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第十六話 職場の噂


理子が「株式会社リライズ」のデータ部で働き始めて、まだ半日も経たないうちに、彼女と鹿野明の関係についての憶測が社内の小さな範囲で広まっていた。


竹内清美は「株式会社リライズ」内の幅広い人脈を活かし、この噂をすぐに手に入れた。その内容は、彼女にとって非常に意外なものだった。すぐさま彼女は隣にいた黒沢悟にスマートフォンを差し出した。


「兄さん、リライズの人から聞いたんだけど……お姉さん、どうやら鹿野社長に近づいてるみたいよ。」


竹内清美は言葉を選びながら、微妙な表情を浮かべた。


黒沢悟は即座に声を荒げた。


「何だって?あいつは何をしてるんだ?男をたぶらかしてるのか?」


彼は「鹿野社長」という重要な肩書きをまるで無視していた。


竹内清美もまた疑問だった。理子はどうやって鹿野明に接触したのか?自分でさえアポイントすら取れない相手なのに、理子のような「清掃員」がどうして近づけるのか?一体何を考えているのか?


竹内清美のスマートフォンに表示された確かな社内情報を見て、黒沢悟の最初の反応は、その情報を隠すことだった。彼は焦りながら竹内清美に懇願した。


「清美、頼むから、この理子の馬鹿な行動、絶対に深には知られないようにしてくれ!今、一番大事なのは二人が早く子供を作って優也を助けることだ!もし深が、理子が外で男と浮気してるなんて知ったら、あいつの性格じゃ絶対に理子にもう触れなくなる!」


竹内清美はいつもの冷静な姿勢を崩さず言った。


「兄さん、わかっています。すべては優也のために。」


黒沢悟は彼女の「大局をわきまえた」態度に、ますます感謝した。


「清美、ありがとう。」


竹内清美は、この噂が広まった以上、これ以上会社で理子を待ち伏せるのは適切ではないと判断した。彼女は助手の大場恵に車を回すよう指示し、遠くから様子をうかがい、事態が制御不能にならないようにすることにした。


一方、黒沢悟は理子の退社を待ち、彼女が会社の門を出るや否や、すぐに駆け寄って半ば無理やり自分の車に押し込んだ。


「黒沢悟!頭おかしいの?何するつもり?誘拐か?」


理子は鋭い声で問い詰めた。


黒沢悟は全く聞く耳を持たず、アクセルを踏み込んで車を黒沢家へと走らせた。


無理やり連れて帰られた理子を見て、黒沢青峰は少し嬉しそうに近寄った。


「理子、帰ってくれたならよかったよ。早瀬家が嫌なら、家にいればいい。」


理子の冷ややかな視線は、父の隣に座っている竹内文子に向けられた。


「家?子供の頃は、父さん母さん兄さんがいる場所が家だった。今は、違う。」


黒沢牧夫はすぐに顔色を変えた。


「その態度は何だ?帰ってきて早々、皮肉を言って、家の中を騒がせたいのか?」


理子は淡々と答える。


「だから、帰るつもりはない。」


黒沢悟は怒りに任せて、手に持った上着をソファに叩きつけた。


「俺が連れて帰ったのが悪いのか?連れて帰らなきゃ、外で恥をさらして仕事探しなんてするのか?」


黒沢青峰は「仕事探し」という言葉を聞いて、慌てて口を挟んだ。


「仕事探し?理子、気分転換に仕事したいなら黒沢商事でも早瀬財閥でもいいじゃないか?どうしても無理なら、金を出して好きなことができる会社でも作ってやるよ?」


理子は兄を見た。その目には諦めと呆れが滲んでいた。まだ子供をあやすように接してくる。自分を無能で家に養われるしかない存在だと思い込んでいるのだ。


黒沢悟は黒沢青峰の言葉を遮った。


「もういい!」そして理子に怒りをぶつけた。


「お前はどんな仕事をしてるんだ?人のところで清掃員だ?うちの家の面汚しもいいところだ!」


竹内文子は「清掃員」という言葉を聞いて、すぐに立ち上がり、大げさな口調で言った。


「あらあら、理子がそんなことしちゃダメよ!お嬢様がどうして……」


黒沢牧夫はさらに激怒し、手元のコップを取って理子に投げつけた!理子は身をかわし、急須は彼女の足元で粉々になった。


「清掃員の何が悪いの?」理子の声は冷たかった。


「愛人になるより、ずっとマシでしょう?」


黒沢悟は完全に激怒し、指を指して罵倒した。


「よくそんなことが言えるな!会社で鹿野社長をたぶらかしてるところを見られてるんだぞ!理子、黒沢家はそんなことを教えた覚えはないぞ!お前は既婚者だってことを忘れるな!出所してから家に戻らず、恥も知らず!頼むから、少しは女の道を守ってくれよ!」


理子は皮肉な笑みを浮かべ、視線を黒沢牧夫に向けた。


「それが黒沢家の家風じゃないの?兄さんは私が勉強上手と褒めてくれないの?」


その言葉が終わると同時に、重い足音と抑えきれない怒りが部屋に響いた。


皆が目をやると、早瀬深が氷のような表情でリビングに入ってきた。


彼は理子の手首を強く掴み、その力は骨が砕けそうなほどだった。そして、冷たく鋭い声で言った。


「理子、俺と来い。」

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