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第22話 ダンジョン

その日は片付けを終えて早々に正面に立てかけていたメニュー表の看板を片付けていたが、そこにある集団がやってきた。


「ああ?もう閉店かよ。俺らがわざわざ買いに来てやったっていうのに。おいお前!今すぐパンを焼け」


 その人物はものすごく偉そうで私はカチンときた。


「申し訳ございませんが本日は売り切れており、今から特別にパンを焼くことはできかねます」


 かなりはっきりとことわりの言葉を言ったのに、その人達はニヤニヤ笑いながら剣を抜き、私のほおにヒタリと当ててきた。


「俺はお願いしているんじゃねえよ。命令だ。俺はここいらじゃ知らない者がいない勇者パーティーの暁だ。お前はそれを知っての狼藉か?俺らは世界を救ってやろうと言っているんだから大人しく従えばいいんだよ」


(この人、かなりタチが悪い。思い切ってやっつけてやろう)


 私は密かに拳に魔力を貯めて勇者を名乗る男をぶん殴ろうとした時だった。

 店内からラークが出てきて驚愕していた。


「ゼフ!どうしてここに?」


「ラーク知り合いなの?」


ラークは青ざめた顔をしてゼフと言われた男を凝視していた。

ゼフはラークを見るとニヤニヤ笑って言った。


「なんだあ?お前才能なしだからってまさかパン屋に転職したのか?情けないなあ。まあ。お前みたいな能無しを雇って…グハア!!」


 最後まで聞きたくなかった。

 私は怒りのままに拳をゼフの顔面に叩きつけてやった。


「たった一撃で気を失うなんて、これじゃ魔王どころかスライムにも勝てないんじゃないの?」


 私はその惨めな姿を見てせせら笑った。


「えええ!!ララさんお強いんですね!?」


 ラークはかなり驚いていたが、私はラークには実力を隠す気がなかったので、そのままゼフの後方に控えていたパーティーメンバーに向かってグーを作ってにっこり笑うと、彼らは青ざめてゼフを連れて帰っていった。

 ラークを見るとなんだかせいせいした表情になっている。きっとパーティーにいた時散々苦労したのだろう。

(あいつ勇者とか言ってた割に弱すぎる。本気でスライムにも負けるんじゃない?)

 まあ、私の力が強すぎるのもあるのだけれど、鼻っ柱をへし折ってやったからきっともうやってこないだろう。


「ラーク安心してね。あいつがまた来たら今度は腹に一発入れてやるから」


「頼もしすぎますララさん」


 ラークは嬉しそうに笑った。溜まっていた鬱憤が晴れたようで、私も嬉しくなった。

 私はふと思い立ってラークに提案する。


「今日はお店おしまいだし、ダンジョンに行かない?素材も集めたいし、ダメかな?」


 何点か素材切れのものがあったので近々近場のダンジョン(高難易度)に潜ろうと思っていたので、そう提案すると、ラークは困った顔をする。


 きっと私と二人のメンバーで行くのが心配なのだろう。


「安心して、ラークは私が守ってあげるから」


 そういうとラークは固表情で頷いた。


ダンジョンまでは転移魔法を使って一気にとんで行った。


「ここかあ。ダンジョンってワクワクするね!いつかこのダンジョンも制覇したいかも」


「それは…どうでしょうか」


ラークは相変わらず浮かない顔をしていた。きっと自分は防御しかできないのに、攻撃役が私一人なのが心配なのだろう。


(今日はパンに魔法を込めるだけじゃなく、思いっきり魔法を使える!!)


 ラークの心配をよそに、私はワクワクしていた。


 ダンジョンの中に踏み入ると、独特の雰囲気に心が高鳴る。早速モンスターが現れたので私は炎を出現させて焼き払った。


「うああ。俺の出る幕がなかったですね。このダンジョン、1階から硬いモンスターが出るのですが」


その言葉を聞いて少し疑問に思う。さっきの手応えからしたらかなり柔らかい。あれくらいならラークの剣術でもやれるのではと思った。


「ラーク、暁は何階までこのダンジョンを制覇したの?」


「ええと、3階までです。と言っても、3階は入り口でだめになって転移アイテムで帰還しましたけど。その後、誰の責任で3階にはいれなかったかという言い争いになって、黙っていた自分が悪いということになり…パーディーから追い出されたのです」


(やっぱり、暁は勇者パーティーなんかじゃない。かなりのへっぽこチームだわ)


 私は悔しかった。ラークはもううちの大事な従業員。それをこんなダンジョン攻略を理由で追い出したことに。


「まあ。おかげでこうしてラークが一緒に働いてくれることになったことだし。暁がへっぽこでラッキーだったって思わないとね。


 私はそう思い直してくる敵を切っては投げ切っては投げとしながらダンジョンの奥に進んで行った。

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