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第22話 学び舎でのひととき

### 学び舎でのひととき


 ある日、カズがトイレに行くと、クラスメートのマサノリがトイレで用を足そうとしていた。


 カズはマサノリに静かに近寄ると、斜め後ろからマサノリのモノを覗き込んだ。


 マサノリはギョッとしたような顔をしたが、それがカズだと分かると、安心したように用を足し始めた。


「マサノリのもデケーな。ハヤトといい勝負だぞ」


 そう言うカズに、マサノリは、


「ハヤトって、同じクラスの?」


 と訊いてきた。


「うん。同じクラスで、オレの幼なじみのハヤト」


「二人は仲いいの?」


「めちゃくちゃ仲いいぞ?」


 そう言うカズに、マサノリは、


「ハヤトって、あまり他の人とは話をしないよね?」


「そうか?」


「うん、そうだよ。俺も殆ど話をした事が無いんだ」


「なら、話をしてみろよ。すっげ~いい奴だぞ」


 用を足し終えたマサノリは、モノをしまいながら、


「でも、何となく話しづらいよね」


 と言った。


 隣で用を足し始めたカズは、


「お前の見たから、オレのも見るか?」


 そう言って、便器から少し離れる。


「へぇ、カズのもけっこうデカイね」


 そう言うマサノリに、カズは、


「ま、ハヤトやお前のに比べたらまだまだだけどな」


 と笑った。


 カズとマサノリは、トイレの中で何とも言えない雰囲気を漂わせながらも、自然と笑みをこぼしていた。

 男子校の日常には、こうした何気ないプライベートな時間が、妙に親密さを生み出している。

 二人は手を洗いながら、しばし沈黙した。


「で、カズ。お前とハヤトって、本当に仲良しさんなんだな。なんか、うらやましいわ」


 マサノリがそう言うと、カズは少し驚いた顔をして、


「え? そうか? まあ、確かにオレらは小さい頃からずっと一緒だったからな。でも、別に特別なことしてるわけじゃねーよ。してるとしたらオナニーくらいかな?」


「えっ、オナニー!?」


「うん。たまに一緒にしてんだよな」


 羨ましそうな顔で、カズの顔をマジマジと見るマサノリ。

 そして。


「でもさ、ああいう奴って、他人には無関心な感じがするけど、カズには妙に心を開いてるよな。オレ、あいつに話しかけたことあるけど、ほとんど返事もしてくれなかったし」


「ああ、ハヤトはな、人見知りが激しいんだよ。でも、一度心を開いたら、めちゃくちゃ面倒見がいい奴だぞ。オレも、小学生の時によく守ってもらったし」


 カズの口調には、どこか誇らしげな響きがあった。

 マサノリは少し考えるように眉をひそめ、


「そうか⋯⋯でも、ちょっと気になる奴だよな。ああいうのって、どうやって仲良くなるんだ?」


「んー⋯⋯まあ、まずは話しかけることだろ。ハヤトは、意外と気さくなんだけど、相手がどう思ってるか、ってのを敏感に感じ取る奴だからな。本気で仲良くしたいって気持ちが伝われば、きっと応えてくれるさ」


「ふーん⋯⋯でも、話しかけるにも、何を話せばいいかわかんねぇんだよな」


「じゃあさ、オレが一緒にいる時に、声かけてみれば?」


「え、マジで? お前がいるなら、ちょっと気が楽かもな」


 カズは軽く肩をすくめ、


「まあ、いいじゃねーか。オレとハヤトの間には、お前が入っても問題ねーし。三人で遊ぶのも悪くねーだろ」


「お、いいじゃねーか。なんか、俄然やる気になってきたわ」


 二人は笑いながら教室に戻った。

 そこには、すでに授業の準備を整えたハヤトがいた。

 彼は、カズが戻ってくると、ほんのわずかな微笑みを浮かべた。

 それを見たカズは、心の中で「やっぱり、ハヤトはオレのことを特別に思ってくれてるんだな」と感じていた。


 放課後、カズはハヤトに声をかけた。


「よし、今から図書室行くか? マサノリも誘ってさ。三人で勉強でもしてみねーか?」


 ハヤトは少し驚いた表情をしたが、すぐにうなずいた。


「⋯⋯うん、いいよ。マサノリって、確か、新聞部の奴だよね?」


「そうそう。意外と頭いいし、三人でやれば、勉強も捗るだろ」


 図書室に着くと、マサノリもすでに来ていた。

 彼は、ハヤトを見ると少し緊張した様子だったが、カズが、


「さっき話しただろ? オレの幼なじみのハヤトだ」


 と紹介すると、少しずつ表情が柔らかくなっていった。


「あの、ハヤトって、数学得意なんだよね?」


 マサノリがそう聞くと、ハヤトは少し照れながら、


「まあ、得意ってほどでもないけど⋯⋯解けると楽しいから、好きかな」


「へぇ、俺も数学は好きなんだけど、ちょっと苦手なんだよな。教えてくれる?」


「うん、いいよ。一緒にやろう」


 その日、三人は図書室で勉強をしながら、少しずつ打ち解けていった。

 カズは、そんな二人の様子を見て、心の中でほくそ笑んでいた。

 彼にとって、ハヤトはかけがえのない存在だったが、そのハヤトを、他の誰かと分かち合えるということが、何よりも嬉しかった。


 そして、その日以来、三人は頻繁に一緒に勉強したり、昼休みに話したりするようになった。

 ハヤトも、以前より笑顔をこぼすことが増え、クラスの中でも少しずつ存在感を示し始めていた。


 カズは、そんな変化をただ温かく見守っていた。

 そして、ある日、彼の胸の奥に、少しの不安が芽生えるのを感じた。

 それは、ハヤトが、マサノリに対して、自分と同じような特別な感情を抱いてしまうのではないか、という不安だった。


 だが、カズはそれを口にはしなかった。

 彼は、ハヤトを信じていた。  

 そして、自分自身の気持ちに正直に、三人で過ごす時間を大切にしていこうと心に誓った。


 学び舎でのひととき――それは、友情、そして恋の芽生えが交錯する、青春の一ページだった。




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