9月1日 18:00
私はクラスの代表として始業式をすっぽかした問題児の生徒の家にやって来た。
何度もこの家にやってきているから既に顔馴染みになってしまった家政婦さんとの挨拶もそこそこに彼の部屋へ。
やたら広い彼の部屋にやってくると彼は机で何かをしていた。
何をしているのかと手元を覗き込めば夏休みの宿題がズラリ。
彼は私に気づいたようだが手を止めずに宿題を続けた。
「どうした?」
「いや、どうしたじゃないわよ。
あんた、宿題が終わってなかったから学校に来なかったの?」
「俺は元々今日は休む予定だったんだ」
「頭のいいアンタが何で宿題をやってないのよ」
「終業式の前に拓郎と夏休みに宿題をやらない約束をしたんだ」
「馬鹿なの?
てか逆に何で今宿題をやってるのよ」
「麻衣ちゃん先生に宿題は必ずやるとも約束したんだ。
この方法なら夏休み中に宿題はせず宿題をすべてやったことになる。
これで二人の約束を守れたことになる。」
「…呆れた。
あんた二人との約束を守る為だけに始業式すっ飛ばしたの?」
「もちろん、俺は必ず約束を守る男だからな。
それに今日は大した予定も無いだろう」
「…確かにそうだけど、なら最初から学校に来なさいよ」
「どうでもいい奴が決めたどうでもいい慣習など守る必要は無いだろう。
俺は人と正面からした約束には従うが、誰が決めたかもわからない無意味なルールには従わない主義なんだ」
「呆れた…。
あ。でもそれなら私と約束をすれば毎日学校に来てくれる?」
「約束をすればな。
だが、面白くない約束はしないぞ」
「…私があんたと会いたいからって理由じゃダメ?」
彼の手が少し止まってから再び動き出す。
「ちょっとばかし良いかもと思ってしまったが薄いな。
お前は破天荒な俺の方が好きなんだろう」
「好きとか言うな!別にあんたのことなんて好きじゃないんだから!!キモっ!」
「第三者が見たら誤解を招く発言だぞ」
「…確かに。
気を付けるわ」
言われて理解したが確かにその通りである。
この男は頭が良く、義理堅いが優等生と言う事は無くどちらかと言えば不良だ。
私を含めた色んな人と仲が良く、頭が柔らかく面白いことは率先してやるが無礼だし、空気読まないし集団行動をとらない。
こいつは一般から大きく離れていて一緒にいるとハラハラさせられて心臓に悪いのだ。
私は委員長と言う立場上こいつと接点を持つ事になったが本来ならぜったい一緒に居たくない相手である。
私がそんな事を考えていると彼が立ち上がる。
「よし、終わった」
「お疲れ」
「おい、委員長。
この後暇か?」
「…生憎暇だけど何?」
「いや、中学三年生、人生最後になるだろう夏休みの思い出を作ろうと思ってな」
「…はぁ?
夏休みは昨日終わったわよ」
「登校するまでは夏休みだ。
俺の夏休みはまだ終わってないんだよ」
「何それ、バカじゃないの?」
屁理屈が凄い。
―――と、そこで私はあることに気づいた。
「あ。でもその理屈だとあんた夏休み中に宿題したことにならない?」
彼の顔が歪む。
一本とれた嬉しさに思わず口から笑いが漏れた。