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第30話 全国大会

### 全国大会


 ある晴れた日に、全国大会は開催された。


 今回、カズが出場するのは100メートルと200メートルの二種目。


 ハヤトとケンゴが早々と応援に来ている。


 マサノリは今回は用事が重なって来られないらしい。


「カズ、ここまで来たら落ち着いて走れよ」


 そう言うハヤトに、ケンゴが、


「何言ってんだよ! ここまで来たら勝つしかねーだろ!!」


 息巻いてそう言う。


「とにかく走るしかねーんだから、頑張るわ」


 カズも気楽そうに応える。


 観客席には、全国中学校陸上競技選手権大会の熱気が満ちていた。

 太陽が眩しく照りつけるトラックには、選手たちがウォームアップを終え、次々と控室へと向かっている。

 カズもまた、ハヤトとケンゴの前でストレッチをしながら、自分の番を待っていた。


「カズ、100メートルの予選、まずまずの組だな。無理せず流れに乗っていけば、決勝まで上がるはずだ」


 ハヤトが冷静に分析する。


「無理せずって、カズが走るってことは、勝つってことだろ!」


 ケンゴは相変わらずの熱の入れようだ。


 カズは笑いながら、


「まあ、無理はしないけど、絶対に勝つつもりで走るよ」


 と返した。


 彼の瞳には、ただの自信ではなく、勝利への強い覚悟が宿っていた。


 控室に入ると、他の選手たちもすでに集まっており、それぞれが集中していた。

 カズは目を閉じ、心を落ち着けた。

 心拍数を意識して、呼吸を整える。

 それは、これまでの練習の中で培ったメンタルの技術だった。


「カズ、大丈夫か?」


 隣にいた中学生が声をかけてきた。

 彼もまた、100メートルの予選に出場する選手だった。


「ああ、大丈夫だ。お互い、がんばろうな」


 カズは軽く笑って返す。

 その余裕が、周囲の選手たちの緊張を和らげたようだった。


 やがて、名前が呼ばれた。

 カズは控室を出て、トラックへと向かう。

 観客席からは、歓声と拍手が沸き起こる。

 その中には、ハヤトとケンゴの声も混じっていた。


「カズ! 頼むぞー!!」


 カズは軽く手を上げて応え、スタートラインに立った。

 足をセットし、息を整える。ピストルの音が聞こえる前に、彼の意識はすでに走ること一色になっていた。


「パンッ!」


 一斉に選手たちが飛び出す。 

 カズのスタートは完璧だった。

 一瞬の加速で、他の選手たちを引き離す。

 100メートルという短い距離では、ほんの数瞬の差が勝敗を分ける。

 カズはその瞬間を、すべての練習で磨いてきた。


 ゴールテープを切ったのは、カズだった。

 タイムは10秒71。

 予選通過は確実だ。


 観客席からは大きな歓声が起こり、ハヤトとケンゴも立ち上がって喜びを爆発させた。


「やったぞ!! カズ、一発勝ちだ!!」


 ケンゴはガッツポーズしながら叫ぶ。


「さすがだな。あのスタートは完璧だった」


 ハヤトも満足そうに頷いた。


 カズは、次の種目である200メートルの予選を控えながらも、落ち着いた表情でウォームダウンを始めた。

 彼の走りには、無駄な力みがなかった。

 すべてが計算ずくで、かつ自然だった。


 午後には200メートルの予選も行われた。

 100メートルとは違う走り方が求められる200メートル。

 カズは、コーナーの走り方、スピードのコントロール、そして最後の直線での追い込みを意識して走った。

 結果は、21秒03。これもまた、予選をトップで通過するタイムだった。


「カズ、やるな。200メートルも一発通過だ」


 ハヤトが感心しながら言う。


「まだ決勝じゃねーからな。ここからが本番だ」


 カズはそう言って、再びウォームダウンを始めた。


 夜になると、カズはホテルに戻り、軽い食事をとった。

 その後、マッサージを受け、ストレッチを丁寧に行い、早めにベッドに入った。

 翌日は、100メートルと200メートルの決勝が控えている。

 体力と精神力を温存するためには、休息が何よりも重要だった。


 翌日、朝早くから観客席は満員だった。

 全国大会の最終日、そしてカズにとって最大の勝負の日が始まる。


 まずは100メートルの決勝。

 カズは、昨日の予選よりもさらに集中していた。

 ピストルが鳴ると、一気に加速。

 他の選手たちも一歩も引かず、激しい競り合いとなった。

 しかし、カズは最後の直線で一気にスパートをかけ、見事に優勝を果たした。

 タイムは10秒63。大会新記録だった。


 観客席からは、大きな歓声と拍手が起こった。

 ハヤトとケンゴも涙を浮かべながら、カズに向かって手を振り続けた。


「カズ、やったぞ!! 全国一だ!!」


 その後、200メートルの決勝も行われた。

 カズは、100メートルの疲労を残さず、完璧な走りを見せた。

 コーナーでのスピード維持、直線での追い込み、すべてが見事に決まり、20秒95で優勝。

 こちらも大会新記録だった。


 表彰式では、カズが二つの金メダルを手にした。

 観客席からは大きな拍手と歓声が送られ、彼の名前が何度も呼ばれた。


「カズ! カズ! カズ!」


 ハヤトとケンゴは、涙をこらえながら、ただただ彼の姿を見つめていた。


「⋯⋯マサノリも見に来てくれればよかったのにな」


 ケンゴがそう呟く。


「ああ、でも、彼もきっと、どこかで応援してくれてたはずだ」


 ハヤトが静かに答える。


 カズは、金メダルを首にかけ、観客に向かって深く礼をした。

 その表情には、ただの喜びではなく、感謝と、最後の目標への決意が込められていた。


 全国大会を制したカズ。

 しかし、彼の走りは、まだ終わらない。

 次なる舞台へと、彼の夢はすでに向けられていた。






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