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困っている女の子は助けるべし、と誰かが言

第39話


【side ショーン】


「ショーンよ、お主は町におるのに野宿をするつもりか?」


「俺だって宿屋で寝たいですが、財布が無いもので……あっ、広場がありましたよ!」


 俺と魔王リディアは、次の町に辿り着いたというのに、野宿に適した場所を探していた。所持金すべてが詰まった財布を丸ごと紛失したからだ。


「所持品の中に売れるものはないのか?」


「道中で採った薬草と呪いのインスタントカメラなら」


「大した額にはならなそうじゃのう」


 旅の最中は魔王リディアが狩ってきた肉や魚を食べているため空腹で困ったことはないが、彼女は町に着いた途端、地元の料理を食べたがる。しかしこのままでは、食事も宿もお預けになってしまう。


「そうじゃ! 金が無いなら稼げばいいのじゃ!」


「そうしたいのは山々ですが、冒険者ギルドを通してクエストを受けたら素性がバレてしまうので……」


「別によいではないか。誰もショーンの素性に興味などなかろう」


「よくないんですよ。俺は勇者パーティーの一員として、魔王を倒す旅の途中って設定なんですから。冒険者ギルドでクエストを受けたせいで居場所がバレたら、国王権限でまた勇者パーティーに合流させられるかもしれません」


 勇者たちが俺のことをどう報告しているのかは分からないが、居場所がバレて良いことが起こるとは思えない。


「それは困るのう」


「困るんですよ」


「どこかに闇クエストは無いかのう」


「……個人的な依頼、と言ってください」


 呼び方はともかく。魔王リディアの言う通り、個人的に依頼を受けるなら、国王に俺の位置情報がバレる危険はない。とはいえ、そんな都合の良いものが簡単に見つかるとも思えない。


「どこかに個人的な依頼が転がっていたらいいんですが……冒険者ギルドの近くにいたら、ギルドにクエスト依頼を出す直前の人に出会えるかもしれません。行ってみましょう」


「ギルドの目の前で闇クエストを探すとは。ショーンもなかなか悪よのう」



   *   *   *



 せっかく来たので中を見るくらいなら問題ないだろうと、冒険者ギルドに足を踏み入れてみた。ギルドの中は頑丈な鎧に身を包んだ戦士から、薬草採りですら不安になる心許ない装備の者まで、いろいろな冒険者たちで賑わっていた。


「あなたにこのクエストは紹介できません」


「そこをなんとか。この通り!」


 よく通る声が聞こえてきたためそちらを見ると、珊瑚色の髪を頭の高い位置で束ねた少女が、受付でごねていた。


「簡単な依頼ばっかりだと、いつまで経ってもお金が貯まらないのよぉ」


「事情があっても紹介できません。あなたには危険すぎます。せめて仲間を連れて来てもらわないと」


「仲間がいないんだってば。お一人様にも優しくしてよぉ」


「強いなら一人でも構いませんが、あなたは駄目です」


 俺と魔王リディアは顔を見合わせた。


「これって、もしかしてチャンスなのでは」


「渡りに船じゃのう」


 すぐに俺たちは少女の元へ行くと、怪しまれないようになるべく爽やかな笑顔で声をかけてみた。


「こんにちは、お姉さん。どのクエストを希望してるんですか?」


「……誰?」


「俺たちは旅の者です。実は手っ取り早くお金が欲しいところでして。報酬の高いクエストを協力してこなしませんか?」


「怪しい」


 あれ!? 今の俺のどこが怪しかっただろうか。

 初対面だから挨拶をして、素性を明かせないから旅の者と名乗って、協力してクエストをこなしたいと言っただけなのに。怪しくないように爽やかな笑顔で挨拶をしたのに。


「旅の者という名乗りは怪しさ満点じゃ。というかそれ、爽やかな笑顔じゃったのか。一度鏡を見た方がよいぞ。怪しすぎる笑みじゃ」


 仲間であるはずの魔王リディアにまで怪しいと言われてしまった。

 あと俺、爽やかな笑顔できてないの?


「……怪しい、けど……背に腹は代えられない」


 しかし意外なことに、少女は俺の提案に揺れているようだった。これはイケるかもしれない。


「ヴァネッサさん。女性をクエストの名目でひとけの無い場所へ連れて行ってアレコレする輩もいます。お気を付けください」


 と思ったらギルド受付の女性が俺に不利なアドバイスをした。

 そういった輩がいる話は俺も聞いたことがあるが……俺、そんなに怪しいの?


「大丈夫じゃ。こっちは子ども連れだからのう。変なことはしないのじゃ」


 魔王リディアがここぞとばかりに自分が子どもであることを主張した。

 するとギルド受付の女性が眉をひそめた。


「まさか子ども連れでクエストを行なうつもりなんですか?」


「この子、見た目よりも強いので。俺よりもずっと強いんですよ」


 ギルド受付の女性はなおも訝しげな眼をしていた。


「それなら、妾が強い証拠を見せてやろう。さあ机と椅子を用意せよ。腕相撲大会の始まりじゃーーーー!!」



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