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第13話 不正

ある日の深夜

イリスは世界を徘徊し、冒険者達と戦う


「つ・・・強い!そんな・・!チート行為をしても勝てないなんて!!」


イリスはその冒険者の異変に気づく

「能力、ステータス・・・何か変・・・」


「く・・・逃げるぞ!」


冒険者はイリスから逃げ出すが

イリスは追いかけ


「捕まえた♪」


イリスはその冒険者を背後から抱きしめ

耳元で囁く


「ねえ・・・それ・・・普通じゃできないよね?

どうやったの?」


冒険者は震えながら許しを請う

「ご・・・ごめんなさい!不正をしてました!

許してください!!」


「やだなあ、怒ってないよ♪ただそれ、

私にも教えて欲しいな♡」


・・・・・・・・・・・・


ー後日 明け方の教会ー


「ホシノ、相談がある。」


 神妙な面持ちで、アルテミスは星野に声をかけた。


「あら、アルテミス、どうしたの?」


 星野が穏やかに返すと、アルテミスは少し真剣な表情のまま言った。


「私の能力についてだ。 普段の武器は短剣だが、影の中に持ち込めないんだ。 不便で仕方がない。」


「【影間移動】のことね。 体や服は影に入れられるけど、それ以外の物も持ち込めるようになったら・・・さすがに強力すぎるわね。だから制限がかけられているのよ。」


「何かいい方法はないか?」


 アルテミスの問いに、星野は少し考えた後、冗談混じりに提案する。


「そうね・・・じゃあ、体を武器にしてみるのはどうかしら? 爪を伸ばして攻撃するとか? まあ、冗談だけど。」


「それはいいな!」


 星野の冗談を聞いた瞬間、アルテミスの目が輝いた。


「爪や手を自由自在に変形できたら、多様な戦い方ができそうだ! 影の中に爪だけ移動させたり……!」


 冗談のつもりで言った星野だったが、アルテミスはすっかり本気になってしまったようだ。


「ははは・・・」


 苦笑いしながら、星野は軽く肩をすくめる。


「じゃあ、上長に聞いてみて、了解を得たらやってあげるからね。」


 そう告げると、アルテミスは満足そうに頷いた。


〜♪〜


星野のスマホから突然鳴り出す着信音

「ってその上長から至急の電話が来た!イリスも迎えに行かなきゃいけないのに!

ごめん、すぐ戻る!!」


そう言って星野はゲーム内から消える


それからものの数分もしないうちに教会内にイリスが入ってくる

「イ、イリス・・・?遠くにいたはずじゃ・・・ホシノが迎えに来たのか?」


「ねえ、アルテミス・・・私、強くなれたんだよ♪」


明らかに様子がおかしいイリス

そして禍々しい雰囲気を纏ってる


「アルテミスにも教えてあげるよ♪自身のプログラムの書き換え方♡」

イリスがアルテミスに触れようとすると・・・


「イリス!」

星野がゲーム内にログインする


「あなた・・・何やってるの!?」


イリスは星野に気付き

「あ、ホシノ、みてみて♪私強くなったんだよ!

もうこれで冒険者にはやられないよ!」


星野は険しい顔で叫ぶ

「違う!それは強さじゃない!!間違った力よ!!」


「間違った力?」

アルテミスは困惑する


「さっき上層部から連絡があった・・・

『イリスが不正行為をしている』と!!」


「不正行為?」


ー数時間前ー


「あはは♪ すごいすごい♪」

「強さも、能力も……なんでもやりたい放題だ!」


イリスは笑いながら、自身の腕を見つめる。

その瞳には、底知れぬ狂気が宿っていた。


彼女はチート(不正)行為を行っていたユーザーから、

プログラムの書き換え を学習していたのだ。


能力の制限解除。

ステータスの値の改変。


それだけではない。


フィールドに生えていた木に触れながら、

イリスは小さく呟いた。


「プログラム解析……消去……」


次の瞬間、木は影も形もなく消え去った。

まるで最初から存在していなかったかのように。


「あははははは! 面白い! これ!!」


イリスの笑い声が、虚空に響く。

しかし、その様子を見ていた者がいた。


「いたぞ! イリスだ!!」


横合いから、挑戦者たちが現れる。


「お、俺……イリスに勝てる気がしないな……」

「じゃあ後ろで待機してくれ。武器を抜かなければ、イリスは襲ってこないから」


挑んできたのは四人。

一人は未熟なため、武器を抜かずに後方で待機する。


しかし


「そうだ、こういうのはどうだろ?」


イリスが手を前に出すと、

空間が歪み、突如として巨大な岩が出現した。


冒険者たちは息を呑む。


「な、なんだ? あれがイリスの能力か?」

「能力じゃないよ♪ ただ、プログラムをいじっただけ!」


そう言うと、イリスはその巨大な岩を軽々と持ち上げ、

冒険者たちへ向かって投げつけた。


「う、うわああああああああ!!」


轟音とともに、大地が揺れる。

砕け散った岩の破片が、後方で控えていた冒険者にも直撃した。


「そ、そんな……! 武器を抜かなければ攻撃してこないんじゃ……」


ルールは、もう意味をなさない。


「あはは♪ ごめんごめん! 狙うつもりはなかったんだけど、巻き添え食らっちゃったね」


高揚しきった声が、戦場に響く。

未知の力を手に入れ、恍惚とした表情を浮かべるイリス。


「この力があれば……なんでもできそうだね……♪」


ゲームのプログラムに干渉できるようになったイリス

純粋ということは善悪の意識も低い。ゆえに思うがままに行動する

しかし、運営もこの事態を把握していないわけではない


ーステラ・ストリア開発局ー


「イリス・・・なんだあれは!?」


「プラグラム干渉、そして書き換え。一般ユーザーなら即刻退場の不正行為だ」


「まずい!あんなの放置したらユーザー達から相当な反感を買うぞ!」


「今すぐ星野君を呼んでなんとかしてもらうんだ!!」


・・・・・・・・・・


ー教会内ー


「イリス、お願い!もうこんなことはやめて!!」


星野は必死にイリスを説得しようと叫ぶ。


「え〜?なんで?せっかく面白い力を手に入れたのに……」


イリスは無邪気な笑みを浮かべながら、

アルテミスへと視線を向ける。


「アルテミスも欲しいよね? こういう何でもできる能力」


だが

「・・・」

アルテミスは何も答えなかった。


「アルテミス?」

イリスが首を傾げた、その瞬間——


「イリス! お前は何てことをしてくれたんだ!!」

怒声が響いた。


「ア・・・アルテミス?」

突然、声を荒げたアルテミスに、イリスは困惑する。


「な、なんで怒ってるの?」

怯えたように問うイリス。


しかし、アルテミスの目には、怒りと悲しみが宿っていた。

「私たちが生きていくには、このゲームが存続することが大事なんだ!

お前が好き勝手やったら、ユーザーたちは離れていく。

そうなったらこのゲームは終わる。私たちは……消えてしまうんだ!!」


「あ……」


その言葉に、イリスはようやく気づく。

自分がしてしまったことの浅はかさに。


そして、星野が優しくフォローするように言葉を紡ぐ。


「イリス……アルテミスの言う通りよ……

不正はしてはならない。ルールがなければ、秩序は保てない。それは、ゲームでも世界でも同じこと。」


「あ……ああ……ご、ごめんなさい……。」


イリスの肩が震え、涙が零れる。

ようやく、彼女は自分の過ちを理解した。


そんなイリスの頭を、星野は優しく撫でる。


「いいのよ……間違いは誰にでもあるから……

上層部には私から話しておくわ。アルテミス、悪いけど交代お願いするわ。」


「……わかった。任せておけ。」

短く答えると、アルテミスは静かに教会を出ようとする。

だが——


「ま、待って……アルテミス……!」


イリスが震える声で呼び止めた。


「ヤ、ヤクソク……しよ? 毎日やってる……

『また明日会おう』って……」


イリスは小指を立て、指切りをしようとする。

しかし——


「ルールを破る奴にするヤクソクなんてない!!」


アルテミスの声が鋭く響く。


そして、彼女は振り返ることなく、

教会から出て行った。


「ちょ、ちょっと! アルテミス!!」


星野は思わず呼び止めようとする。

しかし、それよりもイリスの方が深刻だった。


「う……ううう……ごめん……ごめんね……。」


大量の涙を流しながら、膝をつくイリス。


「ア……アルテミス……!」


必死に彼女を追いかけようとするが——

交代の時間が来た。


イリスの意識が途切れ、

その場に崩れ落ちる。


・・・・・・・・・・・・・


ーステラ・ストリアのフィールド内ー


鋭い風が吹き抜ける岩場の上

一人の男が、刀を岩盤に突き立て、あぐらを組んでいた。


浅く呼吸をしながら、眠るように身を委ねていたが——

気配を察知し、目を開く。


「……誰だ?」

低く響く声。


岩陰から現れたのは、

大柄な体躯を持つ男だった。


「さすがランキング No.1 のナガレ氏。

ゲーム内とはいえ、気配を感じ取るとはな……」


男は口元を歪めながら名乗る。


「俺はランキング No.2 のオリオンだ」


オリオンは静かにナガレへと近づく。

しかし、その動きにナガレは微動だにせず——


「……何の用だ?」


鋭い眼光が、オリオンを射抜いた。

だが、オリオンは意に介さず続ける。


「実はな……」


そして、二人は岩盤の上で言葉を交わした。


「イリスとアルテミスか……」


「そうだ。

並の冒険者たちが全く歯が立たず、倒すのは不可能と言われている。

さらに、イリスに至っては 『不正』 の疑惑すらある」


「それで……俺たちに挑戦してほしいと、声が上がってるわけか」


「そういうことだ」


ナガレはしばし沈黙する。


そして


「・・・断る」


「な!?」


オリオンの表情が一瞬で強張る。


「俺はもう、引退するつもりだ」


淡々と告げるナガレ。


「これからは、俺以外のユーザーがこのゲームを盛り上げればいいと思っている」


「・・・だが、ターゲットは二人いるんだ」


オリオンはナガレの眼を正面から見据えた。


「せめて片方だけでも倒して、他のユーザーたちに可能性を示してほしい。

 それが 頂点に立つ者の使命 ではないのか?」


「・・・・・・・」


 ナガレは何も答えず、ただ静かに風の音を聞いていた。


・・・・・・・・・・・・


ー夕暮れの教会内ー


「ねえ、イリス・・・私とも約束してくれる?

もう不正はしないって・・・」


イリスに優しく語りかける星野


「うん、わかったホシノともヤクソクする。

不正はもうしない」


「ありがとう。イリス・・・いい子よ。

あなた達が学ぶのは戦術やプログラムだけじゃない

正しさだって学ぶ必要がある。」


会話の途中にアルテミスが教会の扉を開け戻ってくる。

「あら、アルテミス・・・今迎えに行こうと思ってたところだったんだけど・・・」


「今日は教会周辺を彷徨いていたから迎えは不要だ」


「あ・・・あのね、アルテミス・・・」

イリスはすぐにアルテミスの元に向かい、声をかけるが


「私は疲れてるんだ。もう寝る」

イリスの言葉を遮る


「アルテミス!」

星野はアルテミスを呼び止めようとするが聞く耳も持たず自室に入っていく


イリスの方に目を向けると落ち込んでる姿があった。

みかねた星野が言葉をかける


「・・・イリス、今日はお休みする?調整がまだ上手く行ってないと上層部に言えば

お休みをくれると思うから・・・」


イリスは首を横に振る


「ううん、私いくよ。ちゃんと正々堂々戦って、今度こそアルテミスと仲直りするんだ」


「偉いわ。アルテミスにもきちんと話しておくから。

あと絶対無理だけはしないでね」

星野はイリスを優しく抱きしめる


・・・・・・・・・・・・・・・・・


深夜


激しい衝撃音が響き渡る。

イリスは、二人の冒険者と対峙していた。


ランキング No.2 —— オリオン

ランキング No.1 —— ナガレ


まさに、このゲーム内で 最強 とされる二人。


「はあ・・・はあ・・・!」


イリスの肩が大きく上下する。


(何なの、この二人・・・!)


強すぎる。

とくに ナガレ —— その存在感は 異常 だった。

勝つためには 「書き換え」 という手段もある。

能力の制限を解除し、ステータスを改変すれば——


(・・・いや、ダメ!!)


イリスは強く首を振る。


(正々堂々と戦うんだ・・・!

アルテミスと仲直りするために!!)


「うわああああああああああああああ!!!!」


 イリスは 全力で立ち向かう。


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