「ショーンよ、呪いのアイテムを探しに来たのに宝箱を見逃してどうする」
「あっ、すみません。ありがとうございます」
考えることが多すぎて、本来の目的である呪いのアイテム探しが雑になっていた俺に、魔王リディアが声をかけた。急いで魔王リディアに指差された宝箱を開ける。すると中には、目的のものが入っていた。
「呪いのアイテムみたいです!」
俺の言葉を聞いた魔王リディアが横から宝箱を覗きつつ、効果を音読した。
「どれどれ……呪いのインスタントカメラ。このカメラで撮られた写真は、被写体の成長とともに姿が変わる。撮影時、カメラの使用者はランダムで所持品を失う」
またしても探していた呪いのアイテムではない。残念ながら『ランダムで所持品を失う』の『所持品』にユニークスキルが含まれているとは思えない。念のため試してみるのもアリだが、期待は薄い。
「ふむ。心霊写真カメラというところか。写真に写った被写体の髪が勝手に伸びたりするんじゃろうな」
「知らない間に髪が伸びるのは怖いですね。それに記録媒体として、これでは意味がありませんね」
写真の中の被写体が成長してしまうのでは、残しておきたかったその瞬間を残すことが出来ない。カメラとして致命的な欠陥だ。
「このダンジョンには、他にも呪いのアイテムがあるんですか?」
「この一つだけじゃ」
ということは、このダンジョンでの目的は達成した。
「今回も空振りでしたね」
「この世に呪いのアイテムがいくつあると思っておる。簡単に見つかるわけがないであろう」
「それもそうですね。もっと気長に考えることにします」
俺は呪いのインスタントカメラを宝箱から取り出した。念のため、あとで所持品ゼロの状態で使って、ユニークスキルが無くなるか試してみようと思ったからだ。それに呪いのアイテムだから二束三文だろうが、こんな物でも店で売れば多少の金銭にはなるはずだ。これくらいならダンジョンから持って帰っても、今後の冒険者たちは怒らないだろう。
リュックに呪いのインスタントカメラをしまって元来た道を戻ろうとする俺の足を、魔王リディアがつついた。
「ボスモンスター討伐はどうする気じゃ」
「倒さなくていいと思いますよ。このダンジョンは一番近くにあるトウハテ村からもかなり離れているので、モンスターがダンジョンの外に出てきたところで実害は無さそうです」
「ふむ。それもいいじゃろう。今回は頼まれごとも控えておるからな」
「それに関してですが……」
俺はダンジョンを進んでいる最中に浮かんだ疑問を、魔王リディアにぶつけた。
「多くの魔物は、魔王であるリディアさんの意見に反論できないんですよね?」
「何をいまさら。当たり前のことを確認してどうしたのじゃ」
「いえ、これから会う魔物もそうなんじゃないかと思いまして……」
魔王リディアに村娘を返せと言われたら、その魔物は逆らえないのではないだろうか。それはあまりにも強引で、魔物が少し可哀想だと思ってしまったのだ。
「……問題ないじゃろう。こんな果ての森で暮らしておる魔物じゃ。魔王の顔など知らんと思うぞ」
「そうなんですか?」
「それに妾は公の場に出る際、ずっと大人の姿じゃった。だからこのプリティな妾が魔王だと知る魔物はあまりおらぬ」
「ああ、まさか魔物を束ねる魔王がこんなちびっこだとは思いませんよね」
「ちびっこという呼び方は好かぬ。妾のことは、世界一プリティな美少女と呼ぶのじゃ!」
世界一プリティな美少女は、ぷんすかと頬を膨らませた。
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