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第三十三話「じぃーと地蔵様」

 「1」


 夕方の通学路。

 少女3人組永木桜と星田星夏、そして合唱部の3人組の1人左野一果は学校の帰り道に八木家に向かっている。

 八木楓は39度の高熱を出して学校を休み寝込んでいて、彼女達は見舞いに行く最中である。

「楓。大丈夫かな」

「そうですわね。あら?」

 そこに道端にあるお地蔵様に熱心に深くお参りしている見覚えのある白粉肌の女性。

「あ、凪さんだ。こんにちわー」

 桜は以前夢山病院で出会い彼女とは面識あるので思わず声をかけた。

「あら、あなたは楓と一緒にいた永木桜さんじゃなかったかしら?こんにちわ♪」

 凪は彼女達に微笑みかける。


「そう。あなた達も心配で楓のお見舞いに?」

「はい。そうです。楓の体調はどんな感じですか?」

 桜は心配そうに言った。

「大丈夫よ。今は落ち着いて眠ってるってお姉さんは言ってたわ。あの子も体質だから、時々熱もぶり返す時もあるからね」

「そうですか……」

 凪はどこか遠い目をして悲しそうな目つきをしていて、桜もすごく暗い気分になっていた。

 楓には気丈にクールで振る舞っているが彼女には持病を抱えている。彼女はその病と一生に付き合わなくてはならないといけないのである。

 そんな凪の心情を横目に星夏は話題を変えた。

「そう言えば。先程お地蔵様に熱心でお参りしてましたわね」

 と星夏の指摘に凪は、

「ああ。そうね。あのお地蔵様はご利益あるの。私たちを常に見守ってくれる。善意なら善意。……そして悪意なら悪意ね」

 途中カラスの大群が一斉に飛び出してどこかへ消えた。

 そして桜は嫌なまとわりつく気配を感じて周囲を見渡す。

  一方で一果は首をかしげている。

「……もしかしてその怪異談もありますの?」

「ええ。聞きたいかしら?うふふ」

 桜と星夏と一果はゆっくりうなずくと凪はその怪異談を語った。


 「2」


 時の流れは戦国時代中期。

 人々は戦や飢饉に巻き込まれていて、貧しい者はさらに貧しくなり、食べるのがやっとな時代であった。

 とある村に小六という若造がいて、村を飛び出し山に向かい食べ物を求めて探していた。

「あー。腹へった。なんか食べ物ねーのかなぁ」

 小六は飢えを凌ぐためなら、雑草や木の実、小さな虫や鼠さえもなんでも食べた。しかしそれでも空腹感が出てしまう。先日、村で何名か飢餓や病により亡くなった。飢餓続出しても村はどうすることも出来ず自分の家族さえ精一杯である。小六も去年両親と幼い妹も空腹を訴えて亡くなったので自分も空腹で死ぬのはごめんだと、常に食べる物を目を光らせているのである。

 と、そこに小六にとっては思いがけない転機が訪れる。

「め、飯だ!!」

 そこのお地蔵様に供えてるのは3つの握り飯だった。

 まだ温もりがある。どうやら、高僧な僧侶が置いてきたのだろうと思い小六はとっさに握り飯を喰らい付く。

「はふっ!はふはふ」

 小六は腹が減っていたのか、一気に食べ尽くし、手についた米粒を舐めて平らげてしまった。

 小六は十分お腹を満たした後、眠気がきてこのまま眠った。



「………ッ!?」

 小六が目を覚ますと辺りの景色は霧で覆われていた。

 小六は寒気を感じて背筋を伸ばして眠気を取ったあと、小六は少し違和感を感じていた。

 なんだかじわりとずっと見られている気配。

 小六の周囲には誰もいなく、あるのは周辺に生えてる木と地蔵様だけであった。

 ただ地蔵様には小六の方にじーと方向に向いてるのは少し気にしたが特にこの時は何も感じなかった。

 そして小六は山を降りて向かうことにした。



 小六はあれこれ数時間彷徨ったのだろうか。どんな道順に行ってもあの林のお地蔵様の所へ戻ってしまう。そしてお地蔵様は常に小六をずっと方向を向いていた。

 この霧の上、景色は分からずじまいだった。

 小六は精神的にも体力的に疲れ果てしまいお地蔵様の所でまた深い眠りつく。

 しばらくして小六が起きると霧が嘘のように晴れていた。

 しかしまたしても違和感を感じてしまう。そこにあったのはお地蔵様が2体あった。

 小六はふと頭の中を整理する。

 たしか小六の記憶によればお地蔵様は1体のはず。

 小六は髪の毛掻きむしった。

 そしてお地蔵様は常に小六をずっと方向に向き見られてるような感じがした。

 それが嫌だった小六はお地蔵様の向いてない方向に立った。

 そしてふと周囲を見回したが特に何もなさそうだと思い、山から降りようと林の中を抜ける。しかしいくら歩いても出口は見当たらず彷徨ってしまう。

 いつも見かけるのは、お地蔵様だけだ。

 そしてそれがわかった途端に小六は怯えて逃げる。

 いつも見かけるのはお地蔵様である。

 いや、多すぎるほどよく見かける。

 まるで付き纏われてるほどである。

 小六は頭が混乱していた。

 どうして俺の周辺にはお地蔵様がいるのだと。

 そしてお地蔵様がずっと小六の方向を向いていた。


 「4」


 小六はあたり構わず駆けていると身体ごと何かにぶつかってしまう。

「大丈夫か?お主」

 ぶつかったのは人であり。小六よりも一回り大きい甲冑を身につけた長い顎髭の大男。

 どうやら相手は戦から生き延びた落武者らしい。

 小六は少し警戒をしたがこの落武者はみだりにも人を襲わないと言った。

 それどころか自分の少ない兵糧を分けてくれた。小六は空腹に負けて兵糧に貪り尽くし食べた。



「お地蔵様に付き纏われているだと?」

 小六はお地蔵様の件を伝えた。

 落武者の名は生木と言った。

 生木はふと疑念を浮かんだ。

 そしてじっくりと小六に見つめてから尋ねた。

「お主。お地蔵様は本来我々を見守ってくるたちであろう。もしかしてお地蔵様に何か悪いことをしてはならんか?」

「あ、そう言えば俺、お地蔵様に置いてあった握り飯を喰った」

 生木は自分の顎髭をさすり言った。

「そうでござるか!ならばこの件はわしに任せておけ!」

 と、生木は林に向かってそこにあった蛇を捕らえて殺した。

「それをどうするんですか?」

 小六は怪訝な表情で伺う。

「これをな。お地蔵様にお供えするんだ。お、ちょうどあったな」

 生木は殺した蛇をお地蔵様にお供えして参拝した。

「ほれ。お主もせぬか」と生木と一緒に小六も参拝した。

 その後、辺りは暗くなっていたので生木と小六はこの日は野宿してまた深い眠りついた。


 「6」


 小六が目覚めるとまた深い霧の中にいた。

 先程いた生木はいなかった。

 そしてお地蔵様も姿を消していた。

 小六は思わず安堵した。

 これであのお地蔵様から逃れられると。

 お礼を言おうと生木を探した。

 しばらく探して見つかった。

 小六は目を見開いて腰を抜かしてしまう。

 そこにいたのはカラスがいくつか集り、目を見開かれたまま変わり果てた亡くなった生木がいたからだ。

 そこにずっと生木をじーと見つめているお地蔵様がいた。

 思わず小六は口を押さえて胃の中の物を吐いた。

 と、目を逸らした途端にお地蔵様を見ると小六の方向に向いた。それを見た小六は慌てて逃げる。

 どこまでも、どこまでもお地蔵がいる。

 まるで常にお前を許さないと言わんばかりのお地蔵様が小六につきまとう。

「え!?うわぁぁぁ!?」

 お地蔵様から逃げ惑う小六は誤って山の崖から身体ごと崩れ落ちた。



 しばらくして小六は身体がいくつか骨が折れたり、ひどい怪我を出して息が絶え絶えなりながらも目を覚める。

 そしてすぐ目の前には、お地蔵様が常に彼の目線に合わせて覗いていて、小六はそこで事が切れた。


 「7」


 ーー「八木家」ーー


「楓。大丈夫?来たわよ」

 桜達は八木家につき、楓の部屋に向かった。

「大丈夫です。みなさんお騒がせしました」

「いいのよ。病人なんだから休んでて。はい。これサボテンフルーツ」

「ありがとう桜」

 桜はゆっくりと楓に手渡す。

「ねぇー。楓。何か食べたい物あるかしら?何か取ってこようか?」

「そうね。冷蔵庫に最後に取っておいたヤギプリンがあるから、それを取ってきてもらうと助かるわ」

「わかったわ」と凪は冷蔵庫に向かった。

 と、ここで終始無言だった星夏が口を開く。

「そう言えばはあなたたちはいつのまに名前を下の名前を呼び捨て合う仲になったんですの?」

「ふぇっ!?そ、それは……」

 桜は聞かれて頬を赤く染める。

「私からお願いしたんですわ」

 クスクスと楓は笑う。

「ええー!?楓さんには、あれほど呼び捨てには抵抗があるって言ってた桜さんが?怪しいですわ。じーーー」

「あやしすぎる。じー、じー、じーー」

 星夏と一果は桜をずっと見つめられて顔を隠す。

 楓はそんな彼女達を微笑んだ。

 凪が楓の部屋に戻ってきた。

「ねぇー?楓。冷蔵庫いくつか探してみたんだけど?なかったわよ?」

 ちゃっかり大量の魚肉ソーセージを大量に持ち込み食べてる凪。

「え?そんなはずは。たしか昨日まではあったはず……もしや」

「ただいま♪」とツインテール白粉の猫柄和服着た少女瑠奈が帰ってきた。

「ただいま。楓大丈夫か?」とメガネをかけた緑の着物着た男性梅田虫男も帰ってきた。

「先生!瑠奈!ちょっと私の部屋来てもらえませんか?」

 楓の鋭い声色で睨みつける彼女を見た桜と星夏と一果は怯えた。



「で、あなたたちに聞きたいだけど?私の大事なヤギプリンを食べたのはどこの誰かしら?」

 虫男と瑠奈は正座させられていた。

「私じゃないよ!」「俺じゃないぞ!」

「ち、ちがうからね!おねーちゃん。ムッシーが」

「お、俺は食べてないぞ。瑠奈だぞ!すぐパクるから」

 と、虫男と瑠奈はお互い責任を追求する。

「fermez-la(黙りなさい)」と流暢なフランス語で楓が叫ぶと場は静かになる。

 虫男と瑠奈はお互い顔を見合わせる。

「……そう。誰も食べてないかしら?あなたたちはこの前たびたび私に黙ってヤギプリンを食べた常習犯ですからね」

 虫男と瑠奈はぐぅの音も言えなかった。

 ぐぅーと音がした桜は凪からブッキーを摘み食べる。

「だから、私の目をみて。あなたたちどちらかがウソをついてるのはたしかだからね」

 楓はじぃーと彼らを睨みつける。

「う。なんだか蛇に睨まれた感じが」

「お、おねーちゃん。怖いよ」

 虫男と瑠奈は楓のじぃーと睨まれてタジタジとなっていた。

 その時凪に見つめられていて虫男と瑠奈はある意味タジタジとなっている。

「あらあら。楓の食べ物恨みは怖いからね」

 と、凪はクスクスと笑った。

 結局この後食べたのは母親だと知るのは後ほどである。


 ーー「????」ーー


 辺りは真っ暗な町道にお地蔵様がいる。

 そこにペットの秋田犬と散歩しに来た少女。

 その秋田犬はお地蔵様の付近に小便をかけて散歩の少女は軽く叱る程度だった。

 そして自宅に戻る時、少女はいつものように夕飯を食べて居間でテレビを見てそのあと勉強した後就寝した。

 そして犬小屋に繋がれた秋田犬は危険を察知して吠える。

 そこの犬小屋の目の前には無数のお地蔵様が秋田犬をじーと見ていた。


 じぃーと地蔵様 完

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