっす。でも、ただ声が出ただけですけど」
「いや、それだけでも違うんだよ。俺たちが走るってことは、ただの運動じゃない。仲間と一緒に、目標に向かって走るってことだ。その気持ちを共有できる奴がいるってのは、本当にありがたい」
カズはその言葉に、なぜか胸が熱くなった。
夜になると、みんなで風呂に入り、その後は宴会が始まった。
カズはまだ未成年だからとジュースを飲んでいたが、小崎先輩が「俺がついてるから大丈夫だ」と言って、少しのビールを注いでくれた。
「初めて?」
「はい」
「じゃあ、一口だけな。酔っぱらっても困るから」
カズはコップを手に取り、一口飲むと、苦みに顔をしかめたが、不思議と気分が高揚していた。
「どう?」
「⋯⋯変な味ですけど、なんか、楽しいっす」
小崎先輩は笑った。
「それがビールの魔力だよ」
夜が更けるにつれ、カズは小崎先輩と過ごす時間が何よりも心地よく思えた。
合宿はまだ始まったばかりだったが、カズの心には何か新しいものが芽生え始めていた。