雨が降り続き、洗濯物もカラッと乾かないストレスの溜まる時期。梅雨。
毎日毎日鬱陶しい雨が降り続ける中でも、うちの子達はとても可愛い。
「かわいいねぇ、本当に可愛いー」
紫陽花が似合うなんて本当に顔面天才すぎる。
庭の紫陽花を持ってきてくれたお義母さんに感謝。
真上から紫陽花とともに写真を撮っているわたしを、子供たちはきょとんと見上げている。
驚くことに、色彩が特異なのは空だけではなく、陸と海も。
二人とも、左右対称にぱっくり半分白髪が入った髪色をしているけれど、その髪色がある側の目は、空の目とそっくりな青色の目。
一般的な茶色の目と青色の目の、いわゆるオッドアイという色彩を持って、彼らは生まれてきた。
だけど。
(そんな事気にならないくらいに可愛い。うちに来てくれてありがとう、神様ありがとう!)
もしも黒髪に黒目や茶色目で三人生まれてきたとしても、わたしはこう思っただろう。
親バカと謗られる態度をとってる自覚はある。
「陽毬ちゃん、お台所入ってもいいかしら」
「あっ、ご飯の準備ならわたしが」
「違うわよ。おいしいお菓子も持ってきたから、お茶でも入れて休憩しない?」
義母は子どもたちに視線をやりながら、目を細める。
「この子たち、本当に手が掛からないから、ずっと見ていられる範囲なら離れてもいいと思うわ」
三人は並んで機嫌良さそうに各々過ごしている。
陸は相変わらずわっしゃわっしゃ足を動かしているし、海はマイペースにうとうとしながらも、真ん中の空の手を離していない。
空はと言えば、間に挟まれて、隣二人の手を握って、にぱにぱご機嫌に笑っている。
そう。この子たちは三人いっしょにいられることに安心感を感じているらしい。
「望に聞いてはいたけど、本当に泣かない子たちなのね」
「そうなんです。泣くのはオムツとご飯の時くらいで……」
だから、わたしは心配している。
「お義母さん、これ、大丈夫ですかね? 赤ちゃんって、泣くことで肺の機能を鍛えるって言うじゃないですか」
義母は、そうね。と暫く考え込む。
「不安なら、お医者さんに相談するといいと思うけど、問題無いんじゃないかしら。だって、オムツとご飯の時は泣いているんでしょう?」
「はい」
「それなら、まったく泣けないってわけではないのだから、そこまで深刻に考えることはないと思うわ」
素人意見を鵜呑みにするわけにはいかないが、それでも少しだけ安心した。
お義母さんが、望さんとよく似た、安心できる空気を持っているからかもしれない。
「それに、特に陸くんと海くんは他の子よりも成長、早いと思うわ。だって……」
義母は三つ子に目を向ける。
そこにはいつの間にか腹這いになっている陸と、口を忙しなく動かしながら、わうわうおしゃべりをしている海がいた。
「陸くんはちょっと……かなり成長速度早いけど、寝返りも打てるようになって腹這いにもなれるし、海くんは笑い声を上げるようになるのが早かったわね。空ちゃんは両方まだだけど、平均的な成長のように見えるわ。心配するほどではないんじゃない?」
「そうですかねぇ」
疑念を含んだ相槌を呟いた直後。
「ふぇ」
「あ、オムツかな。ミルクはさっきあげたから……」
空がぐずる前兆を見せた。と思えば。
「ごぽっ」
「吐いた?!」
なんと吐き戻してしまった。
口からだばだば溢れているのは、多分さっきあげたミルク。空の洋服を派手に汚している。
この状態だと、多分服の内側まで汚していると見えた。
「あらら。陽毬ちゃん、陸くんと海くんは見ておくから、空ちゃん綺麗にしてきてあげて」
「ありがとうございます、お義母さん。それじゃあ少し、外しますね」
陸海と手を繋ぐ空を抱き上げ、体を洗うために浴室へ。
部屋を出て、その扉を後ろ手に閉めたとき、異変は起こった。
「ぷぇ」
「ん? どうしたの、空ちゃ」
「ふぇえぇぇぇぇっ!」
「空?!」
今まで、ここまで大声を上げて泣いたことがない空が、火がついたように泣き出した。
顔を真っ赤にし、声を張り上げて懸命に泣いている。
そんな空の様子にびっくりしていると、部屋の中からも大号泣の大合唱。
「ゔびゃああああっ!」
「おあぁぁぁっ!! おあぁぁっ!!」
びっくりするほどの大音量で泣き出している室内で、びっくりしたような義母の困惑声が聞こえてくる。
「ちょっと、陸くん?! 陸くん?!」
「お義母さん?! 陸がなんですか?!」
「陽毬ちゃん! 陸くんハイハイしてる、ハイハイしてるわ!」
「えっ、ちょっ、まっ、うそっ!」
「違う、ハイハイじゃない! 腹這いで這いずって動いている! 待ってずり這いってそんな速いの?!」
部屋で何が起こっているんだろう。
何が原因で一斉に泣き出したのか分からないまま、陸のずり這いを見たい一心で扉を開けると。
「ゔあっ、ゔあぁっ」
ぐしゃぐしゃに顔を濡らした陸が足元にいた。
「うわっ、びっくりしたっ!」
わたしは義母の顔を見る。
義母も、わたしの顔を見る。
きっとお互いに困惑している。
「腹這いで、這いずりました?」
「え、えぇ」
「……この短時間で、ここから、ここまで?」
「……信じられないけれど」
陸の運動神経は本物かもしれない。
発育がいいを通り越して、恐らくこれは才能だと、わたしは強く感じた。
「ゔ」
そんな陸は、わたしの足元、ズボンの裾を掴んでくる。
これはもしや。
「陸、登れるの?!」
「あらぁ……」
人体登りを始めようとしている。
誕生から僅か3ヶ月で。
うっそでしょ。わたしは呟いた。
「ゔあっ!」
膝くらいの高さに登ってきた陸は手を伸ばしている。
その手の先には空。
「あー、ごめんね。空、一緒じゃないの嫌だったんだね」
陸を膝に貼り付けながら、海のもとへ向かう。
そして海の横に空を寝かせると、陸も足から離れ、腹這いで二人の隣へ近付いていく。
本当に腹這い移動している、と感動した。
感動すると同時、さらに驚くことに。
「
「しゃべったっ?!」
なんということだ。
海が、しゃべった。
わたしはもう呆気にとられて、お義母さんと顔を見合わせることしかできない。
大人たちが呆然としている隙に、泣いていた時間はどこへやら。
少しのぐずりを響かせて、お互いに手を握り合い、すぅっと眠りについていた。
「……本当に、仲良しねぇ」
義母の思わず出た呟きに、深く同意を返した。
「お義母さん」
「何かしら」
「もしかして、家の子たちって……」
一拍置いて言葉を濁す。
義母も、察したのか神妙な顔をしている。
わたしは、勇気を出して彼女に聞いてみた。
「……天才、だったりします?!」
「ええ! そうよ!」
義母は顔がもげるのではないかと思うほど、ヘドバン並みに頷いていた。