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第40話


「…………びっくりするくらい、誰ものってこなかったのじゃ」


 魔王リディアは可哀想になるほど、しゅんとしていた。

 ギルドで高らかに腕相撲大会の開催を宣言したものの、誰一人として魔王リディアと腕相撲をしようとする冒険者は現れなかった。それどころか机と椅子すら用意されなかった。考えてみれば、子どもがギルドで勝手に腕相撲大会を開くと宣言したところで、この結果になるのは当然の成り行きだ。


「まあまあ。今度あたしと一緒に腕相撲しよ。ね?」


 唯一良かったことと言えば、俺たちを不憫に思ったのか、先程の少女が俺たちと一緒にクエストを受けることを承諾してくれたのだ。クエストは少女の名前で登録してもらった。


「自己紹介がまだだったわね。あたしはヴァネッサ。よろしく」


「えっと、俺は……」


 本名を名乗っていいのか迷った。ヴァネッサはギルドに登録している冒険者だ。ヴァネッサ経由でギルドに俺の情報が漏れる可能性がある。ショーンなんてありふれた名前だから、スキルさえ知られなければ身バレの可能性は低いが、注意をしておくべきだろうか。


「ショーンよ。妾はそんなにお子様に見えるかのう」


 俺の逡巡を魔王リディアの一言が蹴散らした。

 魔王リディアにショーンと呼ばれている以上、別の名前を名乗る方が怪しく見えてしまう。


「俺はショーンです」


 俺が名乗ると、ヴァネッサは体勢を低くして、今度は魔王リディアに名前を尋ねた。


「可愛いあなたのお名前は?」


「妾の名はリディアじゃ」


「うんうん。ショーンにリディアね。覚えたわ」


「ヴァネッサさん、急なお願いを引き受けてくださってありがとうございます」


「あたしも一人じゃクエストを受けられなかったから、ウィンウィンよ。さあ、さっそくクエストをこなしに行こっか」


 元気よく踏み出したヴァネッサには申し訳ないが、ほんの少しだけ待ってほしい。


「すみません。クエストの前にアイテムショップに寄ってもいいですか?」


「それもそうね。薬草でも買っておく?」


「いいえ。呪いのアイテムが売っているかチェックしたくて」


 俺の言葉を聞いたヴァネッサは、不思議そうに首を傾げた。


「そんなものを買ってどうするの?」


「使うんですよ。アイテムですから」


「使うの!? 呪われてるのに!?」


 通常、呪いのアイテムを使用する者は少ない。使用するのは主に、呪いに目を瞑ってでも欲しい恩恵があるとか、金銭面で他のアイテムが買えなかったとか、やむを得ない理由がある場合だけだ。最初からショップに呪いのアイテムを買いに行く者はそうそういない。


「呪われてるから使いたいんですよ」


 俺が呪いのアイテムを欲しているのは、呪いで俺のユニークスキルを消し去ってほしいから。そのために俺は、呪いのアイテム探しの旅をしている。


「もしかして……」


 ヴァネッサがごくりと生唾を飲み込んだ。こんなことで俺のユニークスキルはバレないとは思うが、ヴァネッサは一体何に気が付いたのだろう。


「ショーンって、ドMなの?」


「なんでですか!?」


 ヴァネッサはとんでもないことに気付いたようだ。

 いや、俺は別にドMではないから勘違いなのだが!


「だってショーンは、呪いのアイテムで自分を痛めつけたいんでしょ?」


 ふと横を見ると、魔王リディアが吹き出していた。笑っていないで助けてほしい。


「俺、痛いのは嫌いです。それに呪いのアイテムが欲しいのはそういう理由じゃなくて……度胸試し、的な?」


 他に何と説明すればいいのやら。しかしヴァネッサは俺の説明に納得しているようだった。


「なるほどね。男の子は度胸試しが好きだって聞いたことがあるわ」


 これも本当の理由ではないのだが、ドMと思われているよりはマシだ。


「実は今、俺たちが所持金を持っていないのも、呪いのアイテムによって財布を失ったからなんです」


「財布を失ったのに懲りてないの!? 男の子って、なんて無鉄砲なの」


 ヴァネッサは信じられないと天を仰いでいた。

 ちなみに旅の途中で、所持品をすべて魔王リディアに預け、呪いのインスタントカメラで写真を撮りまくってみた。しかし衣服をすべて持っていかれて全裸になったところで、カメラのシャッターを押すことが出来なくなった。

 予想していたことではあったが、呪いのインスタントカメラは俺のユニークスキルを持っていってはくれなかった。なお魔王リディアに預けたリュックサックの中に着替えが入っていたため、俺は露出狂で捕まらずに町に入ることが出来た。

 危うく俺と魔王リディアの二人で、露出狂と痴女のパーティーになるところだった。




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