第21話「瓦礫の上の誓い」
異形型との戦闘が終わり、アリーナの床には無数の残骸が散らばっていた。
火花が散り、焦げた金属の匂いが鼻を刺す。
ナイアチームは中央の瓦礫に腰を下ろし、整備班が来るまでの間、しばしの休息をとることになった。
「……ひでぇ有様だな。」
タイチが額の汗を拭い、砕けたゲームコアの欠片を拾い上げる。
ユウロが彼の肩に止まり、穏やかな声を落とした。
「ですが、あなた方は無事でした。」
「……それが唯一の救いだな。」
ナナミはミミミを抱き寄せ、肩を震わせていた。
「ミミミ、怖かったでしょう?」
「……でも、ナナミさんを守れて……よかった。」
その小さな手がナナミの袖をぎゅっと握る。
ナナミは目を閉じ、強く抱き返した。
レントは鎧を脱いだまま大剣を磨きながら、ぼそりと呟く。
「……制御が外れたバイオロイド。あんなものが、これから増える可能性もあるのか。」
ガルドが無言で頷く。
ナイアは少し離れた場所でセンドと並び、戦場を見渡していた。
「……センド、見たか? あれがサイトのやり方だ。」
「はい。人間も、敵も味方も、ただ壊す対象としか見ていませんでした。」
「……胸くそ悪いな。」
ナイアは吐き捨てるように言い、額を押さえた。
そのとき、ハイネは瓦礫の上で膝を抱えていたリラリの隣に腰を下ろす。
「……大丈夫か、リラリ。」
「……はい、ハイネ様こそ。」
「俺は平気だ。でも……あんな戦い方、許せねぇよな。」
リラリはゆっくりと顔を上げ、震える声で言った。
「……バイオロイドは、人間のために在るはずです。それなのに……どうして、あんなふうに……。」
「……わからない。でも、サイトはそういうやつなんだ。」
ハイネはリラリの手を握った。
「俺は絶対に、あんなやり方はしない。お前も、ミミミも、ユウロも、ガルドも……みんな、大事な仲間だ。」
リラリの瞳に光が宿り、胸の奥で機械の心臓がかすかに鼓動する。
「……ありがとうございます。ハイネ様がそう言ってくださる限り、私は戦えます。」
「……ああ、頼りにしてるぞ。」
そのやり取りを遠くから見ていたナイアが、ふっと笑った。
「やっぱり、お前らはおもしれぇな。」
「なんだよ急に。」
ハイネが顔をしかめる。
「いや、さ。こんな状況でも、まだ互いを信じ合ってる。その力が……あいつを超える鍵かもしれねぇな。」
その瞬間、アナウンスが鳴り響く。
『次の試合は三時間後に開始します。参加チームは準備を——』
ナナミが息を呑んだ。
「次……もう、すぐなのね。」
タイチが頷き、レントが大剣を肩に担ぐ。
「休めるうちに休んでおけ。」
「……ああ。」
ハイネはリラリの手を強く握り、立ち上がった。
だが、観客席の最上段。
サイトはまたもや足を投げ出し、笑みを浮かべていた。
「いやぁ、いいねぇ……その顔だ。もっと見せてよ、もっと壊れそうな顔をさ。」
「……次は、どうしますか。」とバイトが問う。
「次はねぇ……もうちょっと面白いおもちゃを出そうかな。」
その不穏な笑みを、誰もまだ知らない。
―――
戦場の後処理が進む中、ナイアチームは短い休息を取っていた。
だが誰も、深く眠ろうとはしなかった。
次の戦いがもうすぐそこまで迫っている――それを全員が理解していたからだ。
「……三時間か。」
タイチが腕時計を見てつぶやく。
「短ぇな。」
レントが鎧の留め具を調整しながら応じる。
「武器もコアも、まともに整備する時間はねぇ。最低限で済ませるしかないな。」
ナナミはミミミの頬を指で拭っていた。
「……怖い?」
「いいえ……でも、さっきの戦場のことが頭から離れなくて。」
「私だってそうよ。けど、次は勝つ。ミミミがいるから勝てる。」
ミミミは小さく微笑んで頷いた。
ハイネはリラリと二人、控室の窓辺に立っていた。
外には修理用ドローンが忙しなく飛び交っている。
「……あんな戦い、俺はしたくない。」
窓の外を見たままハイネが呟くと、リラリが静かに首を横に振った。
「私たちは、あのようにはなりません。……あなたが、そう決めてくださる限り。」
「……リラリ。」
ハイネは言葉を探し、そして力強く握り拳を作った。
「なら、絶対に勝とう。俺たちは俺たちのやり方で。」
「はい、ハイネ様。」
リラリは一瞬だけ優しく微笑むと、その目を決意に光らせた。
ナイアは一同を見回し、低く、しかしはっきりと言った。
「……次の試合、サイトが何を仕掛けてくるか分からない。だが、ここまで来たお前らなら勝てる。俺が保証する。」
「……おまえ、いつになく真剣だな。」
ハイネが笑う。
「だろ? たまには頼りになるだろ?」
ナイアも笑みを返したが、その目の奥に鋭い光を宿している。
「サイトの顔、今度こそ歪ませてやろうぜ。」
「……ああ。」
やがて試合開始を告げるアナウンスが控室に響き渡る。
『出場チームは所定のゲートへ移動してください。繰り返します……』
それを聞いて、全員が立ち上がった。
タイチがユウロを肩に乗せ、レントが大剣を担ぎ、ナナミはハンマーを背負い、ハイネはリラリと視線を交わす。
「行こう、リラリ。」
「はい、ハイネ様。」
扉が開き、戦場への通路に光が差し込む。
その光を浴びながら、ナイアチームは一歩を踏み出した。
その先、観客席の最上段でサイトは再び笑っている。
「さあ、遊ぼうか。君たちと僕のおもちゃで、最高のゲームを。」
バイトが無言で隣に立ち、視線を戦場に向けた。
そして、戦いの幕が再び上がる――。