第38話「愉快な戦場、兄弟部隊誕生」
ナイア邸の広間は、まるで兵器開発室のような熱気に包まれていた。
兄弟たちが整列し、ナイアがクリップボードを手に一人一人を見回す。
「よし、得意分野のヒアリングいっくよー。お前は遠距離。こっちは中距離、そっちは近距離っと。」
兄弟たちは素直に答え、自分たちの特性を伝えていく。
ハイネが腕を組んで見守るなか、ナイアは次々と兵装の積み替えを始めた。
「え? なんでも戦闘型にするのかって?」
にやりと笑いながら、ナイアは答える。
「どうせなら、守りたいもの守れた方がいいじゃん? それにリラリみたいに、両方できる方がかっこいいだろ?」
兄弟たちは一体ずつ装備を整えられていく。
丁寧な手つきで、しかし楽しそうに。
「……ナイア様、ありがとうございます。」と、ある兄弟が小さな声で呟くと、ナイアは照れたように笑った。
―――
数日後、ナイア邸の地下に案内された一同は、目の前の光景に圧倒された。
そこには、カラーボールとペンキが散乱する巨大なサバゲーフィールドが広がっていたのだ。
「……ここ、なんだよ。」
ハイネが呟くと、ナイアが得意げに胸を張る。
「ここはなぁ、俺がまだ小学生の頃、センドと遊ぶために作ってもらったんだよぉ。勝てたことないけどな!」
ハイネは遠い目をした。
「……スケールでけーな……」
リラリが穏やかに笑って、「お二人とも、意外と武道派ですよね」とナイアとセンドを見回した。
センドは小さく肩をすくめ、「……お恥ずかしい限りです」と笑う。
―――
フィールドに入ると、兄弟たちは元気に散開した。
遠距離組は高台に陣取り、カラーボールを装填。
中距離組は遮蔽物を活用し、近距離組は素早く駆け抜ける。
遊び感覚だが、動きは本物。
訓練というより、真剣なゲームだ。
そして審判席には、審判用の腕章をつけたバイトが立っていた。
「……ゲームスタート。」
バイトの声で、戦場が一気に活気づく。
ペンキ弾が飛び交い、兄弟たちの笑い声が響き渡る。
リラリがハイネの横でつぶやく。
「……皆、楽しそうですね。」
ハイネも思わず笑う。
「……ああ、こういうのもいいな。」
試合終了の笛が鳴ったあと、兄弟たちは口を揃えて叫んだ。
「――これは、愉快です!」
バイトもまた、審判席で微かに笑った。
「……はい、愉快です。」
ナイアは腕を組んで見渡し、満足そうに頷いた。
「いいねぇ……これでどんな時も、守りたいものを守れるさ。」
リラリはその横顔を見つめ、ハイネもまた、仲間たちの笑顔を胸に刻んだ。
―――
サバゲー訓練が終わった後、リビングで皆がくつろいでいると、センドが穏やかな声で口を開いた。
「……ナイア様が、これほどノリノリでいらっしゃるのには理由がございます。」
ハイネが首をかしげる。
「理由?」
センドは遠い目をして微笑む。
「ナイア様は昔から代理戦争に参加しておりましたから、おうちにお友達を招いて遊ぶ、ということができなかったのです。いつもわたくしと二人きりでした。そのため、今の状況を利用して、幼い頃の“やり直し”をしているのではないでしょうか。」
ナイアが慌てて椅子から飛び上がる。
「や、やめてよ! 恥ずかしいなもう!」
その顔は、耳まで真っ赤だった。
リラリはくすりと笑い、ナナミが小声で「可愛いとこあるじゃん」と呟いた。
―――
数日後。
ナイアが編成した兄弟たちが、いよいよ町へと派遣されることになった。
「さぁ、お前たち! 今日は町のお手伝いだぞ!」バイトを先頭に、兄弟たちは列を作って進む。
掃除、荷物運び、古い機械の修理……一人、また一人とそれぞれのお手伝い場所へ派遣されていく。
人々は感謝の声をあげ、兄弟たちはそれを静かに、しかしどこか誇らしげに受け止めた。
やがて、ナイア邸には数名の兄弟が残るだけとなった。
「よし、残りは庭の片付けでも……」とナイアが言いかけたその時。
外から警報が鳴り響く。
「――オルドのコレクションです!」
センドが鋭く告げた。
庭に突入してきたのは、またもやあの無機質な兄弟機たち。
しかし、ハートシールドと新たな兄弟たちの連携は、もはや完璧だった。
遠距離が足を撃ち抜き、中距離が牽制、近距離が一気に制圧する。
カラーボールではなく実戦用の兵装が火花を散らし、わずか数分で敵は沈黙した。
煙の中、バイトが前に進み出て、静かに横たわる機体たちを見下ろした。
その顔は、どこか柔らかい。
「……また兄弟が増えますね。」
そう呟いたその声には、確かな“愉快”が宿っていた。
ナイアは額の汗を拭いながら、肩で笑う。
「お前、もうすっかり頼れる兄貴だな。」
バイトは微かに笑って、頷いた。
――こうして、ハートシールドの家族はまた少しだけ、賑やかになったのだった。