### 天敵 or 友達
カズには苦手な人物が一人だけいた。
名前はケンゴ。
他の奴らと違って、ケンゴはカズに触れられるのを物凄く警戒していた。
一度、触った時なんて、
「触んじゃねーよ! キショイなっ!!」
とかと、物凄く騒がれてしまった。
それ以来、カズはケンゴのモノだけは触らないように心掛けている。
もちろん、トイレで覗き見ようとするようなものなら、怒髪天を衝く勢いで怒鳴られるのは目に見えている。
よってカズは、ケンゴには近寄らないようにしていた。
しかし、ある日の事。
ふとした拍子からケンゴのモノを触ってしまった。
その時、ケンゴのモノは勃起していた。
カズは咄嗟に謝った。
「ゴメン! 触るつもりじゃ無かったんだ! ほんと、ゴメン!!」
ケンゴは赤い顔をしたまま、黙っていた。
普段ならものすごい剣幕で怒鳴ってくる筈のケンゴが、一言も言わず、黙って自分の席に着いた。
拍子抜けしたカズだが、しかし、問題はそれで終わらなかった。
放課後、帰宅しようとしていたカズを、ケンゴが呼び止めた。
「ちょっくら付き合えや」
そう言って、体育倉庫までカズを連行して行く。
体育倉庫に着くと、ケンゴは入り口のドアを閉め、カズに言った。
「おまえに聞きたい事がある」
「何?」
カズは恐る恐る尋ねる。
「こんな事はおまえにしか聞けない」
「だから、何?」
ケンゴは一瞬黙り込むと、意を決したように口に出した。
「他の奴らと比べて、俺のモノはどうだ? やっぱ小さいのか?」
「⋯⋯へ?」
赤い顔をして、ケンゴがもう一度言う。
「だから! 俺のモノは他の奴らより小さいのか、と聞いてる」
カズは一瞬、ケンゴの言葉の意味を理解できなかった。
「⋯⋯え? 何言ってんの?」
カズは思わず聞き返す。
ケンゴは目をそらしながらも、それでも何かを吐き出すように続ける。
「俺、おまえにしか聞けないんだよ。他の奴らには言えないし、言ったら笑われるだろうし⋯⋯。でも、おまえは俺のモノに触ったことがあるだろ? その時、感じたこと、教えてくれないか?」
カズは混乱した。
ケンゴが、あそこまで警戒していたカズに、自分の身体のことを尋ねてくるなんて、考えてもみなかった。
しかも、その内容が「モノのサイズ」だなんて⋯⋯。
「⋯⋯まさか、真剣に聞いてんの?」
ケンゴは眉をひそめ、苛立ちながらも、どこか不安そうに言った。
「当たり前だろ! おまえ、俺が何であんなに警戒してたかわかんねーのか? 触られるのが気持ち悪いってんじゃねーよ。ただ、恥ずかしかったんだよ! 俺のは他の奴らと比べて、やっぱ小さいから⋯⋯」
カズは言葉を失った。
そこまで言って、ケンゴは顔を真っ赤にし、目を伏せたままだった。
カズは改めて、先ほどのことを思い返す。
確かに、ケンゴのモノに触れたのは一瞬だったが、確かにそれは勃起していた。
そして、大きさに関しては⋯⋯。
「⋯⋯別に、小さくなんかねーよ」
カズは正直に答えた。
「むしろ、普通よりちょっと大きいぐれーだと思う」
ケンゴは驚いたように顔を上げた。
「⋯⋯本当かよ?」
「本当だよ。俺、嘘つかないし。ていうか、こんなこと聞かされると思ってなかったから、正直に答えるしかねーよ」
ケンゴは少し恥ずかしそうにしながらも、ほっとした表情を見せた。
だが、すぐにまた何かを思いついたように、カズに尋ねる。
「じゃあ⋯⋯、もし、他の奴らと比べて、俺のが大きいって言ったら、信じるか?」
カズは首を傾げた。
「⋯⋯どういうこと?」
ケンゴは少し恥ずかしそうにしながらも、意を決したようにズボンのチャックを下ろし始めた。
カズは慌てて声を上げる。
「ちょ、ちょっと、何してんだよ!」
「黙れ! おまえが真実を言えるか、試してんだよ!」
ケンゴは一気にズボンを下ろし、パンツも一緒に下ろした。
そこには、確かにカズの想像以上に立派なモノが突き出ている。
カズは目を丸くした。
「⋯⋯マジで、こんなに⋯⋯」
ケンゴは恥ずかしそうにしながらも、少し得意そうに言った。
「どうだ? おまえが言った通りだろ? 俺のは他の奴らより、僅かにデカイんだ」
カズは混乱しながらも、正直に答えた。
「⋯⋯うん、確かに、デカイ。でも、なんで今ここで⋯⋯?」
ケンゴは少し恥ずかしそうにしながらも、真剣な表情で言う。
「俺、ずっと悩んでたんだよ。他の奴らと比べて、俺のが小さいんじゃないかって。だから、あんなに触られるのを嫌がってた。でも、おまえに触られた時、おまえが驚かなかったのが気になって⋯⋯」
カズは苦笑いしながら答えた。
「驚かなかったっていうか、驚きすぎて声が出なかったんだけど。まさか、こんなに⋯⋯」
ケンゴは少し照れくさそうに笑った。
「⋯⋯おまえ、変なやつだな。でも、ありがとな。俺、ちょっとスッキリした」
カズは頷きながらも、少し不安そうに言った。
「でも、これ、誰にも言わないでくれよな。オレがケンゴのモノを見たって話、広まったらマズイだろ?」
ケンゴはニヤリと笑いながら答えた。
「ああ、大丈夫だ。俺も言わない。でもな、カズ⋯⋯」
ケンゴは少し真剣な表情に戻り、カズに近づく。
「おまえには、もうちょっと俺のことを理解してほしい。俺が警戒してた理由、わかってもらえたよな?」
カズは頷く。
「ああ、わかった。でも、次はもうちょっと普通に話してくれよな。いきなり体育倉庫に連れてこられると、ちょっと怖いんだよ」
ケンゴは笑いながら、カズの肩を軽く叩いた。
「わかった。次からは、普通に話すから」
そして、ケンゴはズボンを上げながら、カズに言った。
「⋯⋯おまえ、意外と信用できるやつだな」
カズは少し照れくさそうに笑った。
「⋯⋯ケンゴも、悪くねーやつだな」
それから、二人は体育倉庫を出て、校庭を歩きながら、何だかんだで話し始めた。
ケンゴは、自分のコンプレックスをカズに話したことで、少しずつ心を開いていく。
カズもまた、ケンゴのことをただの天敵だと思っていたが、意外と悩んでいたんだな、と感じた。
二人の関係は、そこから少しずつ、変わっていくことになる。