第28話「人と機械の叫び」
瓦礫の煙が晴れると同時に、サイトが笑いながら両手を広げた。
胸の中心で脈打つ機械の心臓が不気味な光を放つ。
「さぁ、続きをやろうじゃないか! 壊してよ、僕を!」
ナイアが短く号令を飛ばす。
「全員、連携しろ! 一気に叩くぞ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
ガルドが前へ躍り出て、サイトに向かって大剣を振るう。
「行くぞ!」
しかしサイトは片手で刃を受け止め、金属がきしむ音が響く。
「いい剣だね……でも、遅いよ!」
サイトの膝蹴りがガルドの胸部を貫き、巨体が吹き飛んだ。
「ガルド!」
レントが叫ぶ。
「問題……ありません……まだ動けます!」
ガルドは地面を抉りながら立ち上がる。
その隙をついて、ナナミとミミミが左右から突撃する。
「こっち見なさいよぉ!」
「援護します!」
ミミミのシールドが展開し、ナナミがサイトの足元へハンマーを振り下ろす。
だがサイトは身を捻ってそれを避け、逆にナナミの腕をつかんで持ち上げた。
「ぐっ……!」
「ナナミさん!」
ミミミがシールドで体当たりをかけ、ナナミを解放する。
「甘いねぇ!」
サイトの掌から高出力の電撃が放たれ、ミミミのシールドが弾け飛んだ。
「っ……!」
ミミミが後方に吹き飛ぶ。
「ミミミ!」
ナナミが彼女を抱きとめ、必死に叫ぶ。
「まだやれる……まだやれるわよね!」
「……はい……!」
その間にも、タイチとユウロが高所から狙撃を繰り返す。
「ナイア! 弱点を教えろ!」
「胸だ! あの心臓を止めないとこいつは倒れない!」
「了解!」
ユウロの光弾がサイトの胸元を狙うが、サイトは笑いながら手を翳す。
――光の壁が瞬時に展開され、弾丸を弾く。
「残念だったねぇ!」
「……っ、なら近づくしかねぇ!」
ハイネが息を切らせながらリラリと目を合わせた。
「行くぞ、リラリ!」
「はい、ハイネ様!」
二人は瓦礫を蹴り、一直線にサイトへと飛び込む。
「おっと?」
サイトが迎撃に動くが、その瞬間――。
「後ろががら空きなんだよ!」
ナイアが背後からサイトの腕を絡め取る。
「ぐっ……!」
センドがその横をすり抜け、拳を構える。
「まだわたくしの怒りはおさまっていませんよ!」
サイトの顔面に、センドの渾身の一撃が叩き込まれた!
「ぐあああっ!」
サイトの身体が横に弾かれ、胸の光が不気味に脈打つ。
「ハイネ様!」
「今だ、リラリ!」
二人はサイトの横腹に突撃し、ハイネの拳とリラリのブレードが同時に打ち込まれる。
サイトは苦悶の声を上げ、なおも笑った。
「いいよ……もっとだ……もっと壊してよぉ!」
瓦礫の中、チーム全員が息を切らしながらも、戦闘の手を緩めない。
「ナイア! どうする!?」
「……まだ、終わっちゃいない!」
サイトの胸の光はなおも脈打ち、暴走したかのように高出力のエネルギーを放とうとしていた。
「くそっ……まだ来るぞ!」
ハイネはリラリと背中合わせになり、拳を握り締めた。
「……絶対に、ここで終わらせる!」
「はい、ハイネ様!」
――決戦はまだ続く。
胸の光が、次の瞬間に爆ぜようとしていた。
サイトの胸に埋め込まれた機械の心臓が脈動を早め、光が激しく明滅し始めた。
「ははっ……あははははっ……!」
その笑いは人のものではなかった。
叫びのようで、泣き声のようで、戦場全体を震わせる。
「来るぞ! 全員散開!」
ナイアが怒鳴る。
瞬間、サイトから奔流のようなエネルギーが放たれ、周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
ハイネはリラリとともに身を屈め、その嵐を耐え抜いた。
「くそっ……どんだけしつこいんだ!」
「……あれが、二つの心……!」
リラリが胸を押さえる。
サイトは片手で自分の胸を叩きながら、狂ったように叫んだ。
「これが僕の力だよ! 人の心と、機械の心! 互いに憎み合い、喰らい合い、それでも僕を動かす! 最高だろう!? これが最強なんだ!」
「違う!」
ハイネが前に出る。
「それはただ、歪んだだけだ! お前は強くなんかない!」
サイトがこちらを振り向く。
「……何だと?」
「俺たちは、心があるから戦えるんだ! お前なんかに……絶対負けない!」
その叫びと同時に、チームが一斉に動いた。
「ガルド! 足止めだ!」
「了解!」
ガルドがサイトの背後に回り込み、強烈な打撃で体勢を崩す。
「タイチ、援護!」
「任せろ!」
ユウロがタイチの肩でチャージしたエネルギー弾を放ち、サイトの動きをさらに鈍らせる。
「ナナミ、右から!」
「行くわよ、ミミミ!」
「はいっ!」
ナナミのハンマーが側頭部を打ち抜き、ミミミのシールドが体当たりでサイトを押し戻す。
「ナイア、センド!」
「よし、羽交い締めだ!」
「再びお返しを!」
ナイアが後ろからサイトの腕を絡め、センドが拳を握り締めて胸の装甲を砕く一撃を叩き込む!
「ぐあああああっ!」
サイトの胸が裂け、機械の心臓が露わになった。
脈動が乱れ、青白い光が激しく瞬く。
「今だ……ハイネ!」
「リラリ!」
「はい!」
ハイネとリラリが互いに視線を合わせ、全力で踏み込む。
「これで――終わりだああああっ!」
「ハイネ様を……侮辱することは、許しません!」
ハイネの拳が、リラリのブレードが、同時に機械の心臓へと叩きつけられる。
――轟音。
光が弾け、戦場全体を白く染めた。
そして、静寂。
瓦礫の中で、サイトは膝をつき、空を仰いだ。
胸の心臓はひび割れ、脈動を止めている。
「……そうか……心、か……」
その顔には、初めて見るような寂しさが浮かんでいた。
次の瞬間、サイトはゆっくりと倒れ、動かなくなった。
ハイネはその場に膝をつき、荒い息を吐く。
「……勝った……のか……」
リラリがそっと彼を支え、微笑んだ。
「はい、ハイネ様……お疲れさまでした。」
ナイアがヘルメットを脱ぎ、空を仰ぐ。
「……やれやれ、やっと終わったな。」
センドが静かに頷く。
「怒りは、これで終わりにいたしましょう。」
ナナミがミミミを抱きしめ、タイチとレントが互いの肩を叩き合う。
ユグドラシルを模した塔の向こう、夜空が静かに輝いていた。
――人と機械の戦いは、今ここに終わりを告げたのだった。