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第十一話 軽蔑と選択


竹内文子は破られた書類のコピーを見つめ、心配そうな様子で口を開いた。


「理子はお金も株も全部返して、家にも帰ってこないけど……外で何か困っているんじゃないかしら?」


そう言いながら、彼女は自然な仕草で黒沢牧夫の隣に座り、両手を彼の肩にそっと置いた。


黒沢牧夫は竹内清美に一瞥を送り、それから理子と比べてみて、心の中に苛立ちが募った。


年齢はほぼ同じなのに、竹内清美は会社にとって欠かせない中心人物となり、理子は今もなお彼をこんなにも悩ませている。


彼は不機嫌そうな口調で言い放った。


「理子に何ができる?刑務所に入った女だぞ。黒沢家と早瀬家を離れて、どうやって生きていくつもりだ?」


早瀬深は目を細め、ふと口を挟んだ。


「起業したばかりのころ、理子も会社の管理職を務めたことがある。もしかしたら……」


「お前たちが起業して成功できたのは、全部深の実力のおかげだ!」


黒沢牧夫は早瀬深の言葉を遮った。


「理子にどれほどの価値があるか、父親の俺が一番わかってる。」


黒沢悟も頷いて同意した。


「自分の家の会社だから、俺たちが後ろ盾になってたから、何でもできるように見えただけだ。黒沢家を離れたら、何もできやしない。」


ただ一人、黒沢青峰だけが頭をかきながら小さな声で呟いた。


「みんな、理子のことを悪く言いすぎじゃないか……俺、学生時代の彼女は結構優秀だったって覚えてるし、特技もたくさんあったような……」


「優秀?」


黒沢牧夫は鼻で笑い、衝撃の一言を放った。


「あいつが当時あのトップの大学に入れたのは、俺が学校に校舎を一棟寄付してやっとねじ込んだだけだぞ!本当に優秀なら、今みたいな落ちぶれ方するはずがない。」


その言葉が出るや否や、リビングは一瞬で静まり返った。


早瀬深の顔色が一変する。


かつて理子が彼の目を引いたのは、彼女が「自分の実力で合格した」と断言していたからだった。彼は自分と肩を並べることのできるエリートを見つけたと思っていた。


今、黒沢牧夫の言葉は平手打ちのように響き、裏切られたような冷たい怒りがこみ上げてくる。


竹内清美は早瀬深の表情の変化を敏感に察知し、すぐに話題を変えた。


「まあ、今はとにかく理子さんを家に戻す方法を考えるのが一番大事よ。優也くんもまた入院したし、子どもが可哀想だわ。」


彼女はわざと早瀬優也の病状を持ち出し、見事に早瀬深の理子への怒りを、息子を心配する気持ちへとすり替えた。


黒沢牧夫は自信満々に言い切った。


「あいつのことはよくわかってる。子供の頃から贅沢に育ってきたし、一文無しで外に出ても、二日と持たずに自分から帰ってくるさ。」


竹内清美はすかさず提案した。


「帰ってきてくれるならいいじゃないですか。牧夫様、明日私は『株式会社リライズ』に『Li』アルゴリズムの使用権の交渉に行きます。黒沢家と早瀬財閥はAI分野で緊密に協力していますし、兄さんたちもご一緒にいかがですか?」


黒沢悟の目が輝いた。


「俺も行っていいのか?」


竹内清美は柔らかく微笑んだ。


「もちろんです。私はいつも黒沢家を自分の家だと思っていますし、悟さんのことも実の兄のように思っています。リソースはみんなで分かち合うものですから。」


竹内文子はタイミングよく果物を差し出し、優しく褒めた。


「清美ちゃんは本当に情に厚い子ね。」


黒沢牧夫は満足そうに頷いた。


「そうだな、あのときお前の留学を認めて本当によかった。」


そのとき、竹内清美の顔に一瞬、誰にも気づかれないほどの冷たい表情がよぎった。


――


そのころ、理子はホテルの部屋で履歴書を用意していた。


IT業界を離れて六年、わずか一週間の猛勉強ではどうにか流れに追いつくのがやっとだった。


彼女は、天賦の才だけで頂点に立てる人間などいないと痛感していた。六年のブランクは紛れもない現実だ。


鹿野明が彼女のために会社の重要なオフィスを空けてくれていても、理子は自分がいきなり戻る資格はないと思っていた。


だから、彼女は一からやり直す決意をした。


翌朝早く、理子はシンプルで快適な服装に着替え、履歴書を持って配車アプリでタクシーを呼び、「株式会社リライズ」へと控えめに向かった。


その頃、黒沢家では黒沢悟が上機嫌で竹内清美のために車のドアを開け、彼女を後部座席にエスコートし、自分は運転席に回り込んだ。まるで運転手のような様子だった。


車内では、話題は自然と「株式会社リライズ」に移った。


竹内清美が問いかける。


「兄さん、私が渡した資料はちゃんと見ましたか?」


黒沢悟は自信満々に答えた。


「大丈夫、しっかり調べたよ。でもこの会社、やっぱり背景が謎だな。公開されてる情報も少ないし、俺も裏で調べてみたけど、あまり掘り出せなかった。」


竹内清美は口元にかすかな優越感を浮かべ、さらりと言った。


「ええ、ここ数年でやっと国内に拠点を戻した会社ですから。私が留学していたとき、一部で噂を聞いたことがあるわ。もともとは小さなスタジオだったのが、巨額の投資で海外発展したとか。今は表向き鹿野明が経営していますが、裏にはほとんど姿を見せない二人の創業者がいるそうです。その一人が、『Li』アルゴリズムの本当の開発者だって噂ですよ。」

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