第17話「それぞれの理由」
本戦の第一試合を勝ち抜いた翌日。
チームは次の試合までの待機時間を与えられていた。
アリーナ裏の控室。
昼下がりの光が差し込み、汗と油の匂いがかすかに漂う。
皆が無言のまま各々の整備をしていたが、やがてナイアがパイプ椅子をぐるりと回して座り、全員を見渡した。
「なぁ……せっかくだしさ、ここで一度ちゃんと話しておこうか。お前たちは、なんで戦う?」
唐突な問いに、ナナミがきょとんとした顔をしたあと、すぐにミミミの肩を抱く。
「……決まってるじゃない。あたしはミミミを守りたい。それだけ。」
ミミミが小さく頷く。
「私も……ナナミさんを、守りたいです。」
「ふふ、ありがと。」
ナナミは笑い、だがその目には強い光が宿っていた。
次にレントが低く口を開いた。
「俺は……家を再興するため、だが……それ以上に、この戦場を変えたいと思うようになった。ガルドを、このまま“道具”として扱われるのは許せない。」
ガルドが黙って頭を下げる。
その仕草に重みがあった。
タイチは肩のユウロを撫で、照れくさそうに笑う。
「俺はなんとなく来ちまったけど……でも、ユウロを壊させたくないって気持ちは本物だ。だから、戦う。守るために。」
ユウロが「嬉しいです」と柔らかく返し、羽を小さく震わせた。
全員の視線が最後にハイネへと集まる。
ハイネは少し俯いてから、ゆっくりと顔を上げた。
「……俺は、リラリを守りたい。……それだけ、だった。けど……今は違う。守りたいのはリラリだけじゃない。ナナミも、タイチも、レントも……みんなだ。俺たちは、ここで出会ったんだ。だから……俺は絶対、負けない。」
リラリが隣で胸に手を当て、小さく笑った。
「……ありがとうございます、ハイネ様。私も、皆様を守ります。」
その言葉に、一同の胸の奥に温かいものが広がった。
ナイアが手を叩いて立ち上がる。
「よーし、いい感じじゃん! ならさ、次の試合はもっと派手に勝つぞ!」
「おまえ……さっきまでしんみりしてたのに……」
ハイネが苦笑する。
「そういうもんさ~!」とナイアは肩をすくめた。
控室のドアの外、観客席からは他チームの試合の歓声が聞こえる。
ナイアがふと笑みを引っ込め、小さく呟いた。
「……でも、油断するなよ。サイトも、きっとこっちを見てる。」
緊張が、再びその場を支配した。
ハイネは拳を握りしめ、視線を前に向ける。
「……来るなら来いよ。俺たちは負けない。」
その言葉に、仲間たちも力強く頷いた。
本戦は、まだ始まったばかりだ。
―――
開始の合図とともに、相手チームのリーダーが爽やかに手を差し出した。
「スポーツマンシップにのっとっていい試合をしよう!」
その笑顔に一同は一瞬安心しかけたが、戦闘が始まればそんな甘さは微塵もなかった。
敵チームは戦闘型バイオロイドと歴戦の軍人の集まり。
動きは統率され、射撃も剣技も一切の無駄がない。
前線はすぐに押し込まれ、ナイアとセンドが必死にゲームコアを守る形になる。
「……おいおい、これ、かなりまずいんじゃない?」ナイアが歯を食いしばる。
「このままではコアが突破されます!」
センドの声が響いた。
レントとタイチが互いに頷き合う。
「……レント、やるしかないな。」
「……ああ、ガルド。鎧を脱げ。」
「了解。」
ガルドの巨大な鎧が軋む音とともに解け落ち、そこから姿を現したのは驚くほど軽量でしなやかな機体。
パワー型からスピード型へ――。
「行け、ガルド!」
その巨体が一瞬で加速し、敵の間を駆け抜けた。
同時にタイチも叫ぶ。
「ユウロ、潜れ!」
「はい、タイチ!」
ユウロが羽をたたみ、敵の防壁をすり抜けるようにゲームコアへと侵入する。
「……っ、今だ!」
直後、敵陣奥から爆発が起きた。
煙の中でゲームコアに走る大きなヒビ。
「な、なにっ!?」
敵チームが混乱し、前線が揺らぐ。
レントとガルドはその隙を見逃さない。
「……突破するぞ!」
「御意!」
背後から奇襲をかけ、敵を蹴散らす。
「ナナミ! 追従しろ!」
「了解!」
ナナミとミミミが続き、ハンマーとシールドで敵を次々と弾き飛ばす。
後衛に残ったハイネとリラリは、まだ残る敵を相手取っていた。
「リラリ、無理するな!」
「……私は、ハイネ様を守ると誓いました。ですから!」
リラリは鋭い動きで敵をいなし、ハイネの横を決して離れない。
やがてレントがゲームコアへとたどり着く。
「……終わりだ!」
振り下ろされた大剣がヒビを正確に叩き割り、ゲームコアは砕け散った。
審判の合図が響く。
「試合終了! 勝者、ナイアチーム!」
全員がその場で力を抜き、互いに無言で頷き合った。
「……勝った……」
ハイネが肩で息をし、リラリも安堵の息を吐いた。
だが控室へ戻る途中、ナイアは険しい顔で呟く。
「……課題は山積みだな。」
「……ああ。これじゃまだ……」
ハイネも同じ思いを抱えていた。
観客席の上段で、サイトが笑いながら見下ろしていた。
「相変わらずバイオロイド主体の戦い方だな~! 前みたいに人間が前線に出ちゃえばいいのに!」
「それは……危険かと……」と、バイトが珍しく口を挟む。
「いいだろ別に! 人間の方が丈夫なんだから!」
サイトは心底楽しそうに笑い、肩を揺らした。
「はぁ~……早く戦いたいな~。」
その言葉を耳にしたナイアは、控室の窓越しに冷たい目を向ける。
「……待ってろよ。次は、こっちからお前を叩き潰す。」
戦場の熱が冷めぬまま、次の決戦への火蓋が静かに落とされようとしていた。