「どうぞ。こちら、
差し出された淡い琥珀色のお茶からは、ほんのりと花と香木の香りがした。
あれからヒナタは、「話を聞かせてほしい」という男に応じ、とある屋敷へと場所を移して今に至る。別室で預かってもらっている子供たちは、どうやら軽い睡眠薬を盛られたらしい。
「大丈夫。今は一時的に深く眠ってるけれど、明朝には何事もなく目覚めるよ。きみも疲れただろう? まずはお茶でも飲んで一息ついて」
「……なぜお前が我が物顔で振る舞っているんだ」
「そりゃあこういう対応は私の役目だからね。私の
まるで主人のような優雅さで茶杯を掲げる男は、ヒナタにお茶を勧めつつも茶目っ気たっぷりに笑う。それに対し、室内でも布を取らないもう一人の男はどこか呆れた様子だ。
話の流れから察するに、どうやらここは、布を被った彼の屋敷だったらしい。
「そういえばまだ名乗ってなかったね。私は
「私は子供か。……はぁ。
軽口な藍飛と素っ気ない宝珠。
そんなやりとりに思わず表情を和らげたヒナタが小さく微笑む。
「ヒナタ・ハッセルバッハです。ヒナタが名ですが、そちらのほうが呼びやすいと思いますのでどうぞそちらでお呼びください」
「……その衣を見た時も思ったけど、どうやら本当に
「……」
藍飛の問いに、ヒナタは笑みを浮かべたまますぐには答えなかった。
そもそも他国を"異国"と呼ぶ時点で、恐らくこの国は周辺諸国との繋がりがほとんどないのだろう。
そんな文化圏で、いきなり「宇宙から来た」と説明したところで普通ならば信じてもらえるわけがない。ヒナタだって、この状況は寝耳に水なのだ。
「異国という点では、まさにその通りです。ただ、もう少し……もっと遠くから。ちなみになんですが――"銀河"という言葉はご存じですか?」
「ぎんが? いや、私は聞いたことがない。宝珠、きみは?」
「……知らん」
念のために聞いてみたが予想通りだ。
こうなると一から説明したところで理解を得るのは難しい。
(となると、やっぱり……)
そうして数秒考えたヒナタは、慎重にある提案を二人に持ちかけた。
「許可を頂けるのなら、"同調"という私のやり方で説明させていただけませんか? 数秒あれば十分ですのでお時間は取らせません」
「なんだい? その同調って」
「一言で言えば、情報共有の手段です。本などで新たな知識を得る感覚に近いかと……」
そう申し出たヒナタに、宝珠らは互いに目配せだけで言葉を交わす。
情報というのならこちらも知りたいところだし、数秒でできることなんて限られている。
ましてや別室に身を呈して守った子供たちがいる現状で、彼女がわざわざ危険を犯す理由はないだろうと、ひとまず彼らはヒナタの意向に同意を示した。
そうして二人の許可を得たヒナタは静かに目を伏せる。
軽く深呼吸をすれば、栗色の瞳が虹色に揺らいだような気もした。
「《♮~♮♪》」
言葉にならない不思議な音が波紋となり、宝珠らに届いた瞬間。
カチリ。
まるで世界の歯車が音を立てて噛み合ったように――その時、彼らは――唐突に
この世には、黎煌国以外にも無数の文明文化の異なる国があり、それは遠く遠く、どこまでも広がっているのだと。
どうして突然そう思ったのかはうまく説明できない。
ただ、
まるで遠い昔に、どこかで見聞きしたかのような、ぼんやりと、それなのに鮮明に――
一方のヒナタも、今しがた得たこの国の知識をなぞるように反芻していた。
予想通り、この国は家柄重視の身分制度があり、平民と貴族は色で判別され、髪の長さや美しさで貧富を測るなどの独自文化がある。
そして死の海と呼ばれる海域に阻まれ、国交は存在せず完全に独立しているようだ。
最低限の同調から知れるのはそれくらいだが、髪の長さは仕方ないにしても、ひとまず名前の呼び方には注意が必要だろう。
家柄が重視される国ならば、基本の呼び方は家名かフルネームと相場は決まっている。
「……この空の先には、他の人間が暮らす
ふいに呟かれた宝珠の独り言に、意識を戻したヒナタはこくりと頷いた。
やはり新規惑星での
想定外ではあったが、ここは銀河ネットワークの外側――
指定された未開惑星に赴き、現地調査等を行い、銀河ネットワークに加盟するに足るか否かを判断する。
それこそが
通称:GCOに所属するヒナタたち、"