リュウセイとセナは瓦礫に身を潜めながら様子を見ている。
「セナ、ここは危ない。お前は離れた方がいいかもしれない」
「わ、わかりました。リュウセイさんも無理はしないでください」
アースたちはアルテミスに怒鳴るように声をかける
「久しぶりだな!悪魔の子!いや、アルテミス!!
今度こそ仕留めてやるよ!!」
荒い言葉にも悪魔の子、アルテミスは動じない
「・・・誰だ?お前は?
私は行かなくてはならない場所がある。道を開けてくれないか?」
アルテミスはアースに関心はない。
まるで道端に転がってる石ころのように
「何度もお前の前に立ちはだかったというのに、覚えていねえのか!?
俺たちのこと2度と忘れねえように切り刻んでやるよ!!」
アースはリュウセイから奪った刀を抜く
それに続いて仲間たちも武器を抜いた瞬間
「・・・っ!」
アルテミスの表情がより鋭くなる。
アースの仲間たちが斬りかかろうとすると・・・
「!?」
瞬時に視界からアルテミスの姿は映らなくなる
「消えた!?いや、違う!!こいつ・・・
速い!ものすごく速いスピードで移動してるんだ!!」
「過去に何度も戦ってるんだ!わかってたじゃねえか!!」
アルテミスは瓦礫を蹴って宙を舞う。空気を裂くような音が響いたと思えば、彼女はすでに別の建物の屋根に着地していた。その速度は、目で追うことすら困難
影すら捉えられない速さ。まさに絶影
「来るぞ!」
仲間の一人が叫ぶ
アルテミスは風を裂く音と共に猛スピードで迫る
同時に彼女の右手の指先から伸びた爪が鋭利な刃物のように変形する
そして、瞬く間にアースの仲間の一人を右手で切り裂く
「ぐあああああああああああ!!」
仲間の一人は倒れ
「うわあああああ!!」
「ぎゃああああああああああ!!」
二人目、三人目の仲間も続いてアルテミスに切り裂かれる
残されたのはアースただ一人
「く・・・。さすがアルテミス、一筋縄じゃいかねえか」
相当の手練れであってもアルテミスの動きを目で追うだけで精一杯
「だが、お前を倒すためにこっちはきちんと対策を考えてるんだ
【能力】を使う!」
アルテミスが凄まじい速度でアースに近づき、切り裂こうとした時・・・
アースは右手を前に出し
「【重力領域】!!」
次の瞬間
アルテミスは轟音と共に地面に叩きつけられる
「な!?」
アースは勝ち誇ったように言う
「かかったな。俺の能力、【重力領域】は、文字通り重力を支配する能力だ!!
俺に近づくほど重力が増し、半径3メートル以内なら立つことすらできねえ!!」
「魔力の消耗が激しいから使い所に困っていたが
魔力を増幅させる首飾りを持ってるガキがいたおかげで助かったぜ!」
アースの言う通りアルテミスは身動きが取れずにいた
瓦礫の隅から様子を見るリュウセイ
「マズイな・・・。あいつがやられると困るんだよ。
巻き添え喰らうのは怖いが、助けてやるか」
リュウセイは剣を抜き、アルテミスを助けに向かおうとすると・・・
「終わりだ。アルテミス!!」
アースが刀を振り下ろす。
しかし
アルテミスは黒い右手で刀を止めていた
その光景に目を疑う
「な・・・なんで攻撃が通らねえんだ!?
大業物の刀だろ!?」
目を疑うのはそれだけじゃない
アルテミスは地面に潜るように消えていった
「な!?消えた!?」
違う角度で見たいたリュウセイ
「あれがあいつの能力か!?」
辺りを見渡してもアルテミスの姿は見当たらない。
「ちくしょおおおおおおおおお!出てこい!!アルテミス!!!」
アースは怒り狂ったように叫び出す
静寂な廃墟に怒号が響く
それから1分も立たずのうちに、アルテミスは廃墟の物陰から再び現れた。
「見つけたぜ!アルテミス!!
また地面に叩きつけてやる!!今度こそ逃さねえぞ!!」
「能力解析・・・最適な対応は・・・」
アルテミスは小声で呟く
アースは重力の能力を発動しながらアルテミスに近づいていく
周りには地面が窪み、植物が潰されていく
アルテミスはアースと10メートルほど距離をとっており、
アースが近づこうとすると同様にアルテミスも離れていく
「ちくしょう!逃げんじゃねえ!!早く・・・早くしねえと・・・。」
それから
アースの周りの地面の窪みは出なくなり潰された植物は元に戻った。
「くそおおおおおおお!魔力切れかよ!!」
【能力】が切れた途端、アルテミスは一気にアースに詰め寄り
「あ、悪魔・・・!!」
そしてアースを切り裂く
「があああああああああ!!」
リュウセイはその一部始終を物陰から見ていた。
「なんだ。俺の助け必要ないじゃないか」
安堵のため息は吐き、剣を鞘に納めようとしたところ
「な!?しまった!!俺もあいつを見失ってしまった!!」
ほんの数秒目を離したところ、アルテミスは姿を消していた。
リュウセイは物陰から覗き、辺りを見渡す
「まずいなあ・・・俺もあいつに用があるんだよ・・・。」
「・・・」
「・・・!!??」
アルテミスはいつの間にかリュウセイの背後に回りこみ、奇襲を行っていた
リュウセイは咄嗟に背後からの攻撃を剣で受け止める
「な!?いつの間に!!?」
アルテミスは距離をとり、黒い右手を鋭くし攻撃の姿勢をとる
リュウセイは慌てながら訴える
「待て!俺はお前に用があるのは事実だが、戦う気はない!!」
「私はお前に用はない。消えろ!」
懸命の訴えも虚しく
アルテミスはリュウセイに攻撃を仕掛ける
アルテミスの右手が不気味な輝きを放ちながら空気を切り裂く。その一撃一撃は鋭く、どれも致命傷を狙ったものだった。
リュウセイは攻撃をかわし続ける。右手の爪が目の前を掠め、ほんの数センチ後ろの壁に深い爪痕を刻む。
一撃、また一撃・・・リュウセイの体は何度も風を切る音を感じ、そのたびにギリギリで攻撃をかわしていく。
振り下ろされる右手の一撃、それをリュウセイは剣で受け止める。
しかし、受け止めたはずの爪が、まるで生き物のように音もなく伸び始める。鋭い刃のような爪先が剣を押しのけ、目にも留まらぬ速さでリュウセイの顔へと迫る。
「くっ!こいつの爪なんでもアリかよ!?」
リュウセイは身を捻り、紙一重で回避する。だが、その動きが間に合うよりもほんの僅かに速く、伸びた爪が彼の頬を掠めた。
「・・・いいねえ、元気だ。
さて、どうすれば言うことを聞いてくれる?」
何度も攻撃を避けられ、アルテミスは動きが止まる
リュウセイと一度距離をとり廃墟の建物の影に身を置き
そして地面に吸い込まれるように潜っていった。
「くっ!【能力】を使いやがった!!」
辺りを見渡す。不気味な沈黙だけが続く
「あいつは再び奇襲をしてくるに違いない。」
「どこからくる?右?左?背後・・・?」
「・・・・・・・・・」
足元を見た瞬間黒い鋭利のものが目に映った
「!?」
「足元か!!」
リュウセイは空高く飛び上がる
予想通りアルテミスは鋭い右手を突き出しながら地面から飛び出してきた
紙一重でその奇襲も何とか避ける
再びアルテミスは建物のそばに行き、地面に消えていった
「こいつの能力は一体なんだ!?地面に潜る能力か!?
だとしたら何か引っ掛かる!制限があるのか!?」
廃墟の建物の近くに身を寄せる
窓からアルテミスが潜んでいないのを確認してから
壁に背を置き足元を重点に意識を向ける
「!?」
「ぐああああああああああ!!!」
突如リュウセイの背中が引き裂かれる。
アルテミスは足元でなく、背後の建物の壁に潜んでいた。
強烈な一撃をリュウセイが襲う
今まで紙一重に避けていた攻撃もついに致命傷を負ってしまう
再びアルテミスは壁に潜っていった
「な!?壁の向こう側にいないのを確認したはずなのに・・・」
「じゃあ地面や壁などの物体に潜む能力か!?」
リュウセイは壁を蹴りでぶち破る
その中にアルテミスの姿はいない
「いねえ・・・!?」
「それにこの壁、薄っぺらいじゃねえか!!
ここに潜むほどのスペースなんてないぞ!!」
「まずい。早くこいつの能力の正体を暴かないと・・・」
あと一撃でもくらってしまえば立つこともできないだろう
その時
リュウセイが蹴りで壁をぶち破った建物が轟音と共に崩れ始め、瓦礫が次々と落ちていく。それと同時にアルテミスが弾き出されたように地面から出てきた
「な!?」
まるで意表を突かれたようにアルテミスは慌てながら別の建物のそばに行き、再び地面に潜っていった。
「そういえばあいつ、地面に潜る時はいつも建物のそばに向かってるな。」
「出てくる時も物陰や足元からだった・・・。」
「・・・!」
「わかったぞ!お前の能力の正体が!!」
リュウセイは剣で廃墟の建物を全て切り崩していく
廃墟の建物は20件程度。多少骨は折れるができないことはない
轟音と共に次々と建物が崩れていく
最後の建物が崩れる瞬間、再びアルテミスは地面から弾き出されたように飛び出してきた
「くっ!」
優勢だったアルテミスに焦りの表情が現れる
「やっぱり、こいつの能力は【影】だ!【影】に潜むことができる能力なんだ!!」
「だから、わざわざ建物のそばに向かう必要もあるし、そして隠れる影がなくなったら強制的に外に追い出されるわけだ!!」
周囲の建物は全て崩れ
影ができるような場所はない。
追い詰められたアルテミスは膝を地面につきながらも
強く睨みつける。
「ま、待てよ。さっきも言った通り俺はお前に危害を加えるつもりはないんだ!」
必死にアルテミスを宥めるリュウセイ
アルテミスの視線の先はリュウセイ自身でなく、手に持ってる剣
「わ、悪かった。武器なんて持ってたら怖いよな」
リュウセイは剣を鞘に収める
すると、アルテミスの鋭い目は次第に和らぎ、息をつく
「・・・で?なんの用?」
「・・・へ?」
突然のアルテミスの態度の変化にリュウセイは拍子抜けする
「お前・・・さっき言ってただろ?
私に用があるって」
「きゅ、急に態度が変わるんだな」
「・・・」
アルテミスは少し黙り
「戦ってみてなんとなくわかった。お前は私より強い。これ以上戦っても無意味だ
そして、お前からは殺意を感じない。話を聞くだけならいいと思っただけだ」
「そ・・・そうか、実は・・・」
リュウセイがアルテミスに事情を話そうとした時
「あぶねえ!!」
巨大な氷刃が二人を襲う
それをリュウセイがアルテミスを抱き抱えて何とか避ける
「全く次から次へと・・・」
リュウセイと少女は立ち上がる
二人の視線の先に、
一人の人物の姿があった
淡い藍色の髪
背中には翼があり
女性と思われる美しい顔立ちであるが
生気を感じない無機質な眼
左手には巨大な弓を手にしている
そして不気味なほどの威圧感
この世のものとは思えない異質な存在
「何者だ。お前は」
リュウセイはその人物に問いかける。
「『天』の使命により悪魔の子を討ちに来た天使です。
名前は・・・え〜っと確かレミエルと申します」
「ふざけやがって・・・」
目の前にいる相手は間違いなく友好的な人物ではない
そして狙いはアルテミスの命
レミエルは手から無数の氷刃を生み出し
それを矢のように弓にかけてアルテミスに放つ
「うおおおおおおおおお!!」
リュウセイはアルテミスの前に立ち、
放たれた氷刃を剣で捌く。しかし・・・
「くっ・・・剣が欠けてしまった・・・」
安物の剣では攻撃を数発弾くだけで精一杯
氷刃を生み出す、おそらくそれが相手の能力
個人で倒すのも、逃げるのも厳しいだろう
この状況を打破するには・・・
「話は後だ!
一緒に戦うぞ!アルテミス!!」
「・・・な!?なにを言っている!?」
まさかの案にアルテミスは驚愕する
リュウセイは説得を続ける
「・・・お前、頭いいんだろ!?あの化け物を相手にして死ぬか、
俺と共闘して道を切り拓くか・・・!考えろ!!」
「・・・」
心の奥で何かが聞こえたような気がした
(また明日会おうね・・・。ヤクソクだよ。)
アルテミスは少し黙った後
「共闘が最適と判断・・・」
そう呟いた後
「わかった。お前と共闘して、この状況を乗り越える!」
「よし、いい子だ!!」
二人は戦闘体制に入る。