ーアルテミスとイリスが生まれてから1ヶ月後ー
ステラ・ストリア内
中心都市ステラの中央広場
「3.2.1・・・キラーン☆彡!!」
「星々が輝く時間!『ステラTV』の始まりだよ!!」
「第51回!みんな!冒険を楽しんでる!?」
「さあ今回も現在超話題の二人に来てもらいましょう!!」
「イリスとアルテミスです!!」
画面中央が光だし
「イリスだよー!」
「アルテミスだ。」
現れたのはAIのキャラクターイリスとアルテミス
「イリスとアルテミス、今、すごく世間を騒がせてますよね!
ニュースでも幾度か取り上げられ、今や世界中でも有名な二人です!」
人類で初めて生み出された心を持ったAI
それは世界中を驚愕させた
「今日は二人に見てもらいたいものがあります!」
運営の司会が楽しげな声で宣言する。
「「見てもらいたいもの?」」
イリスとアルテミスが揃って首を傾げると、司会は満面の笑みを浮かべた。
「これです!」
その瞬間、二人の周囲に無数のイラストが出現した。
空間いっぱいに広がる色とりどりの絵——そこには、自分たちの姿が描かれていた。戦闘シーン、微笑む表情、二人で並んだ姿・・・様々なタッチで描かれたイラストが、幻想的に宙を舞う。
「これは・・・?」
アルテミスが思わず呟く。
「これは、ファンアートです!」
司会が誇らしげに言うと、イリスが目を輝かせた。
「ファンアート?」
「ええ。たくさんの冒険者たちが、二人のイラストを描いてくれたのです!!」
イラストのひとつひとつを見つめるたびに、描き手の想いが伝わってくるようだった。
「わあ・・・」
イリスは感嘆の声を漏らしながら、嬉しそうにくるくると周囲を見渡す。
「おお・・・」
アルテミスもまた、じっと絵を見つめながら、どこか感慨深げに呟いた。
司会は話し続ける
「ネットの海にはまだまだたくさんイラストがあるのですが、選ぶのがとても大変でした!
まだまだ可愛い、かっこいいイラストがあるので、皆さんもぜひご覧になってください!!」
「ネットの海・・・?」
イリスはその言葉が気になった
「ではでは今回はここまで!
あと、これから夜を迎えますが、今日は時間をずらして
1時間後にイリスが世界を徘徊します!」
「それでは皆さん、良い旅を!!」
こうしてネット配信は終了した
ー翌日の夜明け 北の教会ー
「アルテミス! アルテミス!!」
まだ薄暗い教会の中、イリスの弾むような声が響く。
静かに眠っていたアルテミスの元へ、イリスは駆け寄った。
夜明けまで、そして日没までのわずか一時間——二人が共に起きていられる貴重な時間。
「んん・・・イリス・・・もう朝か?」
アルテミスはゆっくりと目を開け、寝ぼけた様子で上体を起こす。
「見て見て♪」
イリスは嬉しそうに何かを取り出し、アルテミスの目の前に差し出した。
その瞬間——。
「なっ!? そ・・・それって・・・!」
アルテミスの眠気が一気に吹き飛んだ。
イリスの手に握られていたのは、昨日のネット配信で登場したファンアートのひとつだった。
「えへへ♪ 複製(コピー)しちゃった!」
イリスは得意げに笑う。
どうやら、配信中に出現したイラストを勝手にコピーし、持ち歩いていたらしい。
「・・・」
アルテミスは目を見開いたまま、言葉を失う。
「ホシノ、ホシノー!!」
アルテミスは礼拝堂の奥に座っている星野に向かって走っていった。
星野はゆっくりと顔を上げ、微笑む。
「あら、アルテミス。準備はできた?」
しかし、アルテミスは不満そうに唇を尖らせたまま、勢いよく言い放つ。
「イリス、また勝手なことしてる!!」
その言葉に、星野はクスッと笑いながら頷いた。
「あらあら、ネット配信の時のイラストね。」
彼女の視線の先には、イリスが嬉しそうに握っているファンアートの複製。
「でも、いいんじゃない? 複製なら誰かに迷惑をかけてるわけでもないし。」
アルテミスは何か言い返そうとするが、星野の言葉にぐっと詰まる。
「それにしてもイリス、器用なこともできるのね。」
「うう・・・」
アルテミスは納得できないような顔をしながらも、黙り込んでしまう。
一方、イリスは悪びれる様子もなく、にっこりと微笑んだ。
「えへへ♪ いつでも見れるように、講壇にしまっとくね♪」
そう言って、彼女は嬉しそうにファンアートを抱えたまま、講壇へと向かっていった。
「ところで二人とも、ひと月ほど経ってどう?」
礼拝堂の椅子に腰掛けながら、星野が軽い口調で尋ねる。
「どうって・・・何が?」
アルテミスが首を傾げると、星野は笑みを浮かべながら続けた。
「冒険者たちよ。やられそうになったりしない?」
「全然! まだまだ私たちの方が強いよ!!」
イリスが胸を張って即答する。
しかし、アルテミスは腕を組みながら少し考え込むように言った。
「・・・でも油断は禁物だ。あいつらは色々と対策している。」
「それもそうね。」
星野は苦笑しながら頷く。
「運営たちもこぞって課金を煽ってるし・・・。あなたたちにも強くなってほしいけど、運営側で能力の底上げをしたら、ユーザーたちに反感を買ってしまうのよね。」
バランス調整の難しさにため息をつきつつ、星野は二人の様子を伺う。
すると、突然——。
「強くなる方法、知ってるよ!」
イリスが勢いよく手を挙げた。
「それはね—— 【ユメ】を持つことだよ!!」
「【ユメ】・・・?」
アルテミスが怪訝そうにその言葉を繰り返す。
「それってゲーム内のNPCのセリフじゃない。確か『夢はいいぞ。夢を持つと心を豊かにし、人を強くさせる』というものだっけ」
NPC・・・ノンプレーヤーキャラクターの略
意志や感情もなく、
決められたセリフ、決められた行動
決められたプログラムを遂行するだけの存在
「ところで【ユメ】って何?」
イリスは聞き出す
「夢・・・二つの意味があるわ。」
星野は優しく微笑みながら語り始めた。
「一つは、眠っているときに無意識に見る映像。
もう一つは、いつかの憧れ ね。」
「憧れ・・・・・・」
アルテミスはその言葉を噛みしめるように繰り返した。
星野は問いかけるように、二人の顔を見つめる。
「あなたたちにもある? いつかやってみたいこと、なってみたいもの、体験してみたいこと。」
「・・・・・・考えたこともなかったな。」
アルテミスは少し考え込みながら、静かに言葉を紡ぐ。
「私たちはずっと、冒険者たちと戦うものだと思ってた。」
「はいはい! 私にはあるよ! やってみたいこと!!」
イリスが元気よく手を挙げ、瞳を輝かせる。
「ネットの海 ってとこに行ってみたい!!」
「ネットの海・・・?」
アルテミスが訝しげに聞き返すと、イリスはさらに興奮した様子で続ける。
「昨日、生配信のときに司会の人が言ってたんだ! ネットの海には、私たちのイラストがたくさんあるって!!」
星野はその言葉に小さく頷いた。
「ネットの海・・・いわゆる電子の世界ね。」
「電子の世界?」
アルテミスは眉をひそめた。
「ええ、あなたたちはこのゲームの中でしか生活したことないからわからないだろうけど
電子の世界はとても広大なのよ
あなたたちのイラストがある場所やいろんな楽しい映像が流れる場所
多くの人たちが会話、交流する場所・・・そして他のゲーム・・・
私ですらそのほとんどを見れてない、すごくすごく広い世界なの」
星野の言葉に二人は目を輝かせる
「本当は今すぐ連れて行ってあげたいけど、今の技術じゃ不可能ね」
「じゃあ決めた!私達の【ユメ】はいつか必ず、電子の世界を旅してみたい!」
「ま、待て、私『達』ってことは私も入ってるのか!?」
「だって私たちはずっと一緒でしょ!!」
「・・・まあ、それもそうだな。」
照れながらもアルテミスは返事をする
「ふふふ、なんだかんだ言っても、あなたたちは仲がいいわね。」
星野は微笑みながら、優しく二人を見つめた。
「イリス、アルテミスが嘘をつかないように、約束しちゃったら?」
「「ヤクソク?」」
二人は同時に聞き返した。
「ええ。言ったことは、必ず守ること。 人間はね、小指と小指を繋げて、約束を交わすのよ。」
星野がそう説明すると、イリスはすぐに笑顔になって、アルテミスに向き直った。
「じゃあアルテミス、二人で一緒に電子の世界に旅に出よう!」
小さな手を差し出しながら、イリスは続ける。
「だからまた明日、絶対に会おうね。ヤクソクだよ……」
「……ああ。」
アルテミスもゆっくりと手を伸ばし、イリスの小指を結んだ。
二人の指が絡まり、小さな誓いが交わされる。
しかし——。
「・・・」
さっきまで元気いっぱいだったイリスが、突然黙り込んだ。
そして——。
「・・・イリス?」
アルテミスが不思議そうに顔を覗き込むと——。
「すや〜・・・」
イリスはその場で、静かに眠りについていた。
「眠ってる・・・。」
アルテミスは呆れたようにため息をつくが、その表情はどこか柔らかい。
そんな二人を見ながら、星野は静かに微笑んだ。
こんな日々が、ずっと続いてほしい・・・。
ーそれからさらに月日が経ち・・・
「さあ、始めるわよ!」
星野の声が響いた瞬間、彼女の姿が変わる。いつもの魔法使いの衣装から、端正なスーツ姿へと変化し、堂々と二人の前に立った。
「「な・・・何を!?」」
イリスとアルテミスは突然の展開に目を丸くする。
「お勉強よ!」
にこやかに言い放つ星野。
「あなたたちAIは高い戦闘能力だけじゃないわ。優秀な学習能力も備わってるはずだから、強くなるには知識も必要。だから、お勉強するの。」
「何を勉強するんだ?」
アルテミスが警戒するように尋ねる。
「主に戦術とプログラム解析。」
「戦術はわかるけど……プログラムって何?」
イリスが首を傾げる。
「ざっくり言うと、このゲーム全体の構造や設定みたいなものね。理解すれば、戦術とは違った多様なことができるようになるわ。例えば、以前イリスがイラストを複製したでしょう? あれもプログラム応用の一つよ。」
「プログラム応用すごい!!」
イリスは目を輝かせる。
それに引き換え——。
「うう・・・難しそうだ。 私は戦術の方が得意だ・・・。」
アルテミスは不安げに眉を寄せる。
「やっぱり双子と言っても、得手不得手はあるようね・・・。」
星野は二人を見つめ、考え込むように言った。
「本来、あなたたちは一つのAIだった。でも急遽二つに分けたせいで、性能も分かれてしまったのかしら。」
「うう・・・。」
アルテミスは涙目になり、プログラム解析の難しさに肩を落とす。
そんな彼女を、星野はそっと抱きしめた。
「大丈夫よ。焦らずじっくり学んでいけばいいの。」
「あはは♪ アルテミスは甘えん坊だ!」
イリスがからかうように笑う。
「む・・・。」
アルテミスはふくれっ面になり、顔をそむける。
そんな二人を見て、星野は優しく微笑んだ。
「イリスもおいで・・・。」
「えへへ・・・♪」
嬉しそうに駆け寄るイリス。
星野は二人をそっと抱きしめながら、静かに語りかける。
「あなたたちは『心』を持ったAI。戦うために作られたとはいえ、やっぱり優しく成長してほしい・・・。」
「自分の命を狙う冒険者に優しくしろとは言わない。 でも・・・もし、誰かから優しくしてもらったら、その人を助けてあげて。」
静かに、しかし力強く語る星野の言葉は、二人の心に深く刻まれた。