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第20話 責任感

 ラークは働き者だった。

 朝は日が登る前には起き出し、店内の掃除をし始める。

 私も朝は早いけれどラークは更に早かった。


 それも私に遠慮してなどではなく、今までもそうだったらしい。防御しかできない引け目から、仲間達の身の回りの世話をするようにしていたら自然とできるようになったらしい。


(ラークは人が良すぎるからいいように使われていたんだろうな)


 きっとまともに賃金も貰ってなかったのだろう。彼の荷物はボロボロの洋服や最低限のものしかなかったので、昨日のうちに必要なものを買い出しに行ったのだが、大変だった。


〜昨日〜


「待ってください!こんな上等な洋服きれません。もったいないです」


「ダメよ!パン屋は食べ物を扱うんだかいつでも清潔にいてもらわないといけないんだから。それに下着とか、靴も変えた方がいいわね、とにかく清潔感第一よ。私は買い物を続けるからあなたは散髪屋に行ってきて」


「ええ!!散髪ですか?」


「当たり前でしょう。ヒゲもだめ。清潔感がないから。これからは毎日剃るように」


 私がそう言うとラークはしょんぼりしながら渋々散髪屋に向かっていった。


 散髪が終わる前に必要なものや新しい寝具などどんどん買い足していくとかなりの量になったが、私にはなんでも入る魔法のバッグがある。

以前何でも入るものが欲しいと思いながら試行錯誤して作ったものだが、魔力を定期的に注ぐことで、どんなものでも魔力で小さくして軽く大量に持ち運びできる代物だった。


「これのおかげで買い出しが楽になったんだよね。いつか旅をする時にも使いたいなあ。あ!これラークにも作ってあげようかな」


 ムキムキで荷物持ちもしていたらしいラークには不要かもしれないけれど、今度聞いてみようと思って、買い物を続けた。ちょうどお昼頃、そろそろ終わるかと思っていると、少し垂れた優しい瞳に形の良い鼻、凛々しく惹き結ばれた唇のイケメンが声をかけてきた。


「ララさん。お待たせしました。いかがですか?清潔感は出ましたでしょうか?」


 私はあまりのことに固まった。ヒゲモジャでもなかなか渋くて良いと思っていたけれど、ここまで美形だったなんて思っていなかったのから驚いた。


「それ…どうしたの?なんで今まであんな姿を?」


「ああ。パーディーリーダーにお前は髭が生えてる方が貫禄があって良いって言われまして。散髪と髭剃りを禁止されていたんです」


(なんという性悪のリーダーなの)


 明らかに嫉妬からくる嫌がらせだ。自分より美丈夫なラークのことを疎んでしたことだろう。


「これからはどんどん自分を出していこう!でもこの調子だとあっという間かもねえ」


「何がですか?」


「ふふ。あなたに恋人ができるまでってこと」


 そう言うとラークは複雑そうな顔をした。もしかしたら昔女に酷い目に遭わされたのかと慌てて口を閉ざして話題を変える。


「そうそう!買い物が終わったから今日は外食しよう。ラークの採用祝いだから奢るよ」


「雇っていただくのにそんな…」

「いいの!明日からこき使うからせめて今日は労わせて」


 ラークはしばらく逡巡していたが心が決まったらしく、キリッとした顔をした。


「自分、ものすごく食べますが良いですか?」


「OK!いっぱい食べる人は好きだよ。お腹いっぱい食べて。この先に食事の美味しい店があるんだ」


 二人連れ立ってお店に向かった。


〜本日〜


(でもあの食べっぷりは見事だったなあ。お会計は、まあ。今日範囲内だったし)


 結局昨日は十人前くらいの料理をペロリと食べてしまった。

 それでもまだ小腹が空いていた様子のラークをクレープスタンドで2種類のクレープを買ってあげて食べさせたのだ。


(ラークがお腹いっぱい食べられるように私も頑張って働かないとね)


 まるで大型犬を飼ったような気分だった。

 だが仕事に対する気持ちが変わる。責任感。それは今まで一人で気ままにやっていた頃にはない感情だった。


(私がラークを食べさせていかないといけないんだから。今日も一日張り切っていこう)

 そう思いながら身支度を整えてお店に降りていった。

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