「……あなたは今でもその方を想っているのですね。」
「とんでもありません。
もう忘れました。」
それは強がり。
だけど、本当にそうしようとは思ってる。
私はフェルナンさんのことは忘れる。
だって、私はもうサキじゃない。
シャルアさんになるんだから。
フェルナンさんのことなんて、少しも知らないシャルアさんに…
「シャキア…本当にごめんなさいね。」
シャルアさんは、目にうっすら涙を浮かべていた。
「だから……シャルアさんが謝ることなんてありませんってば。
フェルナンさんは自分の意志で私から離れ、私もまた自分の意志で、フェルナンさんを忘れるんです。」
「ですが……」
「あ、そう言えば、ヴァリアンの王子様はどんな方ですか?
なんというお名前なんですか?」
フェルナンさんのことをこれ以上話したくなかったから、私は話題をすり替えた。
「ヴァリアンの王子は…ルーサー様とマーカス様とおっしゃいます。
ご長兄の方がルーサー様です。」
「どんな方ですか?」
「お会いしたのはもうずいぶんと前ですが…お二人共、とても素敵な方でしたよ。」
「そうですか。それは楽しみです。」
本当はそう楽しみではないけれど…
今はそう言うしかなかった。