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第21話 やりがい

「ララさんおはようございます」


 ラークはパッと表情を明るくして私に声をかけてきた。

 その表情ははつらつとして希望に満ちていて、これからの生活に対する希望がありありと滲んでいる。

 その表情を見て私はラークのことを大事にしなければと思った。

 彼ほどいい従業員は探してもなかなか見つからないだろう。


「おはようラーク。もう掃除をしてくれたんだね!ありがとう」


「ええ。家事全般はお任せいただいて大丈夫ですよ。ララさんはパンにエンチャントをかけることだけに集中してください」


 それはありがたい言葉だった。

 正直今まで一人で全てこなしていたからパンにかけるエンチャントの試作の方はなかなか進んでいなかったのだ。うちはエンチャントが得られるパンが売りの店なのにそれがあまりに種類が少なくて不満に思っている人がいるのはわかっていたから。


「じゃあお言葉に甘えて、給料はきちんと出すからお願いしようかな」


「いけません。今も十分お給料をいただいているのにそれ以上は…」


「ダメだよ。私は仕事としてきちんとこなして欲しいから給料を出すの。契約をしっかりした方がお互いにとっていいんだよ」


 今まで無償で働かされることに慣れすぎているラークは最初戸惑っていた様子だったが、言葉の意味を噛み締めて、決意したように応えた。


「では、自分の全力を持ってあたらせてもらいます」


ラークはそう言うとガッツポーズをした。

やる気みなぎる従業員がいるだけで、パン屋は一気に活気付いたような気がする。


 私は早速パン作りを始める。ラークは私の3倍の量のパン生地をこねることができるので、ある程度パン生地を作ったら私はエンチャントに専念してラークにはひたすら生地をこねてもらった。


 今日はリュウマチに効くパンと魔力回復、体力回復、解毒、お肌のハリと潤いの効果のあるパンを焼いてみた。


 ポップにそれぞれの効能と必要個数を書いて張り出す。ラークは焼くのも上手だったので、品出しは私が担当して、ラークには厨房をお願いしてある。

 開店時間になると人が一気に傾れ込んできた。外を見ていなかったから気づかなかったが、どうも入店待ちをしている人がいたようなのだ。

 陳列していたパンはあっという間に売り切れてしまい、要望書を書いてもらう箱には山のように要望が書かれた紙が入れられていた。


 9時開店のうちの店は11時には品物切れで閉店するという事態になった。


「お疲れ様。初日の感想は?」


 私がラークに尋ねると、彼はニコニコ笑いながら答える。


「ええ!今までにないやりがいを感じました。思い切って転職して良かったです」


 ラークは自分が作ったパンを嬉しそうに買っていく人の笑顔を見て、自分がしたことを喜んでくれる人がいることにやりがいを感じたそうなのだ。


 今まで役立たずはせめて仕事しろと言われてバカにされながら生きてきたらしいので、そんな経験は初めてだったんだと嬉しそうに微笑む。


「ラークは本当に優秀な従業員だよ!ありがとう。あなたがきてくれて本当によかった」


 するとラークはハラハラと涙を流した。

 イケメンは泣いていても美しい。思わず見惚れていたが、ハッと我に帰ると慌ててハンカチを差し出した。


「すみません。嬉しくて…。自分にとって、パン屋は天職だと思います。そう感じます」


 「そうだね。じゃあこれからどんどん作ってじゃんじゃん売っていこう!」


 ラークは私のガッツポーズを見て優しく微笑んでくれた。

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