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29 魔族少女シノ★アリシア

 Aランク冒険者のパーティは、例の最深部の地下鉄ホームも見たらしいが異世界人だったのでよく理解が出来なかったようだ。金属製の乗り物か何からしいというのは分かったみたいだけど。

 そんな話をしながらひたすら階段を登りつづけた。


 レベッカさんが「この階段、とうとう二〇〇〇段を越えたわよ」というと皆がぐったりとした。


 だが階段の上の方から鼻をつく涼しい潮風が降りてきた。

「この風は海風だ!」

 どうやら出口が近いらしい。ボクたちは階段を駆け上がった。


 外の光が見える。


 外だ! しかし出口付近まで行くとその光景に驚いた。


 そこは断崖絶壁だった。下方に波打つ海岸が見える。高さはどれ位だろうか、アタランテ帝都の城壁くらいはありそう。そしてその出口より少し手前に階段を発見し、そこを登る。




 どれくらい登っただろうか、あの断崖絶壁が見えたところからかなり上がった気がする。レベッカさんがこれまた律儀に登った階段を数えていた。なんと二百五十六段。


 そしてついに外に出た。


 上部は平らな開けた場所になっていて、そこら一帯が天然の芝生のような草原になっている。


 草原の真ん中には小さな階段ピラミッドがあった。ところどころ崩れていはいるが、かろうじて「ピラミッドだろうな」と分かる形状を残している。


 古代魔法技術王国ゴンドーラ遺跡の一部だろうか。


「ねえ見て! あそこに誰かいる!」

 クボちゃんが声を上げた。ピラミッドの上部に人がいる。


「えっ、どこ? ピラミッドのところ?」

「そう、あのてっぺんの平たいところに、モゾモゾと動いているのが見えたの」

 皆が注目した。確かに人影が見えたとクボちゃんは言っているが姿が見えない。


 よく見ると、ピラミッドの斜面に座って空を見上げている、長い黒髪の長身な女性が居た。


「……!」


 森久保先輩か!?


 ボクはそのピラミッドに走った。先輩! 森久保先輩! ボクの事を覚えていないかもしれないけど、とにかく会って話をして確認したい。


 他のみんなも走って付いてくる。




 ピラミッドは、外側は一段が人の身長ほどの階段状になっていて、そこからは登りにくい。高さは三階建ての宿屋くらいだろうか、あまり大きなものではない。裏側に回ると、人が登りやすいサイズの階段があった。


「何者だッ!?」


 見覚えのある軍服と甲冑の兵士が三人いた。アタランテ帝国の警備隊と騎士団の甲冑兵だ!


「危険だ。先生たちはボクたちの後ろへ!」

「わかった。お前たちも来い」

 考古学の先生は、学生二人を引き連れて、後ろに下がった。


 唐突なアタランテ帝国兵に驚くボクら一行。しかし多勢に無勢。こちいらが有利だろう。なにせ剣聖クボちゃんもいるのだから。


「あっ、黒髪の女性が!」

 警備隊の制服の男が、女性を捕縛していた。彼女が探索隊に同行していた女性なのだろうか。


「あの子です。あの黒髪の女性です」

 探索隊の回復系魔法使いの女の子が教えてくれた。


「ちっ、ミヨイ王国の連中か……面倒なことになりそうだな。構わない、ほっといて俺達は帝国に飛ぶぞ」

「はっ!」


 まずい、女性が連れて行かれてしまう。というよりここからどうやって帝国へ飛ぼうというのか……。


「おそらく空間ジャンプを使うつもりね」

「なんですかそれは!!」


 また何かよく分からないことをレベッカさんが言い出した。


「彼らは異世界から勇者を転移召喚する術はもっていないのだけれど、この世界の中での空間転移の研究はしていたんです。それがもし完成していたとしたら、ここに居たのも納得が出来る」


「いけない! シノちゃん、アリシアちゃん! 魔法少女に変身だ!」

「ふぁっ!?」


「このタイミングでなんとか出来るのは、シノちゃんの淫夢魔法以外にないッ! さあ早く!」


 確かに、いま空間転移とやらで帝国に飛ばれては、黒髪の女性を連れ去られてしまう。よぉし!


「わかった、変身!」

「私もですか? へ、変身!!」

 ボクとアリシアさんは、魔法少女に変身した! その時間わずかコンマ五秒。


「いやぁぁぁん、なにこの格好!」

 うわ、アリシアさん今度は、ボクが最初に変身した時のツノ付き魔族少女の格好になっている。それも布面積が少ないビキニアーマーだ。


 ボクはといえば、最初の淫夢魔法を使った時の、ツノつき魔族少女だ。これなら戦えるッ!


「ひょおおおお!! シノちゃん、かわいい! 髪がピンクになってるう」

「冷やかしはやめてください。これでも恥ずかしいんですからぁ!」

 金髪冒険者パーティのリーダーの男がボクの格好を茶化す。やめて。


 そんなことをしている間にも、帝国兵が空間転移術式を開始したようだ。兵たちの頭上に、青白く輝く光の粒子が渦をまいて集まりだした。


「はっはっは、ミヨイ王国の戦術は研究済みだ。我々はこの黒髪の女を連れて帰らせてもらおう」


「ま、まて!」

「シノちゃん、早く! 魔法を!」

 ベルンハルトが叫んだ。


 あの時のように。うーん、うーん、兵たちを足止めしてっ!

 そう頭の中で魔法を発動するイメージを浮かべた。



          ―― つづく


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