校内放送で、『第一期戦闘試験、開会式を行います。校庭まで集合してください。繰り返します、第一期――』と呼びかけのあった三十分後。
私は瑪瑙先輩率いる、第五十一番チームのメンバーと固まっていた。
「みんな揃っとるなー? いやあ、学長の話は長かった! 開会式の九割学長の話だったもんなぁ!」
安堵とも呆れとも違う、ようやく終わったか、と言いたげな深いため息を吐いた瑪瑙先輩はいつも通り。
私は、周囲に知らない人がたくさんいるから、緊張で身を縮ませていた。
「いやしっかし珍しい。五人中四人が二年次生なんてチーム、歴代でもあっただろか?」
「いや、多分無いよね。てか、オレらはみんな顔見知りだけどさ、この真っ白お嬢さん、だれ?」
男の先輩に指を差される。
思わず背筋を伸ばし、名乗ろうと口を開きかけたとき。
「夏ちゃんよう。今年の一年次生航空学科エースになり得るって噂されている夏ちゃんよん、サーフィンくん」
(サーフィンくん?)
これまた珍妙なあだ名が飛び出してきたと目をぱちくり瞬かせていると、サーフィンくんとやらは頭の後ろを掻いた。
「珍妙なあだ名付けるのやめろって。……で、夏ちゃん?」
「空です。天嶺空」
「ああ! 噂の空さん!」
(噂の?)
「オレは
口調はチャラいのに、根は真面目そうな荒太先輩に差し出された手を握り返した。
「よろしくお願いします。若輩者ですが、精一杯着いていけるよう努力します」
「いいっていいって。そんな堅くなんなくてもさ」
「そーそー。そもそもこの試験自体、一年の大半にはクリアさせることを想定していないものなんだしね」
荒太先輩の背後から、フレンドリーにニコニコ声をかけてくる女の先輩。
「よろしくね、空ちゃん。アタシ、
随分穏やかに笑う先輩だ。
私はよろしくお願いしますと頭を下げ、彼女に窺うよう問いかける。
「一年にクリアさせることを想定していないって、どういうことですか」
「ああ、一年は現実をリアルに知ることができるように、敢えて教員は何にも言わないもんね」
「ま、端的に言やあ、脱落者をたくさん出すための試験だってこと」
あまね先輩の言葉を引き継ぐように、瑪瑙先輩と何かを打ち合わせていた男の先輩が、心底面倒くさそうな表情で語る。
「脱落者?」
「入学したて、明日より先の未来がキラキラ輝いて見えるお花畑どもに、ここで一発ガツンと鼻っ柱を折っておこうって魂胆だ」
随分乱暴な言葉選びをする先輩だ。
多分、髪は黒染めをしている彼の頭頂部に、綺麗な金髪が覗いている。
「こーら、お花ちゃん。そんな言い方したら一年泣いちゃうってねー?」
「だーかーらー! そのあだ名やめろって何度も何度も!」
「空ちゃん、ビックリしてるかもだけど、お花ちゃんの言うことは割と本当よん」
いつも通りののんびり口調で、瑪瑙先輩は衝撃の強い事実を語る。
「多分この試験で、一年は半分くらい脱落するねん」
「……えっ」
反応が遅れた。
だって、『今日そこのスーパーでキュウリ安売りだったよ』くらいの気楽さで語るから。
「今回の試験のポイントシステムで、取ったポイント順に一年も内々の順位が決められてくけどぉ。そのポイントで教員が足切りラインを設定して、下位何名か、あるいは何十名か、退学処分」
瑪瑙先輩が首の前で指を使い、一直線に線を引く。
首を切る動作が様になっている。普段あれだけ掴みどころのない、クラゲのような人なのに。
「それからねん、この試験でこの学校の厳しさを知って、やってけないって思った
瑪瑙先輩は両手を、仕方ないね、って言っている風に芝居がかったわざとらしさで上げた。
「これで、あっという間に一年次生の半分が減る。……毎年のことよん」
簡単に語られた説明に、この学校の厳しさを垣間見る。
「……今、一年次生って、五百人超えてましたけど……」
「俺らの時は八百超えてた。去年のこの試験で残ったやつらは、三百人切っていた」
……本名が分からない。お花先輩でいいや。
お花先輩は、去年のことでも思い出しているのか、遠いところを見つめていた。
「毎回、試験の度に退学処分と自主退学生が大量に出てくるの。卒業できる生徒が二桁いないことも、ザラにあるわ」
「場合によっては卒業生無しの年もあったらしいね」
あまね先輩と荒太先輩が交互に重ねる厳しさに、私はゴクリ、生唾を飲んだ。
一年次生、五百二十名。二年次生、百三十名。
ランダムに作られた五人組は、実に百三十組。
この百三十組の中にいる大半が、今試験で脱落するとのこと。
私はこの、云百人といる生徒の中で、生き残らなければいけない。
(……大丈夫)
とっくに覚悟は決めてきた。
腹なんてとうに括ってる。
私は先を歩く先輩たちの背中を追いかけ、一歩足を踏み出した。