(四)
まずはこの世界のことを知ろうということで、僕は三人と一緒に町へ向かって歩いていた。
道中何体かのモンスターに出くわしたけど、どれもニャムが一撃で倒してしまった。もしかしなくても、ニャムは強いプレイヤーなのだろう。
「みんなはモンスターのことを気にせず、お喋りに花を咲かせるといいニャ」
「さすがニャム。頼もしい!」
「ニャムさんも喋りたくなったら、いつでも会話に混ざってくださいね?」
「了解だニャ」
お喋りに花を咲かせていいと言われたので、お言葉に甘えてそうさせてもらおう。初めてプレイするゲームの情報は、いくらあっても足りないくらいだ。ゲームシステムや、この世界の設定、上手い攻略の仕方があるならそれも聞いておきたい。
しかし一番気になるのは、やっぱりこの話題だ。
「ゲーム内に『エンジョウジサエコ』の情報交換をするような、仲の良いパーティーっている?」
このゲームの一番の目的である、エンジョウジサエコ探し。
尋ね人を探す際には人海戦術が効果的と言われているけど、その辺りはどうなっているのだろう。
「それが、『エンジョウジサエコ』を共同で探そうと話を持ちかけたパーティーに、ことごとく断られてしまいまして……」
「成功報酬がある限り、全員が敵のようなものだからね」
「それもそうか」
パーティーの中でさえ報酬の分け方で揉める可能性があるのに、他所のパーティーとまで分け前で揉めたくはないのだろう。
「そもそも、人海戦術をするためにパーティー自体の規模を大きくしてるところが多いのよね。二十人パーティーとか三十人パーティーとか。だから他所の三人ぽっちのパーティーと組むメリットは無いと思われたみたい」
「大規模パーティーにとっては……そうだろうね。他所の三人パーティーとは、組むメリットよりも揉めるデメリットの方が大きそうだ」
それにいくら人海戦術が効果的とは言っても、三十人もメンバーを集めたら、一人当たりが貰える報酬が美味しくない。大規模パーティーはもう報酬よりも、エンジョウジサエコを見つけた、という実績が欲しいだけなのかもしれない。
その場合は、絶対に自分たちのパーティーだけでエンジョウジサエコを見つけたいはずだ。
「『エンジョウジサエコ』に関しては協力を断られていますが、それ以外では他パーティーと情報交換もしますよ。危険なダンジョンや特殊なモンスターなどは、注意喚起をした方が良いですから」
「それだって、限られたパーティーとのみだけどね。敵が脱落してくれたらラッキーって思ってる人も多いから」
思っていた以上に、テスター同士に競争意識が芽生えているらしい。成功報酬を眼前にぶら下げられているのだから、当然かもしれないけど。
「それはさておき。せっかくリューがパーティーに加わったんだから、歓迎会をしたいわよね!」
暗くなりそうな雰囲気を変えようとしたのか、ナターシャがわざと手を叩いて大きな音を出した。
「良いですね」
「楽しそうニャ」
ナターシャの提案にローレンとニャムも賛成のようだ。
歓迎会という名前からして、僕のパーティー加入を祝ってくれるつもりなのだろう。
「歓迎会なんてしてくれるの? ありがとう」
嬉しい気持ちで礼を述べると、妙な間があった。
いつの間にか三人は顔を見合わせている。
「歓迎会……したいわね」
「そのうち……したいニャ」
「したいですね……出来るのであれば」
三人とも、歯切れが悪い。
もしかして「いつかやりたいねー」で終わる、ただの雑談だったのだろうか。
それを僕が真に受けたことで、微妙な空気にしてしまった?
僕の想像を察したのか、ローレンが僕の肩に手を置いて首を振った。
「社交辞令ではなく、本当に歓迎会をやりたいと思っているんです。ただ、その……ですね」
「歓迎会をするお金が無いのよ」
気まずそうなローレンの言葉を、ナターシャが引き取った。
「この時期に新人が来るなんて知らなかったから、新しい武器を買ったばっかりニャ」
ニャムの言葉に合わせて、全員が自身の武器を手に取った。
どの武器も新品ピカピカだ。
「高級な武器じゃないけど、新品はそれなりに値が張るニャ」
「つまり、今このパーティーはとてつもなく金欠なんです」
「歓迎会以前に、普通の食費も危ういくらいにね」
なるほど。だから僕が歓迎会に乗り気な姿勢を示したことで、微妙な空気が流れていたのか。
「せっかくの歓迎会ならパーッと美味しいものをお腹いっぱい食べたいですよね。お酒も浴びるように飲みたいですし」
「いっぱい金が必要だニャ」
「ええと……そういう事情なら、歓迎会なんてやらなくていいよ。気持ちだけで十分」
歓迎会を行なう流れかと思って話に乗ったけど、別に歓迎会が無くても一向に構わない。
そんなことでパーティーメンバーを困らせたくはない。
「誰も歓迎会をやらないとは言ってないニャ。金が必要だと言ってるだけニャ!」
「そうそう。ということで、モンスターを倒しまくって歓迎会のお金を稼ぐわよ!」
「新しい武器を試す良い機会です。バッタバッタと倒していきましょう!」
「「「おーーーっ!」」」
先程までの気まずさはどこへやら、三人は元気に武器をかかげた。
「……歓迎会の資金稼ぎ、僕もやるの? 僕の歓迎会なのに?」
もしかしてと思って尋ねると、三人が笑顔で僕のことを見た。
「働かざるもの食うべからずニャ」
「運動をするとお腹が減るので、ご馳走がよりおいしく感じられると思いますよ」
「うんうん。空腹は最高のスパイスだからね」
「空腹がスパイスって……今日、歓迎会をするわけじゃないよね?」
僕が当然のツッコミを入れると、ニャムに膝カックンをされた。
「うわっ!?」
「細かいことを気にする男は嫌われるニャ。あと禿げるニャ。もっとテキトーに生きるニャ」
「そうですよ。人間は大雑把なくらいの生き方で丁度いいんです。細かいことを気にするとキリがありませんからね」
「何でも楽しむのが、充実した人生を送るコツよ。人生は楽しんだ者勝ちって言うでしょ」
なぜか三人が独自の人生論を語ってきた。
言わんとすることは分かるけど、それでも歓迎会を開いてもらう側の僕が働くのは何か違う気がする。
と思ったけど、三対一なので勝ち目はなさそうだ。ここは大人しく従っておいた方が良いだろう。
同じところに居ても都合の悪い人間だと思われないことが、上手に生きるコツだ。
…………あ。
僕まで自分なりの人生論を考えてしまった。
首を振って切り替えてから、三人に向かって笑顔を見せる。
「実はせっかくのRPG世界だから、人探しよりもモンスター退治の方に興味があったんだ」
僕が三人に向かってそう言うと、三人も満面の笑みで僕の言葉に頷いた。