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1章

第1話 悪魔

まさに絵に描いたような中世ファンタジーの街並み

世界の中心にある大都市 ステラ


石畳の道が入り込んでいて、古い時代の建物が立ち並び

市場からは色とりどりの物品が陳列され、騎士や商人、

様々な人々が交わっている。


そんな中一人の男性の叫び声が

街の外から響き渡る


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「死ぬ!」

「死ぬ!!」

「死んでしまう!!!」


男性は大声を上げながら

街に向かって全力で駆ける


そして、街の門を抜けた途端、石に躓いてバランスを崩す


「あ゛!?」


その勢いのまま盛大に石畳の上を転がる


「がは!」

「ごほ!!」

「んがああああああああ!!?」


最後に派手な音を立てて見事に住宅の壁に激突。

壁が軽く揺れ、上から洗濯物がふわりと降ってきて、彼の顔に覆い被さる


そんなただならぬ状況に通行人たちが目を丸くして見ている。


「だ・・・大丈夫ですか?」

周囲の通行人たちが心配そうに近づき、その中の一人が彼に声をかける


「だ・・・大丈夫です。」

彼は小刻みに手を挙げながら返事をする


男の名前はリュウセイ

背は高く年齢は30前後ぐらいの外観で

髪は濃い橙色で腰ほどまで長く、三つ編みをしており


服装は白いシャツに黒いジャケット

そしてダークグレーのパンツ


左手には自身の身長ほどにもある長い刀を手にしていた。


リュウセイは全身に大怪我を負っており

先ほどの転倒とはまた別の傷を抱えていた


それを気に掛けた住民たちが声をかける


「ひどい怪我・・・何かあったのですか?」

「近くに凶悪な魔物が現れたとか?」

「いや・・・もしかしてアルテミスに襲われたのですか?」


心配そうにする住民たちとは裏腹にリュウセイは照れ笑いをしながら答える


「いや・・・お恥ずかしながらそんな大層なものではありません。

街の周りに出現する魔物、ハネウサギにやられそうになって逃げてきました」


「・・・・・・・」


住民たちは少し黙ったあと


「あっはっはっはっはっは!」

「あんな小動物にやられそうになるなんて!」

「今時めずらしいよ!」


手のひらを返したかのように住民たちは笑い声を上げる


「なんだよ、心配して損した」

「じゃあね、おじさん。またやられないようね」


住民たちはその場を後にして立ち去る


「全く・・・ひどい人たちですね。

大怪我してるっていうのに・・・」


リュウセイが視線をおろすと一人の子供がいた


「君は?」


その子供はニット帽をかぶっており、そこから淡い青色の短い髪がはみ出ている

背格好に合わない大きめの上着に、膝が出ている半ズボンを履いている。

腰には背丈の割には大きめの剣を腰にかけており、

瞳も顔も丸く、とても可愛らしい見た目だった。


「自分は・・・あなたと同じ旅の者です。

それより、いくつか回復薬を持っているので差し上げましょうか?」


思いがけない施しにリュウセイは笑みを浮かべる

「ありがとな、かわいい嬢ちゃん。でも俺は大丈夫だ」


「じょ・・・嬢ちゃん・・・?」

リュウセイの言葉にその子供は少し不機嫌になる


「あ、あの・・・よく間違われるのですが、

僕は『男』です!!」


その言葉にリュウセイは目を見開き驚きの表情を浮かべた

「え!?男!?

そんなかわいい見た目してるのに!?」


「む〜・・・!」

その少年は眉をひそめてリュウセイを少し睨む

そしてリュウセイはその少年の瞳の奥に力強い意志のようなものを感じた


「・・・いや、笑ったりしてすまなかった。

お前も戦士だったんだな。俺はリュウセイ。君は?」


リュウセイの突然の態度の変化に少し戸惑いつつも

少年は答える

「僕は・・・えっと・・・

ゆう・・・かんな男になりたいセナと言います」


「なんだその前置き・・・」

多少不自然な返答にリュウセイは苦笑いをする


「見つけたぞ!変な帽子のガキ!!」

会話する二人に横から声を上げる男が現れる


男は巨大な斧を背負い、バンダナで髪を立て、上半身は裸。その上に鮮やかな黄色の上着を羽織っていた。


その背後には、彼の仲間らしき人物が三人立っている。


セナの表情がこわばる。


「……あ、あなたは……」


男が不敵に笑い、セナを指さす。


「その首飾り、俺に渡してもらうぜ!

弱っちいお前が持ってたって意味ねぇんだよ!

冒険者ランキング4位、アースが有効活用してやる!」


そして、斧に手をかけると声を張り上げる。


「これで……今度こそアルテミスを討つ!!」


セナは恐怖を押し殺しながら、必死に声を絞り出した。


「こ、断ります!これは……大事な人からもらった、大切な首飾りなんです!

あなたなんかに、絶対渡しません!」


アースの目が鋭さを増し、背中の斧を引き抜く。


「断られても関係ねぇ。お前を追い続けてでも、手に入れてやるさ!」


そのとき。


「待てッ!」


鋭い声が響く。リュウセイが、間に割って入った。


「……なんだ、てめぇ……?」


アースがリュウセイを睨みつける。


「寄ってたかって何なんだ……

いいぜ、暴れたいなら俺が相手になってやるよ」


その言葉に、セナは慌てて叫ぶ。


「な、なに言ってるんですか!?

関係ないあなたまで戦う必要なんて……! 逃げれば……!」


「逃げる? どこへ?」


リュウセイの声に、セナが振り返ると――

アースの仲間たちが、いつの間にか退路を塞いでいた。


「アースって言ったな。

だったら、俺が相手になってやる」


リュウセイの宣言に、アースが顔をしかめる。


「ふざけんな、急に出てきて……って、おい……お前、その刀……!?」


アースの視線が吸い寄せられる。


リュウセイがゆっくりと刀を抜き、見せつけるように構えた。


「お、わかるか?

お目が高いな――これは超大業物、『天野叢雲』だ」


「な、なんで……そんな名刀を、無名のお前が……!?」


超大業物――それは世界に数本しか存在しない伝説の刀。

アースの表情がみるみる険しくなる。


「ある人から、譲り受けてね」


リュウセイは軽く口元をゆがめ、視線をアースに投げた。


「……じゃあこうしよう。お前たち四人まとめて相手してやる。

お前らが勝てば、この刀も、首飾りもくれてやる。

だが――俺が勝てば、この子には二度と手出しするな!」



アースたちが狙っていたのは、セナが持つ首飾り。


そこへ突如現れた第三者――リュウセイの介入。

苛立ちはあった。だがそれ以上に、内心では余裕があった。


自分は、冒険者ランキング4位。世界でも指折りの実力者だ。

仲間も含めて四人がかり。負けるはずがない。


――それどころか。


(あの刀を奪うチャンス……!)


超大業物『天野叢雲』。

ただの挑発ではなく、明確な対価を持ち出してきたこの交渉。

受けない理由が、どこにある?


アースは一瞬だけ考えたのち、ニヤリと笑った。


「……いいだろう。だが、これは“勝負の約束”だ!」


声を張る。


「戦いが始まったら――逃げるのも、周りに助けを求めるのもナシ!

外野の口出しも一切禁止だ!」


その声に、セナが青ざめる。


「ちょ、ちょっとリュウセイさんっ!

そんな無茶な条件――!」


リュウセイは、そんな彼女の不安を切り取るように、ふっと笑う。


「大丈夫だ。……下がってろ」


その口調は穏やかだが、静かな自信がにじんでいた。


アース、そしてその仲間たちが、リュウセイを囲む。


「……」


静寂。


そして――最初に動いたのは、アースだった。


「おおおおおおおおおおッ!!」


咆哮と共に、巨大な斧を振り上げる。

振り下ろされたその一撃は、地面を割らんばかりの威力。重く、鈍く、殺意に満ちていた。


だがリュウセイは――すでにその場を離れていた。


一瞬早く、後方に跳躍し、斧の軌道を回避する。


直後、アースの仲間が槍で突きを放つ。

しかしリュウセイは片手の刀で軌道を逸らす。


続けて、別の仲間が短剣で切りかかる。

リュウセイは腰を低く落とし、紙一重でそれをかわす。


三人がかりで攻め立てても、彼の身体にはかすり傷一つ届かない。

その異常な反応速度に、敵陣の動きが揃わなくなる。


「な……なんだこいつ!? どんだけ回避力あるんだよ!?」


「こいつ、本当に……人間か……?」


短剣を構える男の手が、わずかに震えている。


「ふざけんな……! 今の攻撃、全部かわしたってのかよ……!」


アースの表情が歪む。怒りと動揺が入り混じるその目。

冷静だった戦士の目が、狼狽の色に染まっていく。


信じがたい見切り能力――

そして、手にしたのは世界に数本しかないと言われる《超大業物》。


「お前……まさか……!」


アースたちの表情から余裕が消えた。


リュウセイは跳躍し、一瞬で間合いを離す。


「ならば、広範囲攻撃だッ! 俺の鞭は、音速を超える!」


四人目の男が鞭を振る。

その瞬間――


鋭い閃光が走った。


「……なっ!?」


気づいた時には、鞭の先端が断ち切られていた。


セナは、息を呑む。

だが、同時に疑問も湧いた。


「リュウセイさん……すごい……。

でも、なんで……あんなに避けられるのに、身体は傷だらけなんだろう……。

しかも、それって……弱い魔物にやられたって……?」


その理由に思いを巡らす暇もなく――


リュウセイが、動いた。


「……ッ!?」


気づいた時にはもう遅い。


風のように間合いを詰め、リュウセイがアースの懐に滑り込む。

そして、抜刀――刃が、閃こうとした――その時。


「ガキを狙えッ!!」


アースの怒声が響いた。


「えっ……!?」


セナが振り返ったときには、すでに――

背後に回り込んでいた敵の刃が、目前まで迫っていた。


「しまった……! セナ!!」



* * *


中心都市・ステラ

中央広場


人々の賑わいとは裏腹に、その片隅に並んで座る二人の姿。

リュウセイとセナは、まるで魂を抜かれたかのように、無言で黄昏ていた。


「……取られちゃいましたね」


ぽつりと、セナがつぶやく。


「僕の首飾りも……リュウセイさんの刀も……全部……」


「……ああ」


リュウセイは、うつむいたまま頷く。

やがて、彼はゆっくりと頭を下げた。


「……すまん。俺のせいだ……

お前の大切な首飾りまで、奪われちまった……!」


その声音には悔しさと自責の念が滲んでいた。


セナは、しばらく何も言わなかった。

そして、ふと優しく微笑む。


「……違いますよ。

リュウセイさんのせいじゃない。僕が……狙われたから……」


リュウセイは目を伏せる。


二人はしばらく黙っていた。


やがて、リュウセイが小さく呟く。


「……リベンジだ」


「え?」


「リベンジだよ! あのアースってやつらに!

刀も、首飾りも……全部、取り返す!」


怒りがまだ胸の奥で燻っている。

あんな形で敗れたことが、どうしても許せなかった。


だが――


「……で、アースたちがどこにいるか、わかってるんですか?」


「知らん」


即答だった。


「……」


案の定というべきか。セナは深いため息をついた。


「……まずはメシだ! 腹が減っては戦はできん!!」


「ま、待ってくださいよ、僕はそんなにお腹減ってないですって!」


リュウセイはセナの腕を引き、勢いよく歩き出す。

半ば強引に、二人は飲食店へと向かった。


* * *


飲食店ミツボシ


店内は穏やかに灯るランプが天井から下がり、

食器が触れ合う音と笑い声が、心地よく交じり合っていた。


二人は空いているテーブル席に腰を下ろす。


奥から、額が広く髭の濃い店主らしき男が現れる。


「いらっしゃい。何にします?」


「俺は、海鮮パスタだ」


「じゃあ僕は……シーザーサラダ、半熟卵のせで」


料理を待つ間、二人は自然と会話を交わし始めた。


「なあセナ、お前はなんで旅してるんだ?」


「僕は……えっと、地元の人たちからお使いを頼まれてて。

その時に、お守りとして首飾りをもらったんです。

でも、道中でアースに目をつけられて……逃げている最中に、リュウセイさんと出会いました」


「……なるほどな。俺は、“ある人物”を追っている。

そいつは狡猾で、簡単には姿を出さないが……」


「……そうですか」


セナはふと、リュウセイの腕元に目をやった。


「そういえば、怪我……だいぶ治ったみたいですね」


「ああ。時間が経てば、大概の傷は塞がる」


「そんなもんなんですか……?」


セナは半信半疑のまま、苦笑いを浮かべた。


そんな中、隣のテーブルの会話が耳に入ってくる。


「なあ、誰がアルテミスを倒せると思う?」


「やっぱり冒険者ランキング上位の誰かじゃね?

イリスを倒したのって、たしかランキング2位のオリオンだったろ? 今は行方不明だけど」


「でもさ、上位連中ってクセ者ばっかりじゃん?」


「だな。

1位のナガレは引退、

3位のギンガはお調子者で有名だし……

意外と、4位のアースがアルテミス倒しちゃうんじゃね?

さっき見かけたけど、新しい武器手に入れて『アルテミスを倒す!』って息巻いてたぞ」


「……アース!?」


「アース!?」


二人は同時に立ち上がった。


そして、隣の客に詰め寄る。


「アースを見たのか!? どこに行った!? 教えてくれ!!」


突然の勢いに、客は驚きつつも答える。


「な、なんだよ急に!?

見かけたのは……そうだな、1時間くらい前か。

今頃は、もうだいぶ遠くに行ってるんじゃねぇか?」


(1時間前……俺たちがやられた直後じゃねぇか……)


リュウセイが小さく舌打ちをする。


セナも肩を落とす。


「……結局、振り出しですね」


二人が落胆していた、そのとき――


「アルテミスだあああああああああああ!!!!!」


店外から、叫び声が響きわたる。


「街の外れの廃墟に、アルテミスが現れたぞ!!」

「みんな逃げろおおおおおおお!!」


その声を合図に、店内の空気が一変する。


「マジかよ!逃げろ!!」

「また襲われたらたまったもんじゃねぇ!!」


客たちは椅子を倒し、テーブルを蹴り飛ばす勢いで、一斉に店を飛び出していった。


リュウセイとセナ、二人だけが取り残される。


「リュウセイさん! 僕たちも逃げましょう!」


セナは慌てて声をかけるが――

リュウセイは立ち上がりながら、口元に微かな笑みを浮かべていた。


「アルテミス……こんなに早く会えるとはな」


「え……?」


「行くぞ、セナ。アルテミスの元へ」


「な、なに言ってるんですか!? 正気ですか!?

まさか……リュウセイさんが追ってる人物って、アルテミス!?」


「正確には違う。だが――

俺の目的を果たすには、あいつの存在が必要なんだ」


セナの顔が強張る。


「……アルテミスの危険性を、本当に知ってるんですか!?」


言葉に力が入る。


「見た目は少女でも、目にも止まらぬ速さで冒険者たちを次々と仕留める。

それだけじゃない……空間が歪むとか、近づいた者の人格が変わるとか……

“悪魔の子”って、そう呼ばれてるんですよ!!」


リュウセイはその熱に押されることもなく、静かに言った。


「迷信だろ、そんなの」


「……!」


「俺は倒しに行くんじゃない。話をしに行くんだ。

それに――」


少し視線をずらす。


「アースが『アルテミスを倒す』と言っていた。

ならば、アルテミスの元に行けば、あいつらにも会えるかもしれない」


目的――刀と首飾りの奪還。

そのためには、結局アースを追うしかない。


セナはしばらく黙っていたが、やがてうなずいた。


「……わかりました。でしたら僕も一緒に行きます!」


二人の意思が重なった、そのとき。


セナがふと、あることに気づく。


「……リュウセイさん、丸腰で行くんですか?

アースやアルテミス、他にも何が出てくるかわからないのに……」


リュウセイは自分の腰を見下ろし、頷いた。


「それもそうだな。

セナ、腰の剣を貸してくれ。交換条件だ。

その剣を借りる代わりに――お前の首飾り、取り返してやる」


「交換条件……?」


「そうだ。この世界は奪い合いだけじゃない。

助け合いだって、“文化”なんだろ?」


セナは戸惑いながらも、剣を外し、リュウセイに差し出した。


「……いいですけど、安物ですよ?

リュウセイさんの持ってた刀とは比べものにならないくらい……」


「問題ない」


リュウセイはその剣を腰に装着する。


店には、彼ら二人と、もう一人――


「……なあ、店主のおっさん。逃げなくていいのか?」


リュウセイが声をかける。


店主は皿を拭きながら、いつもの口調で答えた。


「いらっしゃい。何にします?」


「……いや、なんでもない」

リュウセイは何かを察したように店を後にする



・・・・・・・・・・・・・


ー町外れの廃墟ー


中心都市の賑わう街中とは対照的に、

まるで大地に忘れ去られたかのようにひっそりと横たわっていた。20軒ほどの建物が並んでいるが、どれも崩れ、傾き、かつてそこに人々が暮らしていた面影はほとんど残っていない。


リュウセイとセナは息を殺しながら廃墟の街中を歩いていると数人の人影があった。

それは、忘れもしない。アースとその仲間たち


「見つけたぞ・・・アース」


そして、彼らの視線の先には一人の少女


その少女は鮮やかな赤い髪が風に踊るように揺れ、腰のあたりで左右に分けられたツインテールが特徴的だ。髪の分け目には、小さな三日月型の髪飾りが留められていた。

右目は長い前髪に隠れて見えないが、露わになった左目の鋭い視線が、見る者全てを射抜くようだ。


だが、最も目を引くのは彼女の右腕だった。

肘から先の右腕は、他の部分と明らかに違っていた。肌がどす黒く変色し、不気味な艶を放っている。生命を侵食したかのような異質さがそこにあった。


「あれが・・・悪魔の子 アルテミス・・・。」

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