一旦真っ暗になった視界が明るくなったかと思うと、僕の意識は狭い空間に飛ばされていた。
『プラントワールドへようこそ!』
ゲームの案内役らしい、インカムを付けた銀髪の女性が僕を出迎えてくれた。
どうやら「プラントワールド」というのが、このゲームの仮の名称らしい。
『キャラクター名と、キャラクターの外見を選択してください』
案内役の女性が手を広げると、目の前にウィンドウが表示された。
「人間」「エルフ」「ドワーフ」「獣人」「モンスター」「動物」の六つの種族名とその容姿が並んでいる。
「種族によるステータスの違いはあるの?」
『いいえ。種族によるステータスの違いはありません。なお、獣人、モンスター、動物は、種族選択後にさらに細かな種別を選ぶことになります』
「なるほど……」
それなら人間が一番動きやすそうだ。
人間ならモンスターや動物と違って、身体の動かし方は普段と変わらない。一方でモンスターや動物は動き方が普段と違う上に、町の中に入れないなどの制約もあるかもしれない。
それにモンスターは初心者が選ぶべき種族ではない気がする。他のプレイヤーに狩られる可能性が出てくる等、難易度が跳ね上がりそうだ。
エルフとドワーフと獣人は、モンスターと動物よりは扱いやすそうだけど、それなら別に人間でいい。外見を変えることは後からでも出来るらしいから、まずは人間のキャラクターを使ってみて、慣れてきたらキャラチェンジを考えよう。
「人間にするよ」
『かしこまりました。では外見の登録を行なってください。性別から髪の色、足の長さまで細かくキャラクターを作成することが出来ます』
「外見か……」
自分の見た目に近いキャラクターを作ろうかとも思ったけど、せっかくなので端正な顔立ちの青年にした。
元の僕との違いを案内役の女性に笑われているような被害妄想をしてしまったけど、気にせずイケメンキャラクターで登録をする。
『プラントワールドの中にもキャラメイクが可能な場所があります。見た目の変更をしたくなった際にご利用ください。では次は、最初の武器を決めてください』
今度はウィンドウに「剣士の剣」「格闘家のグローブ」「射手の弓」「魔法使いの杖」の四つが表示された。武器には攻撃力と難易度が表示されている。
攻撃力は似たり寄ったりだけど、何故か魔法使いの杖だけ難易度がマックスだ。
「杖の難易度が高いのはどうして?」
『これまでのプレイヤーの統計によるものです。殴る蹴るなどの動作は現実世界でもイメージしやすいため、プラントワールドでも使うことが容易ですが、魔法は違います。現実には存在しない「魔法」というものを使うことが出来るプレイヤーはわずかです』
「武器で魔法使いの杖を選択したら、自然と使えるものじゃないの?」
『プラントワールドはVRMMOです。プレイヤーが信号を送らないことには身体が動きません。魔法も同じです。プレイヤーが信号を送らなければ魔法は使えません。ですが信号を送ろうにも、現実世界に存在しない「魔法を使う」という信号を送ることが難しいのです』
「現実世界でも実行可能な物理攻撃とは違って、魔法は完全なる想像で信号を出さないとダメってことかあ」
僕の言葉に、案内役の女性は深く頷いた。
「でも僕、魔法使いの杖がいいな」
説明を聞いた上での僕の選択に、案内役の女性はガクッと崩れた。
『最初は物理攻撃メインで進むことをオススメします』
「うん。魔法使いで!」
『……私の説明を聞いていましたか?』
「僕、想像力は豊かな方なんだ。だからきっと大丈夫」
まったくもって根拠は無いけど。
でもせっかく剣と魔法の世界なら、魔法を使ってみたい!
『……忠告はしましたからね。では、いってらっしゃい』
* * *