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第10話「廃墟の誓い」

第10話「廃墟の誓い」


いよいよ予選が開幕した。

訓練場の広大なフィールドに、数十ものチームが散らばっていく。

開始の合図と同時に、あちこちで銃声と金属音が響き、叫び声が上がる。


「握手しようぜ!」と笑顔で近づいたかと思えば、いきなり刃を振りかざす者がいる。

遠くでは、開始前から事前に同盟を組んでいたらしいチームが息の合った連携を見せ、弱いチームを次々と潰していく。


「……気をつけろ。油断したらやられるぞ」

レントが低く告げる。


ナイアは端末を操作しながら、ハイネたちに指示を飛ばした。

「同盟はNGだよ~。後々遺恨になるからね~。俺たちは自分たちで生き残る」


「了解!」

ハイネは頷き、リラリと共に先を急ぐ。

ナナミとミミミもその後ろを守るように走った。

タイチとユウロは上空を旋回し、敵の動きを確認している。


フィールドの中央付近にある廃墟に辿り着くと、ハイネたちはそこで一度体勢を立て直すことにした。

古びたコンクリートの建物、窓ガラスは割れ、天井もところどころ抜けているが、隠れるには十分だ。


「ここを拠点にする!」


ナイアが宣言したそのとき、廃墟の奥から別の気配がした。

全員が一斉に構えるが、出てきたのは別のチームだった。

互いに目を見合わせ、数秒の緊張が流れる。


だが相手チームのリーダーらしき少女がそっと武器を下ろし、手をひらひらと振った。

敵意はないという合図。

ハイネたちも武器を下ろし、目配せをして不戦を誓う。


相手チームは遠距離戦が得意らしく、屋上に陣取ったパートナーが望遠スコープで周囲を監視している。

「東から二機、こっちに向かってる!」とすぐに教えてくれた。


「助かる……! こっちは近距離戦が得意だから、前で迎え撃つ!」


ナナミがハンマーを構え、リラリも義手を変形させる。

その横でナイアが笑った。

「同盟はダメって言ったけどね~……センド、あちらのチームも守ってやれ」


「了解しました」


センドが光学シールドを展開し、遠距離チームを覆う。

互いの得意分野を活かし、二つのチームが無言の連携を取り始める。


廃墟に立てこもる即席の防衛線。

敵の足音が近づく中、ハイネはリラリと視線を交わした。

胸の奥が熱くなる。

守るべきものが増えた。

それが、彼の決意をより強固なものにしていった。


東から迫る敵影が、廃墟を取り囲むように広がっていった。

遠距離チームのスコープ越しに、その動きが逐一伝えられる。


「右の瓦礫の陰に一機、左から二機、そして正面から三機!」


「よし、任せろ!」


ナナミがハンマーを構え、前線へと駆け出す。

リラリも義手をブレードモードに変形させ、ナナミの隣に並んだ。


「リラリ、左は任せた!」

「はい!」


敵の一機が正面から突っ込んでくる。

ハイネはライフルを構え、狙いを定めるが――弾道の先、敵が急停止し、煙幕を展開した。


「煙だ! 視界が!」


すかさず遠距離チームのパートナーが高台から索敵を続ける。

「煙の中、三歩前! そこだ!」


ハイネは指示に従い、引き金を引いた。

弾丸が煙の中の敵機を撃ち抜き、火花が散る。


「ナイスショット!」

ナナミが笑い、ハンマーを横薙ぎに振る。

敵機の脚部が粉砕され、瓦礫に崩れ落ちた。


一方、リラリは左側から回り込んだ敵と接触していた。

ブレードを振るい、敵の腕を切り落とし、そのまま後ろに蹴り飛ばす。

彼女の動きは鮮やかで、しかしどこか激情を秘めている。


「ハイネ様を……守る!」


その声は鋭く、敵を圧倒する。

ハイネはその後ろ姿を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……あいつ、ほんとに……強い」


敵の攻撃が一瞬途切れた隙をついて、レントとガルドが前線を押し上げる。

大剣が振り下ろされ、二機の敵を同時に両断する。

ガルドが巨体を盾にし、残る敵の射線を塞いだ。


「ナイア、後方は?」


「問題なし~、センドが全部弾いてるよ!」


実際、ゲームコアの前に立つセンドは展開したシールドで敵の狙撃を防ぎ続けていた。

その背後でナイアが陽気に銃を撃ちながら、時折後方チームに向けて声をかける。


「よくやってるよ~、そのままそのまま!」


やがて敵の隊列が乱れ、撤退の合図が見えた。

遠距離チームのリーダーが息をつきながら笑う。

「……助かったわ。あんたたち、強いのね」


「そっちこそ、索敵がなかったら負けてた」

ハイネが笑みを返す。


ナナミはミミミの肩を抱き、「よくやった」と囁く。

ミミミは小さく「ナナミさんこそ」と返した。


煙と砂塵の残る廃墟で、ハイネたちは再び集まった。

リラリが胸に手を当て、静かに呟く。

「……私、守れましたか?」

「……ああ。お前は、最高のパートナーだよ」


ハイネの言葉に、リラリの機械の心臓がまた温かく脈を打つ。

ナイアは肩をすくめ、いつもの調子で言った。

「さーて、この調子で予選突破しちゃおうか!」


遠距離チームと互いに軽く手を挙げて別れを告げると、ハイネたちは再び次の戦場へと歩き出した。

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