僕たちはお金を稼ぐべく、モンスター退治を始めることにした。
「町へ行くのはやめて、練習がてらこの辺のモンスターを退治するのがいいわよね。リューはまだ初心者だし」
「そうですね。しばらくここで戦ってみて、大丈夫そうなら少し強めのモンスターがいる場所へ行きましょうか」
「この辺のモンスターは雑魚な代わりにドロップ素材がしょぼいニャ。だからその分、大量に倒すニャ」
さっそくモンスターを探すニャムとナターシャに対して、ローレンは僕のことを上から下まで眺めていた。
「どうかしましたか」
「いえ、リューさんはものすごく自然だなと思いまして。初心者は不自然な動きをしがちですので」
きっとVRMMO自体に慣れていない人は、すべての動作がぎこちなくなってしまうのだろう。
一方で僕はプラントワールドで遊ぶのは初めてだけど、VRMMOで遊んだこと自体は何度もあるため、スムーズに動けているのだろう。
「このゲームのテスターに声が掛かったということは、リューさんもかなりのゲーマーなんでしょう?」
「そうでもないよ。ゲームはよくやるけど、課金の力でゴリ押しするタイプだから」
ローレンは僕のことをゲームが上手いプレイヤーだと思っているみたいだけど、それは誤解だ。大抵のゲームは、課金で能力を補うことが出来るからだ。
「マジ!? リューってもしかして、かなり稼いでる社会人!?」
課金という単語にナターシャが食いついた。
ゲーム上では自分の身分を偽っても構わないだろうけど、後でボロが出るとカッコ悪いと思い、事実を話すことにした。
「ただの学生だよ。家が大地主ってだけで」
「家が大地主ってそれ、ゲームで言うチートスキルみたいなものじゃない!」
僕の言葉を聞いたナターシャがさらに食いついてきた。
「確かに。かなり恵まれていますよね。生まれた時点で勝ち組です」
「なるほどニャ。リューは親のすねをかじる系男子だったんだニャ」
「親のすねをかじる系って……」
その通りだけど、正面から言われると後ろめたい気持ちが湧き上がってくる。
「節約した方が良いのかな?」
「親が汗水流して働いて得たお金を使っているわけでもないので、良いんじゃないですか? 勝手に入ってくるお金なんでしょう?」
「まあ、うん」
「節約なんてしちゃダメニャ。金持ちにはジャバジャバ金を使って経済を回してほしいのニャ。その方がニャムのような下々にも恩恵があるニャ。だから大地主の家のリューは軽率に課金しまくるニャ」
説教をされるかと思ったけど、逆にどんどん金を使えと背中を押されてしまった。
「いーいーなーあー。超チートじゃない! あたしも大地主の家に生まれたかった! ねえ、あたし、他人がどんどん課金してるところを見るの好きだから今度見せてよ」
「ふふっ、散財する人を見るのは楽しいですよね」
オタクは他のオタクが豪快に金を使っているところを見るのが好きだと聞いたことがあるけど、これがそうなのか。
「あー、話を戻すけど、僕はただ課金勢なだけで、ゲーム自体が得意なわけじゃないんだ。だからゲームの技術とかは特に無いよ」
「それなら、今日はこのままここで雑魚モンスターを倒すのが良さそうですね」
「うん。みんなには退屈かもしれないけど、まずは雑魚モンスターを討伐させてもらえると助かるかな」
「全然いいわよ。むしろ雑魚モンスター相手なら、戦いながら会話も出来てお得かもね」
新人の僕には、会話をしながらモンスターの相手が出来るとは思えなかったけど、やる前から出来ないと言うのも嫌なので黙っておいた。
「あたしたちの中ではニャムが一番のゲーマーなの。あたしもゲームが上手いつもりだったけど、ニャムには勝てる気がしないわ」
「はい。私も実力差を思い知らされました。テスターに選ばれた時点で、自分はそこそこゲームが上手いと思っていたのですが」
「ニャムは、金は無いけどゲームは得意ニャ」
「へえ。じゃあ今はこのゲームに課金要素が無いから、ニャムが一番頼りになる存在なんだね」
僕が褒めると、ニャムは舞い上がったのか、周辺にいた雑魚モンスターを一掃した。
「あーっ!? ニャムが全部倒しちゃったらリューの練習にならないじゃない!」
「てへっ、褒められて調子に乗っちゃったニャ」
「まあまあ。移動すればモンスターはまた出てきますから、場所を変えましょう」