理子の心の中には、まるで大波が押し寄せてくるような衝撃が走った。
刑務所に入る前の三年間の結婚生活で、彼女と早瀬深が親密な関係を持った回数など、片手で数えられるほどしかなかった。
彼はもともと禁欲的で自制心が強く、親密な関係には全く興味がないようだった。エネルギーのほとんどを仕事に注いでおり、仕事中毒として有名だった。
理子も一度はこっそり相談したことがあり、生まれつきセックスに冷淡な人もいるのだと理解していた。彼女は無理強いしなかったし、早瀬優也を身ごもったあの時でさえ、早瀬家から早く子供を作れと急かされ、寝室にムードを盛り上げるアロマキャンドルまで焚かれたからだ。
そのことを彼女が知ったのは事後のことだった。幸い子供は無事に生まれ、早瀬深も喜びを見せたので、彼女もそれ以上は追及しなかった。
だが今、彼女が出所したばかりで、竹内清美という永遠の「最愛」が彼の傍らにいるのに、どうして彼が最初に考えることが、彼女とそういうことをすることなのだろう?
理子は自分の考えすぎだと思い直した。
彼女は必死に早瀬深の手を振り払わずにいた――もし彼がホテルの部屋を取るのがそういう目的でないのなら、自分が過剰に反応してしまえば、まるで自分がそれを待ち望んでいるかのように見えてしまう。
こうして、黒沢理子は早瀬深に半ば抱きかかえられるようにして黒沢家を後にした。
玄関には彼のレクサスLSが停まっていた。二年ぶりに見る彼の愛車はまた新しくなり、より豪華で高価になっていた。無言で「早瀬財閥の事業がますます発展している」ことを示していた。
早瀬深はドアを開け、彼女に先に乗るよう合図した。理子は彼を一瞥し、疑念がさらに深まった。まあいい、いったい彼が何を考えているのか、見極めてやろう。まさか本当にそういうことのためじゃないだろう。もしかしたら、ただ口実を作って二人きりで何か話したいだけかもしれない。
彼女が車に乗り込んだその時、竹内清美が追いかけてきた。
早瀬深の表情が、ほんのわずかに変わった。
窓越しに、理子は竹内清美の顔に浮かぶ落胆の色をはっきりと捉えた。
早瀬深は彼女の元へ歩み寄った。車の窓は遮音性が高く、黒沢理子には二人が何を話しているのか聞こえなかったが、短い会話の後、二人は離れた。竹内清美は無理に笑顔を作っていたが、その様子はまるで「賢く寛大な」譲歩を示しているようだった。
早瀬深はすぐに車に戻り、彼女の隣に座った。
密閉された車内は、空気が一瞬で固まった。お互いの心臓の鼓動すら聞こえそうな静けさだった。
理子は何も言う気がなく、無言のままホテルへと向かった。
スイートルームは、やはり丁寧に飾り付けられていた。鮮やかなバラがあちこちに飾られ、雰囲気はどこか艶めかしい。しかし、空気に漂う馴染み深いアロマの香りが、黒沢理子の眉を瞬時にひそめさせた。
この香り、彼女は骨の髄まで覚えている!五年前、まさにこの同じアロマキャンドルが、彼女と早瀬深の寝室で焚かれ、あのいつも抑制的で禁欲的な男を我を忘れさせ、優也が生まれたのだ!
やはり、彼女の考えすぎではなかった。
彼が連れ出したのは、話をするためなんかじゃない。
彼がホテルの部屋を取り、心を込めて飾り付け、アロマまで焚いたのは、彼女とそういうことをするためだったのだ!
彼は正気じゃないのか?
黒沢理子は部屋の入り口で、思わず足を止めた。
彼女は勢いよく顔を上げ、彼を真っ直ぐに見つめた。声には微かな震えがにじんでいた。
「深……私のこと、愛してるの?」
愛――この言葉を、早瀬深が彼女に言ったことはなかった。
やはり、彼は黙り込んだ。その沈黙こそが、最も残酷な答えだった。
理子の心は冷え切り、くるりと背を向けて立ち去ろうとした。
早瀬深は二歩追いかけ、彼女の腕を強く掴んだ。しかし次の瞬間、彼は何かを思い直したように、力を抜いた。
「もういい……」彼の口調は少しぎこちなかった。「今出てきたばかりだから、気持ちの整理がまだついていないだろう。……ゆっくりでいい。」
「ゆっくりで……?」
一年前、財産分与もない離婚協議書にサインしたその時から、「私たち」なんてもう存在しないのに?
たとえ彼が二年前、自分の無実を訴えなかったことに負い目を感じていたとしても、彼女には「ゆっくり」している時間など残されていなかった。
その瞬間、理子はもう少しで、自分の体が今にも壊れそうだという事実を口に出しそうになった。だが、その言葉は喉元で必死に飲み込んだ。
どうして?また尻尾を振って哀れみを乞い、彼の施しのような同情を得たいのか?
「二年前、あなたが立っていた場所なら――」理子の声は氷のように冷たかった。「一番よく見えていたはずよ。竹内清美が祖母を突き飛ばしたって。彼女はそんなに大事なの?彼女の人生の潔白を守るためなら、私を刑務所に突き落としてもいいの?」
もう心は灰になって、こんな人たちに心を乱されることはないと思っていた。だが今、湧き上がる疑問がどうしても口から溢れ出てしまう。
早瀬深も、まさか正面からこう問い詰められるとは思わなかったようだ。
彼女は彼をじっと見つめていた。まるで、遅すぎた合理的な説明を待っているかのように。
だが、早瀬深はただ視線を逸らし、波のない口調で言った。
「……見ていなかった。」
彼は嘘が得意ではないはずだ。だが竹内清美のためなら、この嘘もすらすらと出てくるのか。
「もう二年も刑務所に入っていたんだ、今さらそんな昔の話を蒸し返しても仕方ないだろう?」
彼は核心を避け、なだめるように言った。
「過去のことは忘れよう。これからは、黒沢家も早瀬家もお前を補償し、守っていく。最後の一年は外で過ごせるし、毎月保護観察所に顔を出せばいい。」
黒沢理子は袖の中で、手が震えるのを抑えきれなかった。
二年も冤罪で服役して、それをただ運命として受け入れろと?無実を叫ぶ権利すらないと?
早瀬深までこんな考えなら、黒沢家の連中なんて、どんな顔をしているのだろう?
「深……あんた、刑務所に入るってどんな気分か分かる?」
黒沢理子の声はかすれて、骨の髄まで冷たかった。
言い終わると、彼女はもう耐えきれず、背を向けて歩き出した。
だが早瀬深は、もう一度強く彼女の腕を引き、そして思わず口をついて出た言葉は――
あまりにも馬鹿げていて、黒沢理子の全身の血が凍りついた。
「理子!もう一人、子供を作ろう! 君はずっと女の子が欲しいって言ってたじゃないか!」