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第25話 初めてのお招き

### 初めてのお招き


 それから数日後の休日。


 カズはケンゴの部屋に招かれた。

 その日、強い日差しの下、汗だくになりながらも、どこか期待と緊張を胸に抱いていた。


 ケンゴの家は、ちょっとした田舎風の佇まいで、母屋から少し離れたところに建つ古びた離れが彼の部屋だった。

 周囲は木々に囲まれ、風が通り抜ける音が心地よく、その日は特に、汗ばむ暑さの中でも少しの涼しさを感じることができた。


「お邪魔しま〜す」


 カズは玄関先でそう声をかけ、靴を脱いで中へ入る。

 そこは、想像していたよりも綺麗に片付いていた。

 だが、カズはすぐに見つけてしまう。


「へ〜っ、すっげーキレイにしてるじゃん」


「つーか、お前が来るから掃除ぐらいはしたけどな」


 ケンゴが少し照れくさそうに笑う。


「でも、ジンジロ毛が落ちてるけど?」


 カズがそう言うと、ケンゴは一瞬固まり、慌ててコロコロを取り出して床を転がし始めた。


「おまえな! 普通見つけても黙ってるだろ!」


「でも、掃除したって言うから⋯⋯」


 カズは肩をすくめて笑った。 

 ケンゴは赤面しながらも、なんだかんだでカズの存在を心地よく感じているようだった。


「で、今日は何? 何かあったの?」


 カズがそう尋ねると、ケンゴは少し照れくさそうに目をそらしながら言った。


「俺、見た目とかこんなだから友達少なくてさ、おまえと友達になれた事が嬉しくて⋯⋯」


 カズは少し驚いた。

 ケンゴは、自分を「見た目が悪い」と思っているのか。

 確かに、ケンゴは派手な格好をしているし、髪も染めていて、ちょっとした不良風ではあるが、顔立ち自体は悪くないし、むしろ個性的でカッコいいと思う部分もあった。


「で、呼び出したと?」


「あぁ、おまえの話も聞いてみたいと思ってな」


 ケンゴはそう言って、ペットボトルのお茶をカズに手渡す。

 カズはそれを受け取りながら、少し不意打ちを食らったような気持ちになった。


「ま、座れや」


 ケンゴが座布団を用意し、カズに勧める。

 カズは笑顔でその座布団に腰を下ろした。


「なぁ、ケンゴ?」


 カズが、ケンゴの太ももの隙間から見えるものを指差して言う。


「短パンの隙間からモノが見えてるけど?」


「⋯⋯!!」


 ケンゴは一瞬、言葉を失い、顔を真っ赤にした。


「ま、この間見てるから、別に気にしないけどさ〜」


 カズのさらっとした一言に、ケンゴは思わず声を荒げた。


「意識して見せるのと無意識のうちに見られるのでは恥ずかしさが違うだろ!」


「見られたくなければ、せめて半パンにしてくれよ」


 カズはそう言って笑った。

 カズ自身は、その日、薄い青の半パンを履いていた。

 膝上10cmほどの、夏らしい短さだ。


 ケンゴは恥ずかしそうに太ももを隠しながら、カズに向き直った。


「お前、本当に遠慮ねぇな⋯⋯」


「だって、ケンゴはオレの友達だし、別に隠す必要ないじゃん」


 カズの言葉に、ケンゴは少し驚いた表情を見せた。


「友達って⋯⋯」


「あぁ、当たり前だろ。お前がオレを友達って思っててくれてるなら、オレも同じだよ」


 ケンゴは少し目を潤ませながら、でも恥ずかしそうに笑った。


「⋯⋯ありがとな、カズ」


 それから二人は、雑談を始めた。

 ケンゴの部屋には、意外にも本棚があり、小説や漫画が並んでいる。

 カズがそれを見て驚くと、ケンゴは少し恥ずかしそうにしながらも、本の話を始めた。


「実は、俺、小説好きなんだよ。特にミステリーとか」


「へぇ〜、意外!」


「お前には見えないだろうけどな」


 ケンゴはそう言って笑った。 

 カズも、小説が好きだというと、ケンゴは目を輝かせた。


「じゃあ、今度一緒に本屋行こうぜ。お前となら、話が合う気がする」


「いいじゃん、それ!」


 カズは嬉しそうに頷いた。


 それから、話はどんどん広がっていった。

 ケンゴは、意外にも繊細な一面を持ち、カズはそのギャップに惹かれていった。

 一方で、カズの明るさと自然体な性格に、ケンゴも少しずつ心を開いていく。


「なぁ、カズ」


 ケンゴが、ふと真面目な顔で言った。


「お前、俺のことをどう思ってんの?」


 カズは少し考えてから、こう答えた。


「正直、最初はちょっとビビったよ。見た目も、喋り方も、全然タイプじゃなかったし⋯⋯」


 ケンゴは少し肩を落とした。


「でもさ、話してみたら、案外いい奴だった。オレ、ケンゴといると、変に気を遣わなくていいのが楽なんだよ」


「⋯⋯そうか」


 ケンゴは、少し恥ずかしそうに目をそらしながらも、心から嬉しそうだった。


「俺もさ⋯⋯お前といると、自然でいられる気がする」


「じゃあ、これからもよろしくな」


 カズが手を差し出すと、ケンゴは少し照れくさそうに、でも嬉しそうにその手を握り返した。


「あぁ、よろしく」


 それから、二人は夕方まで話し続けた。

 汗だくになりながらも、笑い、語り合い、少しずつ心の距離を縮めていった。


 ケンゴの部屋には、風が吹き抜け、木々の葉の音が心地よく響いていた。

 二人の会話は、その風にのって、どこまでも軽やかに続いていく。


 そして、カズは心の中でこう思った。


——ケンゴと、もっと話していきたい。

 もっと、知りたい。


 そして、ケンゴもまた、カズの存在を、心の奥底から大切に感じていた。


 二人の関係は、まだ始まったばかりだった。

 だが、その始まりは、とても温かくて、とても自然なものだった。







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