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第20話 ハヤトの応援とカズの実力

### ハヤトの応援とカズの実力


 100メートル予選と、200メートル予選を無事に切り抜けたカズは、午後から決勝となった。


 その頃にはハヤトも応援に駆けつけ、カズの実力をマジマジと感じていた。


「それでは、100メートル決勝を始めます!」


 係の人の声が、グラウンドに響き渡る。

 観客席からは一斉に歓声が湧き起こり、選手たちの入場が始まった。

 その中に、カズの姿があった。


 彼は、これまでの予選と比べて明らかに緊張していた。

 それでも、顔には強い意志が宿っている。

 その姿を、観客席の最前列で見守っていたハヤトは、思わず拳を握りしめた。


「行けよ、カズ⋯⋯お前の走りを見せてやれ!」


 カズは、自分のレーンに着くと、静かに目を閉じて呼吸を整えた。

 彼の脳裏には、これまでの練習の日々が走馬灯のように過ぎる。

 雨の日も風の日も、誰よりも早くグラウンドに来ては、自分に鞭打って走り続けた日々。

 そのすべてが、この一瞬のためにあった。


「準備――」


 係の声に、カズはゆっくりと腰を下ろし、スタートポジションに入る。

 その姿勢は、まるで弓を引いたように張り詰めていた。


「セット――」


 観客席のざわめきが、一気に静まり返る。

 誰もが息をのんだ。

 その静寂の中、ピストルの音が鳴り響いた。


「バン!」


 一斉に、選手たちが飛び出す。

 カズのスタートは、これまでで最も鋭かった。

 その足取りは、まるで地面を蹴るたびに何かを燃やしているかのようだった。


「行くぞ⋯⋯!」


 ハヤトは思わず立ち上がり、声を張り上げた。

 カズは、他の選手を一歩ずつ突き放して行く。

 そのスピードは、見る者の目を釘付けにした。


 100メートルという短い距離の中で、カズはすべてを出し切った。

 ゴールテープを切った瞬間、観客席からは大きな歓声が湧き起こった。


「勝った⋯⋯!」


 ハヤトはガッツポーズし、目を潤ませた。

 カズは、肩で息をしながら、ゆっくりと立ち上がる。

 彼の顔には、これまでの苦労と、今この瞬間の達成感が混ざっていた。


 その日の午後、200メートル決勝も行われた。

 カズは、100メートルの疲れを引きずることなく、見事に優勝を果たした。


 観客席でその様子を見ていたハヤトは、心の底から誇らしく思った。


「ああいう走りをする奴が、俺の親友だ」


 カズは表彰台に立つと、観客席に向かって小さく手を振った。

 その視線の先には、ハヤトの姿があった。


「ありがとうな⋯⋯」


 カズは心の中でそう呟いた。

 彼の勝利は、一人の努力だけでは成し得なかった。

 仲間の応援、家族の支え、そして何よりも、自分を信じてくれた友人の存在があったからこそだった。


 夜になり、グラウンドの照明が一つずつ消えていく頃、カズは一人でグラウンドに戻った。

 彼は、静かな夜空を見上げながら、静かに目を閉じた。


「次は、県大会だ⋯⋯!」


 その言葉には、新たな目標への決意が込められていた。


 ハヤトが後ろから声をかける。


「また応援に行くからな」


 カズは振り返り、笑顔でうなずいた。


「頼むよ、ハヤト」


 二人の影は、夜の風に揺られながらも、しっかりと地に根を張っていた。

 未来に向けて、走り続けるための、静かな覚悟がそこにあった。


 そして、その夜、カズの物語は、また一歩、次の章へと進んでいった。






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